トルコ情勢について 7
2016年9月18日 寺岡克哉
前回は、
トルコの「対アメリカ情勢」を述べている途中で、終わってしまい
ました。
今回は、その続きからです。
* * * * *
トルコの「対アメリカ情勢」で問題になっているのは、
前回で述べた、「ギュレン師」の身柄の引き渡しについてだけ
ではありません。
じつは、
シリアにおける「クルド人勢力」への対応でも、
トルコとアメリカの関係がギクシャクしているのです。
というのは、前回で述べたように、
トルコ国内でエルドアン政権に対立している、PKK(クルド労働者党)
と、
シリアにおけるクルド人勢力のPYD(クルド民主連合党)とは、「一体
の組織」であるとエルドアン政権は見ています。
それで、
8月24日から行われている、トルコ軍によるシリア侵攻作戦では、
「イスラム国」の他に、PYD(クルド民主連合党)への攻撃も行って
いるのです。
ところが!
アメリカは、PYD(クルド民主連合党)を「イスラム国」との戦いに
利用するために、支援を行っています。
もう少し詳しく言うと、
アメリカ軍は、PYD(クルド民主連合党)の軍事組織である、YPG
(クルド人民防衛部隊)を支援しているのです。
(アメリカ軍は、武器を与えたり、援護の空爆などによって、YPGを
支援しています。)
そうしたら、
アメリカ軍の支援を受けて勢いを得たYPG(クルド人民防衛部隊)が、
今年の3月に、シリアの北部で一方的に「連邦制」を宣言して、
クルド人による「自治国家」を創設するという意思を表わしたのです。
YPG(クルド人民防衛部隊)、ひいてはPYD(クルド民主連合党)が、
シリアの北部で「自治国家」を持つことは、
YPGやPYDを、トルコ国内に存在するPKK(クルド労働者党)と一体
の組織と見ているトルコ政府にとって、ものすごく大きな脅威となります。
アメリカ軍が、YPG(クルド人民防衛部隊)の支援をしなければ、
おそらく、「連邦制の宣言」のような事態には至らなかったわけで、
トルコは、この問題に関して、アメリカを良く思っていないのは確かで
しょう。
* * * * *
つぎに、トルコの「対ロシア情勢」ですが、
じつは昨年の11月に、トルコ軍の戦闘機によって、ロシア軍の戦闘機
が撃墜されるという事件が起こり、
それ以降、トルコとロシアの国交は、「断絶状態」となっていました。
ところが、
エルドアン大統領が8月9日にロシアを訪問し、撃墜事件後で初めて
プーチン大統領と会談し、
両首脳が、関係を「正常化」させていくことで一致したのです。
この関係正常化について、トルコの専門家は、
「トルコはクルド人を国境地域から排除するためにロシアと軍事的な
情報交換を行い、シリアへの侵攻作戦についても事前にロシアと連絡
していたはずだ」という、見解を示しています。
また、ロシア人の外交専門家は、
「トルコはクルド人勢力の進軍を止めようとしても、ロシアとの断絶関係
によって動きがとれなくなっていた」
「トルコは、ロシアとの関係を正常化することで状況を変えようとした」
「トルコの戦闘機が空爆するためにシリアの上空を飛行するのは、ロシア
が昨年の11月に、S-400地対空ミサイルをシリアに配備して以来初めて
となった」という、見解を示しています。
ちなみにトルコは、
NATO(北大西洋条約機構)の一員として、軍事的にはアメリカや
EU(ヨーロッパ連合)の側に立っており、
いちおう、ロシアとは対立する関係です。
また、「対シリア政策」において、
ロシアやイランは、シリアのアサド大統領を「支援」していますが、
アメリカやEUは、シリアの反体制派を支援して、アサド大統領を
「失脚」させようとしています。
今のところトルコは、アメリカやEUと同じく「反アサド政権」の立場を
とっていますが、
この先さらに、トルコとロシアの関係が深くなって行けば、トルコが
「アサド政権容認」の立場に変わるかも知れません。
これらのことから、
トルコとロシアの関係が、だんだん深くなっていけば、
アメリカやEUにとって、大きな懸念材料となるのは間違いないで
しょう。
* * * * *
以上、
前回から、ここまで見てきましたように、
いま現在のトルコ情勢は、「国内情勢」も「対外情勢」も、すごく複雑に
なっています。
私が、いちばん心配しているのは、
シリアの内戦が、トルコに拡大し、さらにはアメリカ、EU、ロシア、そし
てイランやサウジアラビアなどを巻き込む形で、
まるで「第3次世界大戦」のような状態に、なってしまうのではないか
ということです。
私が最近、「トルコ情勢」に注目しているのは、そのような理由からです。
おそらく「トルコ情勢」については、
まだまだ予断を許さない状況が、しばらく続いて行くことでしょう。
なので今後も、事(こと)あるごとに、注視しなければならないと思って
います。
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