アメリカ大統領選 2
2016年10月2日 寺岡克哉
前回は、
トランプ候補の、日本に対する「過激な発言」について、見てきました。
今回は、
トランプ候補の、世界の国々に対する「過激な発言」について、見ていき
たいと思います。
* * * * *
まず、
トランプ候補の「過激な発言」の中で、世界中をいちばん混乱させた
のは、
NATO(北大西洋条約機構)の加盟国が、ロシアから攻撃を受けても、
アメリカが防衛に乗り出さない可能性があるというような、発言をした
ことでしょう。
つまり、7月20日。
トランプ候補は、ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで、
多くのNATO加盟国が、公正な経費負担をしていないという「財政的
な理由」を挙げ、
ロシアが、NATOの同盟国であるバルト諸国を攻撃した場合には、
「バルト諸国が北大西洋条約上の義務を果たしているのかどうか」を
検討してから、防衛するかどうかを決定すると述べました。
ところが、北大西洋条約の第5条では、
同盟国の1国が攻撃を受けた場合、それを加盟国全体への攻撃と
みなして、
他の同盟国が防衛することを「義務付けて」います。
なので、
もしもトランプ候補が言うように、アメリカの政策が変更されたならば、
それは、
第2次世界大戦後におけるヨーロッパの安全保障ルールを、根底
から変えてしまうことになります。
* * * * *
当然ながら、
このようなトランプ候補の「過激な発言」にたいして、
NATO側から異論が出されました。
まず、NATOの事務総長であるストルテンベルグ氏は、7月21日。
「アメリカの選挙に介入するつもりはないが、NATOに関わることに
ついては発言できる」と断ったうえで、
「NATOの重要な価値基準は、 同盟国の団結である」と述べて、
異議を唱(とな)えました。
ストルテンベルグ氏は、トランプ候補を「名指し」はしませんでしたが、
「同盟国は、お互いを防衛することになっている」と強調しています。
このように、
NATOの首脳が、アメリカの大統領選挙に関して発言をするのは、
ものすごく異例のことだといいます。
また、NATO代表部の前アメリカ大使を務めたカート・ボルカー氏は、
トランプ候補の発言で、NATOの同盟国が不安に陥っているとして、
「彼ら(NATO諸国)は、アメリカがこのように政策を急変させることなど、
とても信じられないでいる」
「正直なところ、アメリカの政策がどうなるのか、誰にも分からないでいる」
と、述べています。
* * * * *
さらには、
NATOにたいする、トランプ候補の「過激な発言」について、
アメリカ国内からも批判の声が出ました。
まず、アーネスト大統領報道官が、
「アメリカの大西洋同盟に対する関与について、判断を誤ってはなら
ない」と述べて、
「オバマ大統領は、NATOの同盟国に対する約束を断固守る」と、
強調しました。
また、ジョン・ケリー国務長官も、
「オバマ政権は、共和党であれ民主党であれ、1949年以来の歴代
政権と同様に、NATO同盟に全面関与し、
北大西洋条約第5条に基づく安全保障上の約束を完全に順守する」
と、語りました。
共和党のアメリカ上院議員である、リンゼー・グラム氏は、
「(トランプ候補の)こうした発言は、世界の危険性を増し、アメリカの
安定性を弱める」
「ロシアのプーチン大統領は、大喜びするだろう」と、述べています。
トランプ候補の支持を表明している、ビル・ハイゼンガ下院議員も、
共和党の全国大会で、
「(トランプ候補の発言には)全面的に反対する」
「長らく維持され、広く受け入れられてきた条約の義務を守らないと
表明して、自分たちをおとしめることはできない」と、語りました。
さらには、クリントン候補の上級政策顧問である、ジェーク・サリバン氏
が声明を出し、
「ロナルド・レーガンは恥ずかしく思うだろう。ハリー・トルーマンも恥ずか
しく思うだろう」と、過去の大統領に言及しました。
その上で、「NATOを歴史上最も成功した軍事同盟とするのに貢献した
共和党、民主党、無党派のすべての人たちが、同じ結論に達するだろう」
「ドナルド・トランプは、アメリカの最高司令官としては気質的にふさわし
くなく、根本的に準備ができていないということだ」と、述べています。
* * * * *
しかしながら、
元アメリカ下院議長のニュート・ギングリッチ氏が、CBSテレビの番組で
トランプ候補の発言を支持し、
NATO諸国は、アメリカの集団防衛の約束を「当然視すべきではない」
と警告しました。
ギングリッチ氏は、「歴代のアメリカ大統領は、NATO諸国が公正に財政
負担をしていないと注文を付けてきた」と述べて、
NATOの加盟国ではあるけれど、ロシアに近いエストニアなどは、アメリカ
が守るだけの価値があるのかと、疑問を投げ掛けています。
ギングリッチ氏は、「エストニアはロシアのサンクトペテルブルクの郊外に
ある」
「そうした場所をめぐって、核戦争のリスクを冒すべきなのかどうか分から
ない」と、語ったのです。
ところが、これに対して、
エストニアの、トーマス・ヘンドリク・イルベス大統領は、
「エストニアは防衛費の対GDP比2%の約束を守っている、NATO加盟
のヨーロッパ5ヵ国のうちの1つだ」と指摘して、
「われわれはNATOの全同盟国にたいし、等しく義務を負っている。それ
が同盟である」と、ツイッターで反論しています。
* * * * *
以上のように、
トランプ候補による、NATO(北大西洋条約機構)についての「過激な
発言」にたいして、
アメリカの国内外から、激しい批判が噴出しました。
おそらく、そのためでしょう。
トランプ候補は、8月15日にオハイオ州で行った演説で、
「イスラム国」を打倒するために、NATOとの連携(れんけい)を重視
する考えを示しました。
つまり、それまでの発言を「撤回」した形となったのです。
しかしながら、
選挙戦の間はトランプ候補も、すこし発言を控(ひか)えることが
あるかも知れませんが、
もしも、トランプ候補が大統領になってしまったら・・・
もしも本当に、そうなったら、
いったい彼は何をしでかすのか、まったく分からないのでは、ないで
しょうか。
私は、そのような恐れや不安を、とても強く感じてならないのです。
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