北朝鮮リスクが増大 1
                              2017年8月20日 寺岡克哉


 前回から取り上げていますが、北朝鮮とアメリカの関係が、これまで
になく悪化しています。

 この関係悪化が、今後どんどんエスカレートしていけば、

 韓国はもちろんのこと、わが国の日本も、おそらくタダでは済まない
でしょう。


 なので、今後しばらく、

 北朝鮮やアメリカ、その他関係諸国の「動向」について、注視して
行きたいと思います。


             * * * * *


 8月14日。

 アメリカのマティス国防長官は、北朝鮮がグアムを含むアメリカの
領土をミサイルで攻撃すれば、戦争が「始まる」ことになると警告しま
した。

 マティス国防長官は、国防総省で記者団にたいし、「あっという間
に戦争へとエスカレートする可能性がある。そう、これを戦争と呼ぶ」
と、発言しました。

 そして、「彼ら(北朝鮮)がアメリカを攻撃する事態を私は想定して
いるが、彼らがアメリカに向けて撃てば、 ”交戦開始” だ」と、語って
います。

 また、グアムをアメリカの一部と考えているかという質問を受けま
したが、それに対して「もちろんそうだ」と答えました。



 ちなみにマティス長官は、ミサイルがグアムに向けて発射されても、
「海上に落下した場合はどうするのか」については明言を避けました
が、

 アメリカの監視システムは、発射後数秒でミサイルが陸地に着弾
するかどうか軌道を予測できるだろうと発言し、

 「それぞれの場合に、私がどう行動するかを北朝鮮に教えるつもり
はないので、曖昧(あいまい)にしておく必要がある」と、説明しました。



 また、マティス長官は記者団にたいし、自分の発言を事実上の宣戦
布告と伝えないように注意した上で、

 それは「大統領、そして恐らくは議会が決めるものだ。重要なのは、
われわれは攻撃からアメリカを守るということだ」と、語っています。



 しかしながら、その一方で、

 マティス国防長官と、ティラーソン国務長官は、アメリカ紙のウォール
ストリート・ジャーナル(8月14日付)に連名で寄稿し、

 「アメリカは北朝鮮との交渉に前向きだ」と、表明しました。

 その上で、「北朝鮮が過去の交渉で不誠実だったことや、国際協定
に繰り返し違反したことを考えれば、誠意を持って交渉したいという
意志を示す義務は北朝鮮側にある」と、指摘しています。

 そして、「誠実さを示すとはすなわち、挑発的な脅しや核実験、ミサ
イル発射などの武器のテストを即時中止することだ」と、強調しました。

 また、

 「アメリカは、体制転換や性急な南北統一に関心はない」ということ
も、強調しており、

 「北朝鮮は平和と繁栄、国際的認知への道を進むのか、(それとも)
交戦と貧困、孤立といった行き止まりの路地に向かい続けるのか、
選択を迫られている」と、訴えています。


             * * * * *


 8月15日。

 北朝鮮のKCNA(国営朝鮮中央通信)は、金正恩(キム・ジョンウン)
朝鮮労働党委員長が、8月14日に朝鮮人民軍・戦略軍司令部を視察
し、

 グアム周辺へのミサイル発射計画について、「(グアム島の)周囲
に撃ち込む準備を完了し、党中央の決定を待っている」という報告を、
金絡謙(キム・ラクキョム)司令官から受けたと伝えました。


 KCNA(国営朝鮮中央通信)によると、

 金正恩・委員長は、「アメリカの無謀さが一線を越え、計画した威力
示威発射が断行されれば、われわれの火星砲兵がアメリカの息の根
を止める最も痛快な歴史的瞬間になる」と強調し、

 「わが党が決心さえすれば、いつでも実戦に突入できるよう常に発射
態勢を維持しなければならない」と、指示したといいます。


 しかしながら金正恩・委員長は、「朝鮮半島での軍事的衝突を防ぐ
ためには、アメリカが先に正しい選択をして行動で示すべきだ」として、

 アメリカの対北朝鮮政策を転換するように求めた上で、「悲惨な運命
のつらい時間を過ごしているアメリカの行動を ”もうすこし見守る”
と述べたとしており、

 8月21日から始まる、アメリカと韓国との合同軍事演習を控えたトラ
ンプ政権の出方を見極める姿勢も示して、揺さぶりをかけていると見ら
れます。



 同8月15日。

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、朝鮮半島における軍事行動
は韓国によってのみ決定が可能であると述べて、韓国政府はあらゆる
手段で戦争を回避すると表明しました。



 また、同8月15日。

 中国の国営紙である「環球時報」は、正面衝突を避けるため、韓国は
アメリカと北朝鮮との間で緊張を和らげる役割を果たすべきだと指摘
しました。

 論説記事で「(8月21日から始まる)米韓合同軍事演習は北朝鮮を
一段と刺激するだろう。北朝鮮はさらに過激な反応を示すとみられる」
とした上で、

 「韓国が朝鮮半島での戦争を本当に望まないならば、この軍事演習
を中止するよう努めるべきだ」と、主張しています。



 一方、同8月15日。

 アメリカのティラーソン国務長官は、金正恩・朝鮮労働党委員長が
グアム周辺へのミサイル発射計画の実施を留保したことを受けて
記者団にたいし、

 「われわれは対話に至る道を見つけることに関心を持ち続けている」
と、述べました。

 その上で、「(対話の実現は)彼(金正恩・委員長)次第だ」と強調し、
北朝鮮が歩み寄りを見せる必要があると訴えています。


 また、アメリカ国務省のナウアート報道官は、同日の記者会見で、

 「われわれは北朝鮮と対話するのをいとわない。しかしまずは、
北朝鮮が真剣な行動を取らなければならない」と、述べました。

 さらにナウアート報道官は、北朝鮮がグアム周辺へのミサイル発射
計画を取りやめるだけでは対話に応じられないとした上で、

 北朝鮮は朝鮮半島の非核化に向けた行動に踏み出す必要がある
と、強調しています。


             * * * * *


 8月16日。

 アメリカのトランプ大統領はツイッターに、「北朝鮮のキム・ジョンウン
委員長はとても賢い、よく考えた決断を行なった。別の選択は、壊滅的
で受け入れられないものになっただろう」と、書き込みました。

 これは、北朝鮮がグアム周辺へのミサイル発射を一時見合わせたこと
に対して、トランプ大統領が評価したものと見られます。


 これについてペンス副大統領は、訪問先のチリで記者会見し、「大統
領がけさ認めたように北朝鮮の問題で進展が見られ始めている。しかし、
より多くのことが実行されなければならない」と述べて、緊張緩和に向け
た北朝鮮のさらなる行動を求めました。

 そして、「北朝鮮が核・ミサイルの開発計画を放棄するまで、アメリカは
引きつづき経済的・外交的に最大限の圧力を北朝鮮に加えていく」と、
強調しています。


 また、アメリカ国務省のナウアート報道官は、トランプ大統領が北朝鮮
の対応を評価したことで、「対話の実現」に近づいたかどうか問われたの
に対し、

 「近づいていない」と述べて、不十分だという立場を示しました。

 その上で、「北朝鮮が、核実験や弾道ミサイルの発射それに地域を
不安定にさせる行為をやめれば、よい出発点になるだろう」と述べて、
北朝鮮にたいし挑発行為をやめるように、改めて求めています。



 同8月16日。

 ロシアのラブロフ外相は、北朝鮮によるグアム周辺へのミサイル発射
計画をめぐり、最近の金正恩・委員長とトランプ大統領の発言に関連
して、
 「ここにきて落ち着いたものになってきたことを歓迎する。血の気の
多い人たちが冷静になってくれることを望む」と、述べました。

 その上で、「北朝鮮に経済的な圧力をかけるという方策は、すでに
ほとんど尽きている」と述べて、
 北朝鮮に対しては、制裁ではなく対話を通した解決策を模索していく
べきだというロシアの立場を、重ねて示しました。

 そして当面の対応として、8月21日から米韓合同軍事演習が予定さ
れていることを踏まえ、
 北朝鮮が核実験と弾道ミサイルの発射をやめるとともに、アメリカと
韓国は演習を中止するという、ロシアと中国が示している提案を関係国
は受け入れるべきだと訴えています。


             * * * * *


 以上、ここまで見てきましたが、

 北朝鮮とアメリカとの緊張状態が、すこしだけど緩和されたように
感じます。



 しかしながら、

 中国とロシアが「話の落としどころ」としている、「米韓軍事演習の
中止」を、

 アメリカと韓国は一蹴(いっしゅう)し、

 8月21日~31日にかけて合同軍事演習を行うと、8月18日に両国
が正式発表をしました。



 一方、これに対して、

 北朝鮮の朝鮮労働党の機関紙である「労働新聞」は8月20日。

 米韓合同軍事演習の実施は、「火に油を注ぐように情勢をさらに
悪化させる」と反発し、

 「われわれ(北朝鮮)に対する敵対意思の最も露骨な表現だ」と、
強調しています。



 なので、

 再(ふたた)び緊張状態がエスカレートするのは、火を見るより明らか
であり、

 今後、北朝鮮が何らかの行動に出てしまう可能性も否定できず、けっ
して予断を許さない状況になっています。



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