アメリカは自制するか?
                              2017年6月25日 寺岡克哉


 北朝鮮に1年以上にわたって拘束されたあと、6月13日ごろに解放
されてアメリカに帰国していた、男子大学生のオットー・ワームビアさん
が、6月19日に亡くなりました。

 ワームビアさんは、北朝鮮への旅行中に、滞在先のホテルから政治
標語の掲示物を盗もうとした疑いをかけられて、帰りの飛行機に搭乗し
ようとしたところを拘束されたといいます。

 昨年の3月に、「敵対行為」の罪で有罪となり、15年の労働強化刑を
言い渡されていました。


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 ところで!

 ワームビアさんは、1年以上前からずっと、昏睡(こんすい)状態だった
と言われています。

 北朝鮮側の話によると、ワームビアさんは収監後の約1年前にボツリ
ヌス症にかかり、睡眠剤を服用した後で昏睡状態に陥(おちい)ったと
されています。



 ワームビアさんの帰国後に治療を担当した医師が、6月15日に記者
会見をしましたが、

 それによると、ワームビアさんは意識不明の状態で、大部分の脳細胞
が損傷していることが明らかになりました。

 しかし、精密検査でも外傷の痕(あと)は見つかっておらず、「原因は
わからない」としています。

 医師たちによると、ワームビアさんは「まばたき」はできるけれども、
呼びかけに応じることはできず、話すことができない状態だったといい
ます。

 北朝鮮側は、「ボツリヌス菌に感染した」と説明していますが、菌は
検出されませんでした。



 ワームビアさんの父親は、同日の6月15日に会見し、

 「あまりにも息子は残忍な扱いを受けた」と非難しました。

 そして、1年以上にわたって昏睡(こんすい)状態に陥っていたにも
かかわらず、

 「長期間にわたり治療を施さなかった」と、北朝鮮当局の対応を批判
しています。



 そして、

 その4日後の6月19日に、ワームビアさんが亡くなったのでした・・・ 


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 このたびのワームビアさんの死を受けて、トランプ大統領は同6月
19日に声明を出し、

 「ワームビア氏は、1年半、北朝鮮にいて、多くのひどいことが起き
た。北朝鮮は残忍な政権だ」

 などと述べて、北朝鮮を避難しました。



 また、アメリカ議会の与党や野党からも、

 「ワームビア氏は北朝鮮に殺害された」などと、非難の声が相次いで
上がっており、

 アメリカ国内では、北朝鮮への批判が高まると見られています。


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 さらに、トランプ大統領は6月20日。ホワイトハウスで記者団にたい
して、

 「完全に侮辱だ。こんなことを二度と許すわけにはいかない。もし彼
がもっと早く帰国できていたら、このような結果にはならなかっただろう」

 と述べて、北朝鮮を再(ふたた)び非難しました。



 一方、6月21日の時点におけるアメリカ国内では、

 ワームビアさんの死をうけて、北朝鮮の人権侵害にたいする非難の
声が、これまで以上に高まっており、

 北朝鮮にたいするアメリカの世論が、急速に悪化してきています。


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 以上、ここまで見てきて私は思うのですが、

 はたしてアメリカは、「自制心」を保ち続けることが出来るでしょうか?



 たとえば、

 トランプ大統領が暴走して、あるいはアメリカの世論が暴走して、

 北朝鮮との「軍事衝突」に発展してしまう可能性は、まったく無いので
しょうか?



 ちなみに現在でも、まだ3人のアメリカ人が北朝鮮に拘束されており、

 また、

 在韓アメリカ兵の家族たちが、日本やアメリカ本国に避難していると
いう話も聞きません。



 なので今のところ、

 アメリカが、いきなり北朝鮮に軍事攻撃を仕掛けるというシナリオは、
考えにくいと思います。

 しかしながら、

 アメリカと北朝鮮との「軍事衝突のリスク」が、これまで以上に高まって
いるという事実も、けっして否定できません。



 この先、不用意で偶発的な「軍事衝突」が起こらないように、

 アメリカの「自制心」と「冷静さ」が失われないことを、心から願っている
次第です。



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