アメリカ大統領選 4
                             2016年10月16日 寺岡克哉


 今回は、

 アメリカとメキシコの間に、「国境の壁を作る」という、

 トランプ候補の「過激な発言」について、見て行きたいと思います。


             * * * * *


 そもそも、この発言は、

 トランプ候補が、大統領選挙への出馬を表明したときに、行なわれま
した。

 だからこれは、トランプ候補の過激な発言の中でも、その「第一声」と
言ってよいでしょう。



 トランプ候補は、2015年6月16日。

 トランプ・タワーの会見場で、2016年アメリカ合衆国大統領選挙に、

 共和党から出馬することを表明しました。



 この場で、トランプ候補は、

 「メキシコ(政府)がメキシコ人を送ってくるときは、メキシコのベストな
人は送ってこない」

 「メキシコは問題が沢山ある人を送ってきて、彼ら(問題が沢山ある
メキシコ人)は問題を我々のところに持ち込む」

 「彼らはドラッグを持ち込む。彼らは犯罪を持ちこむ。彼らは強姦犯だ。
そして、いくらかは多分良い人だ」

 「国境警備隊と話したら、我々の直面していることを話してくれた」

 と、述べました。その上で、不法移民の流入を防ぐため、

 「南部の(メキシコとの)国境に ”万里の長城” を築く」と、公約したの
です。


             * * * * *


 しかもトランプ候補は、その1ヶ月半後の2015年の7月31日。

 上のような ”国境の壁” の「建設費用」を、「メキシコ側に負担させる」

 という考えを示しました。



 そして、

 メキシコ側が建設費を負担することについて、疑いの目を向ける人に
対しては、

 「いかに交渉すべきか、初歩的な術(すべ)を知らない人物の考えだ」
と批判し、

 「私(トランプ)を信頼してほしい。メキシコは支払うだろう」と、述べて
います。



 ちなみに、

 メキシコとアメリカの国境に、もし本当に壁を作るとすれば、

 その費用は、およそ1兆円ぐらいと見積もられています。


           * * * * *


 それから1年ほど経った、2016年の7月10日。

 メキシコのペニャニエト大統領が、アメリカのテレビ番組に出演して、

 トランプ候補が提唱している ”国境の壁” の「建設費用」を、メキシコ
が支払うことは「決してない」と、明言しました。



 その上で、ペニャニエト大統領は、

 メキシコとアメリカの経済的、社会的な繁栄は、両国関係に基づくこと
を強調し、

 「我々(メキシコ側)も念頭に置いておかなければならないことは、アメ
リカの安全保障は隣国の安全保障と繋(つな)がっているということだ」
として、

 「メキシコは安全保障の分野で、アメリカと協力している」と、付け加えて
います。



 また、トランプ候補が出馬表明のときに行なった、

 「彼ら(メキシコ移民)はドラッグを持ち込む。彼らは犯罪を持ちこむ。
彼らは強姦犯だ。そして、いくらかは多分良い人だ」という発言にたい
して、

 ペニャニエト大統領は、「同意できない」と返答しました。


           * * * * *


 それから2ヶ月半ほど経った、2016年8月31日。

 トランプ候補は、メキシコ市の大統領官邸で、ペニャニエト大統領と
会談をしました。

 これは、ペニャニエト大統領の招待に、トランプ候補が応じる形で
実現したといいます。



 この会談でトランプ候補は、

 「アメリカには不法移民の流入を防ぐ目的で、メキシコとの国境に壁を
建設する権利がある」と、主張しました。

 そして、会談後の記者会見では、

 「(国境の)壁について協議した。(建設費の)支払いについては協議
しなかった。後日話すことになるだろう。素晴らしい会談だった」と、語って
います。

 ちなみに、

 トランプ候補が出馬表明のときに行なった、「メキシコ移民を犯罪者扱い
にした発言」については、メキシコ国民に謝罪をしませんでした。



 一方、ペニャニエト大統領は、会談後の記者会見で、

 トランプ候補の「メキシコ移民を犯罪者扱いにした発言」にたいして、

 「メキシコ国民は不当な扱いと感じたが、私はトランプ氏の(メキシコと
の)関係構築への関心は本物だと確信している」と語りました。

 しかしながら、

 ”国境の壁” の「建設費用の支払い」については、この記者会見では
言及しませんでした。


 ところが、トランプ候補が大統領官邸を去った後に、

 「トランプ氏との話し合いの冒頭で、私(ペニャニエト大統領)はメキシコ
政府が壁の費用を払わないと明確に伝えた
」と、ツイッターでコメント
しているのです。



 そしてまた、

 トランプ候補も、同日の会談後にアリゾナ州で行った講演では、

 「大統領に就任すれば、初日から南部国境に最新の監視システムを
備えた ”通過不可能な物理的な壁” を築くために動き始める」と主張し、

 「メキシコが壁の費用を支払う。100%だ」と、説明しているのです。


           * * * * *


 以上、ここまで見てきましたが、

 ”国境の壁” の「建設費の支払い」については、

 トランプ候補と、ペニャニエト大統領の「本心」が、

 真っ向から対立しているように見えます。



 私は思うのですが・・・ 

 メキシコ側にしてみれば、国民の悪口をさんざん言われたあげく、

 一方的に壁を作ると言われ、しかも、その費用を支払えというのでは、

 まったく、お話にならないのでは、ないでしょうか。



 トランプ候補は、よくも、いけしゃあしゃあと、そんなことが言えるもの
です。

 およそ「まともな感覚」の持ち主であるとは、私にはとうてい思えません。



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