孤立するアメリカ 2
2017年12月31日 寺岡克哉
前回で述べましたように、12月18日に行われた国連の安全保障理事会
で、
「エルサレムの地位の変更は、無効で撤回されるべきだ」とする決議案が、
アメリカの拒否権行使によって「否決」されてしまいました・・・
これを受けて、12月19日。
アラブ諸国代表のイエメンと、OIC(イスラム協力機構 注1)代表のトルコ
が共同で、国連の「緊急特別総会 注2」の開催を要請しました。
そして同日のうちに、
「エルサレムの地位の変更は、無効で撤回されるべきだ」とする決議案が、
国連の全加盟国に配布されました。
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注1 OIC(イスラム協力機構):
イスラム諸国をメンバーとして構成され、国際連合に対して常任代表権
をもつ国際機構。 国連を除けば最大の国際機関。
現在の加盟国は、アゼルバイジャン、アフガニスタン、アラブ首長国連邦、
アルジェリア、アルバニア、イエメン、イラク、イラン、インドネシア、ウガンダ、
ウズベキスタン、エジプト、オマーン、ガイアナ、カザフスタン、カタール、
ガボン、カメルーン、ガンビア、ギニア、ギニアビサウ、キルギス、クウェート、
コートジボワール、コモロ、サウジアラビア、シエラレオネ、ジブチ、スーダン、
スリナム、セネガル、ソマリア、タジキスタン、チャド、チュニジア、トーゴ、
トルクメニスタン、トルコ、ナイジェリア、ニジェール、パキスタン、パレスチナ、
バーレーン、バングラデシュ、ブルキナファソ、ブルネイ、ベナン、マリ、
マレーシア、モザンビーク、モーリタニア、モルディブ、モロッコ、ヨルダン、
リビア、レバノンの、56の国と地域。
注2 緊急特別総会:
「緊急特別総会」は、安全保障理事会が国際の平和と安全の維持に
おいて結束できず、主要な責任を果たしていない場合に、適切な勧告を
行う目的で開かれます。
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同12月19日。
国連総会は、12月21日に「緊急特別総会」を開くことを決定しました。
* * * * *
12月20日。
アメリカのトランプ大統領は、この日の閣議で、12月21日に行われる
国連の緊急特別総会について、
「各国の投票を注視している」
「数億ドルや数十億ドルも受け取っておきながらアメリカに反対するなら、
すればいい」
「われわれは、たくさん節約できるだけだ。気にしない」
と述べ、アメリカの意向に逆らって決議案に賛成する国には、財政支援
を打ち切る構えを示して、強くけん制しました。
ちなみに、OECD(経済協力開発機構)の統計によると、
去年のアメリカの政府開発援助の金額は、およそ331億ドル(およそ3兆
7600億円)に上っており、「世界一」となっています。
これは、5位である日本の3.5倍もの金額で、アメリカ1ヶ国で拠出国全体
の、およそ4分の1を占めています。
* * * * *
12月21日。 国連の「緊急特別総会」が開かれました。
この会議で行われる、「エルサレムの地位の変更は、無効で撤回される
べきだ」とする決議案の「採決」に先立ち、
決議案を提案した、トルコのチャウシュオール外相は、
「トランプ大統領の決定は国際法に反し、国際社会に対するとんでもない
攻撃だ」
「さらに、決議案に賛成すれば援助を打ち切ると脅迫する態度は、到底
受け入れられない」
「票や国々の尊厳を、金で買うようなやり方は倫理的に許されない」と、
強く非難しました。
また、パレスチナ暫定自治政府のマリキ外相も、
「トランプ大統領の決定は、パレスチナ人が持つ権利を侵害している」
「われわれと国際社会の警告を無視するもので、中東和平の仲介役を
務めてきたアメリカの地位にも影響を及ぼすだろう」
と述べて、今後の和平交渉への影響も避けられないと主張しました。
これに対し、
アメリカのヘイリー国連大使は、アメリカが国連に対する最大の拠出国
であると強調した上で、
「決議案に賛成の国々が、今後、アメリカの援助や影響力の行使を求め
るたびに、われわれは今日、攻撃を受けたことを思い出すだろう」
と述べ、決議案に賛成した国々への、支援の打ち切りも辞さない姿勢を
示して、
決議案に賛成しないようにと、各国に釘(くぎ)を刺しました。
しかしながら、「採決」が行われた結果、
アメリカやイスラエルなど9ヶ国が反対し、カナダやオーストラリアなど
35ヶ国が棄権したものの(注3)、
日本、イギリス、フランス、中国、ロシアなどを含む128ヶ国の賛成
多数により、決議が採択されました!
ちなみに、国連総会の決議に拘束力はありません。
が、しかし、アメリカの圧力にもかかわらず、国連加盟国(193ヶ国)の
うち、およそ3分の2が賛成して、決議が採択されたわけであり、
アメリカに対する国際社会の反発が、明確に示されたと言えます。
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注3 決議案の採決で、反対、棄権、欠席した加盟国は次の通り。
反対:9ヶ国
グアテマラ、ホンジュラス、イスラエル、マーシャル諸島、ミクロネシア、ナウ
ル、パラオ、トーゴ、アメリカ。
棄権:35ヶ国
アンティグア・バーブーダ、アルゼンチン、オーストラリア、バハマ、ベナン、
ブータン、ボスニア・ヘルツェゴビナ、カメルーン、カナダ、コロンビア、
クロアチア、チェコ、ドミニカ共和国、赤道ギニア、フィジー、ハイチ、ハンガリー、
ジャマイカ、キリバス、ラトビア、レソト、マラウイ、メキシコ、パナマ、パラグアイ、
フィリピン、ポーランド、ルーマニア、ルワンダ、ソロモン諸島、南スーダン、
トリニダード・トバゴ、ツバル、ウガンダ、バヌアツ。
欠席:21ヶ国
中央アフリカ、コンゴ民主共和国、エルサルバドル、ジョージア、ギニアビサ
ウ、ケニア、モンゴル、ミャンマー、モルドバ、セントクリストファー・ネビス、セン
トルシア、サモア、サンマリノ、サントメ・プリンシペ、シエラレオネ、スワジランド、
東ティモール、トンガ、トルクメニスタン、ウクライナ、ザンビア。
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パレスチナ暫定自治政府の、アッバス議長の報道官は、決議が賛成多数
で採択されたことを受けて声明を出し、
「決議の採択は、パレスチナが国際社会の支持を得られていることを改めて
示してくれた」と、歓迎しました。
また、「決議の採択は、誰がどんな決定をしても、エルサレムの地位を変更
することはできず、エルサレムは国際法上、占領状態にあることが再確認さ
れた」として、
アメリカが、エルサレムをイスラエルの首都と認定したことは、無効だと
主張しました。
さらにまた、採決に先立って、アメリカが決議に賛成する国への財政支援を
打ち切る構えを示したことを念頭に、
「国際社会はパレスチナ人の側にあり、脅しには屈しないことを示してくれた」
として、決議に賛成した国々への「感謝の意」を表しています。
* * * * *
以上、ここまで見てきましたが、
アメリカが、かなり「エグイ」手を使ってきたにも拘(かかわ)らず、
国連加盟国のうち、およそ3分の2もの国々が、アメリカの意向に逆らった
というのは、
おそらく「前代未聞」のことではないでしょうか。
しかしながら、
国連加盟国のうち、およそ3分の1の国々は、アメリカの意向に逆らうこと
が出来ませんでした。
やはり、今なお「アメリカの影響力は大きい」と、言わざるを得ません。
ところで、
またしても日本は、アメリカの意向に逆らって、決議の「賛成」に回りま
した。
これに関して、菅・官房長官は記者会見で、
「わが国は、イスラエル・パレスチナ間の紛争の2国家解決を支持して
いる」
「エルサレムの最終的地位の問題も含め、これまで採択されてきた関連
する安保理決議や、当事者間の合意に基づいて、当事者間の交渉によっ
て解決すべきという立場だ」
「こうした立場をふまえて決議案に賛成した」と、述べています。
また、ある報道記事によると、日本の政府高官が、
「アメリカとは常日ごろ連携(れんけい)している。理解は得られたはずだ」
と述べており、
「アメリカとの調整の結果」として、このたびの判断に至ったことを明かし
ています。
私たちの国である日本は、
北朝鮮の核・ミサイル問題にたいして、アメリカとの緊密(きんみつ)な
協力関係を築いて行かなければなりません。
しかしながら、中東問題で国際社会から孤立しているアメリカに、近づき
過ぎても具合が悪くなってしまいます。
これまでのように、ただ「ベッタリ」とアメリカに追従していれば、それで
良いと言うわけではなく、
外交における微妙で難しい「バランス感覚」が、とても重要な時代になっ
てきました。
2017年という年は、
そのような時代へと、日本が突入してしまった年なのかも知れません。
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