「時間」という圧倒的な強制力
2017年2月26日 寺岡克哉
先日、
私の心に突き刺さるような、とても痛々しいニュースを見て
しまいました。
30歳代の姉妹2人が、寝たきりの母親の世話をせず、
餓死させてしまったのです・・・
* * * * *
警視庁の福生署は2月18日。
東京都の羽村市に住んでいる、会社員の女性(35歳)と、その妹
である派遣社員の女性(32歳)を、
「保護責任者遺棄致死」の容疑で、逮捕しました。
2人の姉妹は、2014年の7月に、
自宅マンションで同居していた当時64歳の母親が、ほぼ寝たきり
の状態で、自力で生活できないのを知りながら、
食事を与えたり病院での治療を受けさせたりせず、栄養が取れな
い状態にして衰弱させ、死亡させたという疑いが持たれています。
母親は当時、
自宅から病院に救急搬送されたのですが、まもなく死亡してしまい
ました。
死因は「餓死」であり、警視庁の福生署が、その経緯を調べていま
した。
逮捕された2人の姉妹のうち、
姉の方は、「食事の面倒をきちんとみてあげられなかった」と話して、
容疑をおおむね認めていますが、
妹の方は、「今は気が動転しているので、気持ちの整理をしてから
話す」として、容疑の認否を保留しています。
* * * * *
世の中には、
ほかにも色々と、悲惨なニュースがたくさんありますが、
なぜ、このニュースが、とくに私の心に突き刺さったかというと・・・
じつは私の母が、末期のガンで死んだとき、
日に日に痩せて行くところを、私は、目の当たり(まのあたり)にして
いたからです。
今から、およそ1年半前の2015年8月・・・
それまで、手術や放射線治療、さらには色々な抗癌剤を使用しまし
たが、
いよいよ、母の治療手段が尽きてしまい、手の打ちようが無くなって
しまいました。
それで病院を退院し、最後の時(とき)が訪(おとず)れるまで、自宅
で療養することになったのです。
病院を退院したとき、母の体重は41.8キログラムありました。
ところが、「緩和ケア病棟」に入院する直前の2016年2月には、
31.9キログラムへと、10キロも体重が減ってしまったのです。
その、
2015年8月から、2016年2月までの6ヶ月の間・・・
私は目の前で、日に日に痩せていく母を、看(み)続けていたわけ
です。
最後の方になると、母の食欲が、ほとんど無くなってしまい、
しゃぶしゃぶ用の薄い肉を、1時間半ぐらい煮込んで、どんなに柔ら
かく食べやすく調理をしても、
食べてもらえるのは、せいぜい一口か二口ほどに、なってしまいま
した。
どんなに、どんなに努力をしても、
一日、また一日と、「時間」が経つにつれて、母の体重が、情け容赦
なく減っていきます。
「時間」でも止めない限り、体重の減少を止めることは、絶対に不可能
な状況でした。
このとき私は、
「時間」という圧倒的な強制力。
まるで、爆走する超大型のダンプカーのように、ものすごく巨大な力
で突き進んでいて、
誰にも、絶対に、止めることが不可能・・・
そのような、とてつもなく大きな力に圧倒され、心の底から打ちのめ
されてしまったのです。
「時間という巨大な力」を、それほどまでに強く感じたのは、私の人生
においても、このときが初めてでした。
2016年の2月になると、
母の体重が10キロも減ってしまい、
もう私には、どうすることも出来なくなりました。
それで私は、主治医の先生に、母の栄養管理に自信が無くなっ
たことを告(つ)げたのです。
そして母は、以前から予約してあった「緩和ケア病棟」に入院し、
点滴による栄養管理を受けることになりました。
その後、1ヶ月ほどして、母は永遠の眠りについた次第です・・・
* * * * *
ところで、最初に取り上げた事件についてですが、
自分の目の前で、母親が日に日に痩(や)せ衰(おとろ)えていくの
を見ていれば、
居ても立ってもいられない気持ちに駆り立てられて、病院に連れて
いくと私は思うのですが、
この姉妹の場合は、そのような気持ちが、起こらなかったのでしょう
か?
どうも私には、とうてい理解できません。
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