孤立するアメリカ 1
                             2017年12月24日 寺岡克哉


 北朝鮮の情勢が気になるところですが、

 じつはアメリカのトランプ大統領が、「エルサレムをイスラエルの首都と
認める」
と、宣言したため、

 パレスチナやイスラム諸国を中心にして、アメリカへの反発が広がって
います。



 そのような状況のなか、国連の安全保障理事会は12月18日。

 「エルサレムの地位の変更は、無効で撤回されるべきだ」とする、エジ
プトが提出した決議案の「採決」が行われました。

 その結果、15の理事国(注1)のうち、イギリスやフランス、そして日本
を含む14ヶ国が賛成しましたが、

 アメリカの1国だけが、常任理事国のみに認められた「拒否権」を行使
して、決議案は否決されてしまったのです。

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注1: 2017年現在における、国連安全保障理事会の理事国は、

 アメリカ・イギリス・フランス・ロシア・中国の、5ヶ国の常任理事国と、

 エチオピア・カザフスタン・ボリビア・スウェーデン・イタリア・エジプト・
セネガル・ウクライナ・ウルグアイ・日本の、10ヶ国の非常任理事国
の、

 合わせて15ヶ国となっています。
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 ちなみにアメリカは、国連の安全保障理事会で、

 北朝鮮の核・ミサイル問題にたいし、国際社会の結束を呼びかけて
いますが、

 エルサレムの問題については、アメリカが孤立を深めており

 今後、イスラム諸国を中心にしてヨーロッパ諸国をも含め、アメリカ
に対する批判がさらに高まって行きそうです。


            * * * * *


 ところで話が前後しますが、トランプ大統領は12月6日。

 ホワイトハウスで演説し、中東のエルサレムについて

 「イスラエルの首都と認める時が来た。これは現実を認めることで、
正しいことだ」などと述べて、

 エルサレムがイスラエルの首都であることを、公式に認めると宣言
しました。


 その上で、

 国務省にたいして、現在テルアビブにあるアメリカ大使館を、エルサレ
ムに移転する準備を始めるように指示することを、明らかにしたのです。



 しかしながら・・・ エルサレムという都市は、

 イスラエルが首都だと主張しているものの、イスラエルの占領下にある
パレスチナ側も、将来の独立国家の首都と位置づけており、

 国際社会としては、エルサレムをイスラエルの首都だとは、ぜんぜ
ん認めていません。




 なので、12月6日という、この日。

 世界中が大騒ぎになり、アメリカにたいする批判が、世界的に巻き
起こりました。




 まず、イギリスのメイ首相が声明を発表し、

 「エルサレムの地位は、イスラエルとパレスチナの交渉によって決められ
るべきだ」とする、従来の立場を強調したうえで、

 「アメリカの決定は和平のためにならず、イギリスは反対だ」と述べました。



 フランスのマクロン大統領は、訪問先のアルジェリアで声明を発表し、

 「遺憾で受け入れられず、国際法や国連安全保障理事会の決議に違反
する決断だ」と述べて、トランプ大統領の決断を非難しました。

 その上で、フランス政府としては、エルサレムが(イスラエルの)首都で
あるとは認めないことを強調しました。



 ドイツのメルケル首相は、声明を出し、

 「トランプ政権のエルサレムについての立場を支持しない」

 「エルサレムの地位は、イスラエルとパレスチナの2国共存に向けた交渉
の一環として解決されるべきだ」と、述べました。



 エジプトの外務省は、トランプ大統領の決断を非難する声明をだし、

 地域の安定や和平プロセスの今後に、「悪影響」を与える恐れがあると
して、憂慮の念を示しました。



 イランの外務省は、声明を発表し

 「イスラム教徒をあおりたて、過激主義や暴力を助長するものであり、その
責任を(アメリカが)負うことになるだろう」として、トランプ政権を強く非難しま
した。

 その上で、「アメリカ政府の挑発的な決定は、この地域の平和と安定の
ためにならないどころか、アメリカの信用をさらに失わせるものになるだろう」
として、

 イスラム諸国などと連携して決定を見直すよう、トランプ政権に求めていく
としています。



 トルコの外務省は、

 「無責任な発表を大きな危惧を持って受け止め、非難する」という、声明を
出しました。

 また声明では、アメリカ政府の決定が、国際法やこれまでの国連決議に
違反するものだとして

 「国連安全保障理事会の常任理事国であるアメリカが、(国際法やこれまで
の国連決議を)無視することは許されない」と、指摘しています。

 その上で、「地域の安定に否定的な影響を及ぼし、中東和平の土台を完全
に損なうおそれがある」として、アメリカ政府にたいし決定を見直すように求め
ています。



 さらには、

 国連のグテーレス事務総長も、ニューヨークの国連本部で声明を発表し、

 「いかなる一方的な措置も、中東和平の見通しを危うくする」と述べて、トラ
ンプ大統領の対応を批判しました。

 その上で、「エルサレムの最終的な地位は、国連安全保障理事会などの
決議に基づいて、イスラエルとパレスチナ双方の合法的な懸念を考慮に入れ
ながら、直接交渉によって解決されるべきだ」と、指摘しています。


              * * * * *


 12月9日には、

 アラブ連盟(注2)が、エジプトの首都カイロで、外相級の緊急会合を開き
ました。

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注2 アラブ連盟:

 エジプト、シリア(2011年11月16日より加盟資格停止)、イラク、ヨル
ダン、レバノン、サウジアラビア、イエメン、リビア、スーダン、モロッコ、
チュニジア、クウェート、アルジェリア、アラブ首長国連邦、バーレーン、
カタール、オマーン、モーリタニア、ソマリア、パレスチナ、ジブチ、コモロ
の、22の国と地域から成ります。
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 この会合において、

 パレスチナ暫定自治政府のマリキ外相が、国連安全保障理事会
の非常任理事国を務めるエジプトに対して、

 「アメリカの決定を拒否する決議案」を提出するように呼びかけま
した。



 また、アラブ連盟のアブルゲイト事務局長が、

 「パレスチナとイスラエルの和平を進めてきたアメリカに対する、アラブ
の信頼を損ねた」と述べるなど、

 アメリカを厳しく非難する意見が相次ぎました。



 会合が終了したあと、アラブ連盟は共同声明を発表し、

 「アメリカの決定に法的な拘束力はなく、地域の緊張を高め混乱を招く
ものだ」とした上で、

 アメリカにたいし、(エルサレムをイスラエルの首都と認めた)決定を、
撤回するように求めています。


              * * * * *


 上のような経緯で、

 「エルサレムの地位の変更は、無効で撤回されるべきだ」とする決議案
を、国連の安全保障理事会にエジプトが提出したわけですが、

 最初で述べたように、12月18日に行われた採決で、15の理事国の
うち14ヶ国が賛成したにもかかわらず、

 アメリカの1国だけが拒否権を行使したため、この決議案は否決された
のでした。



 このことによる、

 国際社会からのアメリカの「孤立」は、そうとうなものと見るべきで
しょう。



 とくに私が驚いたのは、

 アメリカに追従するものとばかり思っていた「日本」でさえ、

 アメリカの意向に逆らったことです。



 これについて菅・官房長官は、

 「イスラエルとパレスチナ間の紛争は、エルサレムの最終的な地位
の問題も含め、当事者間の交渉により解決すべきであるという立場に
変わりはない。この立場を踏まえ賛成票を投じた」

 と、説明しています。



 「日本も、アメリカに逆らうときは逆らうのだ」という姿を、珍(めずら)し
く見た思いがします。



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