好きこそ物の上手なれ
2017年7月2日 寺岡克哉
6月26日。
将棋の最年少プロ棋士である、藤井聡太4段(14歳)が、
東京都渋谷区の将棋会館で指された竜王戦の決勝トーナメント
で、増田康宏4段(19歳)を破り、
公式戦における連勝の新記録となる、「29連勝」を達成しました。
これによって、
1987年に神谷広志8段が樹立した28連勝が、30年ぶりに塗り
替えられました。
ちなみに「28連勝」というのは、将棋界で「不滅の大記録」とされ
ており、
藤井4段は、14歳の中学生であるにもかかわらず、前人未到の
偉業を成し遂げたことになります・・・
* * * * *
何とも、すごい人が現われたものです!
この先、どこまで連勝記録を伸ばすのか楽しみですし、
さらには、「最年少のタイトル(注1)保持者」になる可能性も、かなり
大きいのではないかと思います。
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注1:
プロ将棋のタイトルには、名人、棋聖、王位、王座、竜王、王将、
棋王の、7つがあります。
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そしてまた、
日本社会の高齢化が進んで、さまざまな「停滞感」や「閉塞感」
を感じるなか、
このように若い人が大活躍するのを見ていると、とてもスカッと
する気持ち良さを感じます。
* * * * *
ところで、たまたま偶然にですが、
「藤井4段の強さの理由」について取り上げているテレビ番組
を見ていたら、
小学生のときから1日も欠かさずに、詰将棋のトレーニングを
続けてきたという「努力」の話と、
将棋に負けたときは、将棋盤を抱いて泣いていた時もあったと
いう「負けず嫌い」の話が、
ずいぶん強調されていました。
たしかに、
「努力」 と 「負けず嫌い」というのは、将棋だけに限らず、
スポーツや学問、あるいはビジネスなど、恐らくどんな分野に
おいても、上達するのに必要な要素です。
そしてそれは、
テレビを見ている一般の人々にも、すごく納得しやすい話ですし、
テレビ放送のスポンサーとして君臨している、日本の企業社会
にとっても、非常に好まれやすい話だと思います。
* * * * *
しかし私は・・・
以前に、大学の研究室に所属していたときの体験から、ただ単に
「努力」 と 「負けず嫌い」なだけでは、
「ある一定のレベル」には到達できても、とうてい、「超一流のレベル」
には到達できるわけがないという、
とても強い確信を持っています。
というのは、
大学の研究室の、私の先輩や同輩や後輩のなかで、順調に博士
学位を取って、大学の教官として就職できた人。
つまり、いわゆる「できる人」は、「死にもの狂いの努力」をしている
ようには、ぜんぜん見えなかったからです。
それが、どうしてなのか、すごく不思議だったので、
私は、いわゆる「できる人」を、けっこう良く観察していたように思い
ます。
そうして、私なりに理解できたのが、
「好きこそ物の上手なれ」と、いうことだったのです。
つまり、
研究をすることが、心の底から、ほんとうに大好きであれば、
ものすごく努力をしていても、その努力を、努力とは感じないの
です。
たとえば、
ある実験などが終了して(つまり一仕事が終わって)、疲れきった
とき、
凡人の私などは、「打ち揚げ(うちあげ)」などと称して、すぐに酒を
飲んでしまいます。
ところが「できる人」は、そのように疲れているときでも、酒なんか
飲まずに、英語の論文などを読みふけっているのです。
もしも私が、そんなマネをしようものなら、
精神的な疲労が限界を超えて、おそらく「ノイローゼ」や「うつ病」に
なってしまうでしょう。
しかし「できる人」は、研究が大好きであり、英語の論文を読むのが
面白いのであり、おそらく苦痛ではないのです。
それに気がついたとき、
「私はプロの研究者には、到底(とうてい)なれそうもない」
と、思い知らされたのでした・・・
* * * * *
さて、
プロ棋士の藤井4段が、公式戦で勝ち進んだときや、29連勝
の新記録を樹立したときのコメントで、
「非常に幸運だった」という言葉を、よく繰り返しています。
そこには、
「ものすごく辛くて、苦しい努力を続けてきたので勝てた」とか、
「死にもの狂いの、必死の努力をしたので勝てた」という、
そのような素振(そぶ)りは、少なくても表面上は見られません。
やはり、
藤井4段が「超一流」の強い棋士になった根本的な理由は、
「好きこそ物の上手なれ」であり、
ふつうの凡人がマネをしようものなら、精神が崩壊してしまうほどの、
ものすごい努力を、
あまり苦痛を感じることなく、ごく自然に、毎日のように行っている
からではないかと、
そのように、私には思えてならないのでした。
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※追記
このエッセイをアップロードする直前の、7月2日午後9時30分
ごろ。
藤井聡太4段は、竜王戦の決勝トーナメント2回戦で、佐々木
勇気5段に敗れ、連勝記録が29でストップしてしまいました。
しかし藤井4段は、まだプロ棋士に成り立てであり、これからの
長い棋士人生での活躍を、大いに期待したいと思います。
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