孤立するアメリカ 3
2018年1月21日 寺岡克哉
トランプ大統領が、またもや愚かな発言をして、国際社会から非難を
浴びています。
ワシントン・ポストなど、アメリカの複数のメディアによると、
トランプ大統領は1月11日、移民政策をめぐる超党派の上院議員団
との会合で、
アフリカ諸国や、カリブ海の島国であるハイチを名指しして、
「なぜ、これら肥だめ(注1)のような国々から、アメリカに人を受け
入れなければならないのか」
と、侮辱的な発言をしたといいます。
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注1 肥(こえ)だめ:
トランプ大統領が発したのは、「shithole シットホール」という言葉
です。
これを直訳すると「糞の穴」となりますが、「肥だめ」とか「野外便所」
という意味になるそうです。
本サイトでは、「肥(こえ)だめ」という訳を使うことにしました。
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アメリカのマスコミ報道によると、
戦争や災害などの理由で出身国から追われた人々を、人道的に
受け入れる一時的な在留資格(TPS)について、民主党の議員が
対象国のハイチに触れた時に、
トランプ大統領が、「なぜハイチ人がもっと必要なのだ。追い出せ」
と、発言したといいます。
また、ハイチのほか、エルサルバドル、ニカラグア、ホンジュラスの
中米・カリブ諸国や、アフリカ諸国を指して、「 ”肥だめ” のような国」
と表現したといいます。
* * * * *
1月12日。
スイスのジュネーブに本部を置く、国連の人権高等弁務官事務所は
声明を発表し、
「(トランプ大統領の侮辱的な発言についての報道が)事実であれば
恥じるべき発言で、トランプ大統領は人種差別主義者だとしか言いよう
がない」と、強く非難しました。
その上で、
「低俗な言葉遣いにとどまらず、人種差別を助長するもので、第2次
世界大戦と、ユダヤ人の大量虐殺のあと、世界が懸命に確立しようと
してきた普遍的な価値観に反する」と、厳しく指摘しています。
同1月12日。
アフリカのボツワナ政府は声明を発表し、報道されている発言を、
「人種差別的なものだ」と非難しました。
その上で、ボツワナに駐在するアメリカ大使を呼び出して、実際に
ボツワナを「肥だめのような国)と見なしているのかを、問いただしま
した。
また、
ハイチ政府も声明を発表し、「深いショックを受け、憤慨している」と
した上で、
「(トランプ大統領の)発言が本当であれば、ハイチ人社会に対する
まったく誤った人種差別的な見方だ」と、反論しています。
このほか、
中米のエルサルバドル政府は、発言に抗議する書簡をアメリカ政府
に送ったことを、声明で明らかにしています。
同1月12日。
国連に加盟しているアフリカの全54ヶ国の大使たちは、アメリカで緊急
会合を開き、トランプ大統領を非難し、謝罪を求める共同声明を発表しま
した。
声明では、「常軌を逸した人種差別的な発言に驚きあきれ、強く非難す
る」としており、発言の撤回と謝罪をトランプ大統領に要求しています。
その上で、「アメリカの政権が、アフリカ大陸や有色人種への中傷を
強めている」という懸念を表明し、
さらには、カリブ海の島国ハイチなどの人々との「連帯」もアピールしま
した。
また、その一方で、
トランプ大統領の発言を非難するアメリカの人々には、謝意を示してい
ます。
同1月12日。
AU(アフリカ連合 注2)は声明を出し、「強い怒りと失望、憤り」を表明
しました。
そして、アメリカが掲げる信条や多様性尊重の精神を汚す発言だと、
強く非難しています。
その上で、(トランプ大統領は)発言を撤回し、アフリカの人々だけでなく
全世界にいるアフリカ系の子孫に、謝罪してほしいと要求しました。
さらにAU(アフリカ連合)は、トランプ政権がアフリカ大陸を深く誤解して
いるという見方を示しており、同政権とアフリカ諸国による対話の必要性を
強調しています。
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注2 AU(アフリカ連合):
アルジェリア、アンゴラ、ベナン、ボツワナ、ブルキナファソ、ブルンジ、
カーボベルデ、カメルーン、チャド、コモロ、中央アフリカ、コートジボワール、
コンゴ民主共和国、ジブチ、エジプト、赤道ギニア、エリトリア、エチオピア、
ガボン、ガンビア、ガーナ、ギニア、ギニアビサウ、ケニア、レソト、リベリア、
リビア、マダガスカル、モロッコ、マラウイ、マリ、モーリタニア、モーリシャス、
モザンビーク、ナミビア、ニジェール、ナイジェリア、コンゴ共和国、ルワンダ、
西サハラ、サントメ・プリンシペ、セネガル、セーシェル、シエラレオネ、
ソマリア、南アフリカ共和国、南スーダン、スーダン、スワジランド、タンザニア、
トーゴ、チュニジア、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエの、55ヶ国。
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同1月12日。
トランプ大統領は、「肥だめのような国」発言についてツイッターに、
「厳しい言葉は使ったが、そんな言葉ではない」と書き込んで、報道
を否定しました。
さらに、「ハイチは非常に貧しく、問題が多い国だということ以外に、
ハイチ人を侮辱するようなことは言っていない。野党・民主党の議員に
よるでっち上げだ」と、反論しています。
が、しかし、
民主党幹部のダービン上院議員は、同1月12日に記者会見を開き、
「トランプ大統領は否定したが、真実ではない。大統領は下品で人種
差別的なことを繰り返し言った」と述べて、報道されたとおりだと強調し
ました。
その上で、「ホワイトハウスの大統領執務室で、そんな言葉を使う
大統領がいるなんて信じられない。失望した」と述べて、トランプ大統
領の姿勢を厳しく批判しています。
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1月13日。
CARICOM(カリブ共同体)は声明を出し、トランプ大統領がハイチ、
エルサルバドル、アフリカ諸国を、「不快きわまりない言葉」で呼んだ
ことを非難しました。
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注3 CARICOM (カリブ共同体):
アンティグア・バーブーダ、バハマ、バルバドス、ベリーズ、ドミニカ国、
グレナダ、ガイアナ、ハイチ、ジャマイカ、セントクリストファー・ネイビス、
セントルシア、セントビンセント・グレナディーン諸島、スリナム、
トリニダード・トバゴ、モントセラトの、14ヶ国と1地域。
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声明では、
「ハイチが、西半球でアメリカに次いで2番目に誕生した民主主義国家
で、ハイチ人が多くの分野で国際社会、とくにアメリカに著しい貢献を続け
ていることを思い出さなければならない」
「したがって、名指しされた国々の特徴や、その国民に対する侮辱は
到底受け入れられない」
として、トランプ大統領の「極めて侮辱的な発言」に対する、ハイチ政府
の対応について、
CARICOM(カリブ共同体)は、「全面的な支持」を表明しています。
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最近のアメリカの動向を見ていて、私は思うのですが・・・
昨年の12月に、トランプ大統領が「エルサレムをイスラエルの首都と
認める」と宣言した問題で、
56の国と地域が所属するOIC(イスラム協力機構)と、アメリカが対立
してしまいました。
そして、このたびの「肥だめのような国」発言で、
55ヶ国が所属するAU(アフリカ連合)と、14ヶ国と1地域が所属する
CARICOM(カリブ共同体)とも、アメリカは対立してしまったのです。
さらにアメリカは、中国やロシアとも仲が良いとは言えませんし、
ドイツやフランス、イギリスなどのヨーロッパ諸国でさえも、トランプ大統
領の度重なる「愚かな発言」には、辟易(へきえき)しています。
これらのことから、
「アメリカの孤立化」が、どんどん進んでいると言わざるを得ません!
そしてこれは、
アメリカと強い同盟関係にある「日本」にとっても、まったく望ましいこと
ではないのです。
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