北朝鮮リスクが増大 5
2017年9月17日 寺岡克哉
国連安全保障理事会は、9月11日。
核実験を9月3日に強行した、北朝鮮に関する公開会合を開き、
アメリカが主導する制裁強化決議案を、全会一致で採択しました。
その要旨は、次の通りです。
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北朝鮮制裁決議の要旨
核実験
○北朝鮮による9月3日の核実験は過去の安保理決議に違反しており、
最も強い表現で非難。
資産凍結
○朴永植(パク・ヨンシク)人民武力相を、資産凍結・渡航禁止の対象に
追加指定。朝鮮労働党中央軍事委員会など3団体の資産を凍結。
貨物検査
○貨物船が安保理決議で定めた禁輸物資を積んでいると疑われる場合、
船籍国の同意を得て、公海上で検査することを全加盟国に要請。
分野別
○北朝鮮への天然ガス液(天然ガソリン)や、天然ガス副産物の軽質原
油コンデンセートの輸出を禁止。
○石油精製品の調達は2017年10~12月が上限50万バレル。2018
年以降は年間上限200万バレル。
○北朝鮮への原油供給量は決議採択後の12ヶ月で、採択前12ヶ月の
総量内。
○安保理制裁委の許可がない場合、北朝鮮からの繊維製品の輸出禁止。
生地やアパレル製品を含む。
○例外規定を除き、北朝鮮からの出稼ぎ労働者に対する就労許可を禁止。
獲得した外貨が核・ミサイル開発に使われている点を懸念。
共同企業体
○北朝鮮の個人・団体と共同企業体(JV)を開設、維持、運営することを
原則禁止。
制裁履行
○全ての加盟国に制裁履行の取り組み強化を要請。
政治関連
○北朝鮮が核実験、弾道ミサイル発射をした際には、さらなる重大な措置
を取る。
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ちなみに、この制裁決議の採択によって、
原油と石油精製品を合わせた北朝鮮への供給量が、およそ30%減少し、
北朝鮮からの輸出の90%以上が、禁止対象になったと見られます。
このたびの制裁決議を主導してきたアメリカの、ヘイリー国連大使は、
「北朝鮮が核兵器を世界中のどこへでも運搬する能力を持ち、核の兵器庫
となる道を突き進むのを止めなければならない。」
「私たちは戦争を求めてはいない。」
「北朝鮮は後戻りできない段階には達していない。」
「もし、核開発を停止することに同意するなら、国の未来を取りもどすことが
できる。」
「一方で、危険な道を進み続けるのなら、さらなる圧力をかけ続ける。」
「選ぶのは北朝鮮だ。」
と、安全保障理事会の議場で述べて、北朝鮮に核・ミサイル開発の断念を
迫っています。
* * * * *
一方、9月12日。
北朝鮮の韓大成(ハン・デソン)駐ジュネーブ国際機関代表部大使は、国連
軍縮会議において、
安全保障理事会が採択した北朝鮮への追加制裁決議について、「違法で
不法な決議を全面的に否定する」と、発言しました。
また、北朝鮮の今後の対応として、「アメリカが過去に経験したことのない
最大の苦痛を与える」と、述べています。
さらに、韓大成(ハン・デソン)大使は、
アメリカのトランプ政権が「政治、経済、軍事の対立をあおっている」と非難
しました。
その上で、「すでに完了の段階に達した北朝鮮の核兵器開発を転覆させる
ことに執着している」と、指摘しています。
同 9月12日。
アメリカのトランプ大統領は、ホワイトハウスで記者団にたいし、北朝鮮へ
の追加制裁決議について、
「とても小さな一歩で、大きな取引ではない。どれだけ影響があるか分から
ない」と、述べました。
これは、制裁決議の「当初案」から内容が後退したことに対して、不満を
示したものと見られます(注1)。
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注1:
このたびの制裁決議では、当初案にあった北朝鮮への石油の全面禁輸や、
金正恩(キム・ジョンウン)委員長の資産凍結といった内容から、大幅に後退
しています。
つまり、石油については北朝鮮への輸出量の上限規制にとどまり、金正恩・
委員長の資産凍結も、盛り込まれませんでした。
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しかし一方で、トランプ大統領は、
「制裁に何らかの効果があるかどうか分からないが、15対0で採択され
たことは確かに良かった」と指摘しており、
中国やロシアも足並みをそろえ、安保理の全会一致で制裁決議が採択
されたことを歓迎しています。
* * * * *
北朝鮮の外務省は、9月13日の朝。
KCNA(朝鮮中央通信)を通じて、安保理制裁決議への反応を初めて
出し、
「わが国の正々堂々たる自衛権を奪い、経済封鎖によって完全に窒息
させることを狙った、極悪非道な挑発行為の産物であり、全面的に排撃
する」と、強く反発しました。
その上で、「われわれはアメリカと均衡を成して、自主権と生存権を守り、
地域の平和と安全を保障するための力の強化にさらに拍車をかける」
として、核・ミサイル開発を一段と加速させる姿勢を強調しています。
* * * * *
KCNA(朝鮮中央通信)は、9月14日。
「取るに足らない日本列島の4つの島を、核爆弾により海に沈め
なければならない。」
「日本は、もはや、わが国の近くに置いておく存在ではない。」
とする、北朝鮮の朝鮮アジア太平洋平和委員会による報道官声明を
伝えました。
さらに、この報道官声明では、
「日本列島をわが国のICBM(大陸間弾道ミサイル)が飛び越え
ても、正気に返らない日本人に、有効な一撃を加える必要がある。」
と、日本にたいして威嚇(いかく)をしています。
これに対して菅・官房長官は、同日午前の記者会見で、
「極めて挑発的な内容で言語道断であって、地域の緊張を著しく高め
るもので断じて容認することはできない」
と、批判しました。その上で、国連安全保障理事会による制裁決議の
履行により、
「国際社会全体で最大限の圧力をかけて北朝鮮の政策を変えなけれ
ばならない」
と、訴えています。
* * * * *
9月15日。
北朝鮮は、この日の午前6時57分ごろ。
首都・平壌(ピョンヤン)の順安(スナン)地域周辺から、弾道ミサイル
1発を、北東の方向に発射しました。
日本政府によると、
弾道ミサイルは午前7時4~6分ごろに、渡島(おしま)半島から襟裳
(えりも)岬の上空を通過し、
午前7時16分ごろに、襟裳岬の東およそ2200キロメートルの太平洋
上に落下したといいます。
日本国内への落下物や、船舶などへの被害は、確認されていません。
また、日本政府と韓国軍合同参謀本部によると、
弾道ミサイルの最高高度は、およそ800キロメートル。
飛距離は、およそ3700キロメートルだったとしています。
ちなみに、
北朝鮮の平壌(ピョンヤン)からグアムまでの距離が、およそ3400キロ
メートルなので、
このたび発射された弾道ミサイルは、北朝鮮からグアムにまで、十分に
到達できる能力を持っているといえます。
* * * * *
KCNA(朝鮮中央通信)は、9月16日。
金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、(9月15日に行われた)
中距離弾道ミサイル「火星12」の発射訓練を、視察したと報じました。
金正恩・委員長は、「戦闘的性能と信頼性が検証され、火星12の戦力化
が実現した」と、述べたといいます。
また、「核兵器の完成目標の終着点にほぼ到達した」とも述べて、核弾頭
を搭載したミサイルの、実戦配備の時期が近づいていることを示唆しました。
さらに、金正恩・委員長は、
「我々の最終目標は、アメリカと実際の力の均衡を成し遂げ、(アメリカから)
”軍事的選択肢” だの何だのという雑言が出ないようにすることだ」と述べて、
アメリカに対する「核の反撃」能力を、引きつづき強化する姿勢を示してい
ます。
さらにまた金正恩・委員長は、9月11日に採択された国連安全保障理事会
の制裁決議について、
「いまだに国連制裁ごときにしがみついて、われわれを屈服させることが
できると執念を燃やす、自称大国たちの姿がもどかしい」と非難しました。
その上で、
「大国主義者たちに、彼らによる限りない制裁封鎖の中でも、核兵器の完成
目標をどうやって達成するのか見せつけなければならない」
と、核・ミサイル開発の継続を改めて明言しています。
* * * * *
以上、ここまで見てきましたが、
ついに北朝鮮側は、日本を名指しして、「核攻撃の対象にする」と
言ってきました。
こんなことを言われてしまっては、
日本国内において、「反北朝鮮感情」が高まってしまうのも当然でしょ
うし、
「日本の核武装論」が台頭してしまう可能性も、けっして否定できない
でしょう。
私たち日本国民(の中でも頭に血が上っている人たち)は、すこし冷静
にならなければなりませんが、
しかし、それにしても、
国連安全保障理事会の制裁決議をも、まったく無視してしまうという、
北朝鮮の常軌(じょうき)を逸(いっ)した行動には、
本当に、本当に、困ってしまいます。
一体どうすれば、この危機的な状況(いわゆるチキンレース状態)を止め
ることができるのか、
今のところ私には、まったく見当もつきません。
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