トルコ情勢について 6
                              2016年9月11日 寺岡克哉


 これまで本サイトでは、

 トルコの「国内情勢」や「対外情勢」について、いろいろと断片的に見て
きました。


 しかし、それでは、

 「トルコ情勢」についての「全体像」が、すこし分かりにくくなってしまった
ように感じます。


 なので今回から、

 「トルコ情勢の全体像」について、なるべく分かりやすく、簡単にまとめて
いきたいと思います。


             * * * * *


 まず、トルコの「国内情勢」ですが、

 トルコ国内には、エルドアン政権と対立する勢力として、

 本サイトの「エッセイ756」で取り上げた「世俗主義派」と、

 「エッセイ757」で取り上げた「ギュレン派」が存在しました。



 ちなみに、エルドアン政権は、

 7月15日に起こった「クーデター未遂事件」の実行者を「ギュレン派」
だと断定し、大規模な粛清(しゅくせい)を行っていますが、

 おそらく「世俗主義派」に対しても、この事件を利用して、粛清が行われ
ているものと思われます。



 なので今後、

 トルコ国内において、「ギュレン派」や「世俗主義派」による抵抗運動が
起こる可能性が考えられます。

 しかしエルドアン大統領も、強権をもって、それらの抵抗運動を封じ込め
ることでしょう。

 しかしながら、虐(しいた)げられる側の不満もだんだん大きくなって、
いつかそれが暴発するかもしれませんし、

 トルコの「国内情勢」において、その危険性は常に孕(はら)んでいると
言わざるを得ないでしょう。


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 また、その他に、エルドアン政権と対立する勢力として、

 トルコ国内におけるクルド人過激派組織の、PKK(クルド労働者党)
というのが存在します。



 ところで、

 「エッセイ758」で取り上げた、シリアにおけるクルド人勢力のPYD
(クルド民主連合党)と、

 トルコ国内におけるPKK(クルド労働者党)は、

 じつは「一体の組織」であると、エルドアン政権側は見ています。



 なので今後、

 トルコ軍のシリア侵攻によって、PYD(クルド民主連合党)との戦闘が
さらに激化して行けば、

 PYDと、PKK(クルド労働者党)が連携(れんけい)し、トルコに対して
大きな脅威となる恐れがあります。



 最新の情報によると、

 トルコ政府は9月8日に、クーデター未遂事件に伴う教育関係者の粛清
の一環として、

 PKK(クルド労働者党)との関係が疑われた、1万人以上の教師を休職
処分にしたみたいです。



 トルコの安全保障にとって、

 PKK(クルド労働者党)やPYD(クルド民主連合党)などの「クルド人勢力」
による脅威は、

 「イスラム国」による脅威よりも、さらにそれ以上に大きなものとなっている
のです。


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 つぎに、トルコの「対外情勢」ですが、

 まずトルコは、本サイトの「エッセイ754」で述べたように、長年にわたって
EU(ヨーロッパ連合)への加盟を目指しており、

 2002年に、EUに加盟するための条件の1つである、「死刑制度の廃止」
を行いました。



 しかしエルドアン大統領は、

 「ギュレン派」や「世俗主義派」などの反抗勢力を一掃するために、「死刑
制度の復活」を考えています。

 もしもエルドアン政権が、死刑制度を復活させたならば、トルコがEUに
加盟する可能性は、まったく無くなってしまうでしょう。



 ところで、今年の3月。

 トルコとEUとの間で、「EU・トルコ難民協定」というのが結ばれました。

 この協定によると、

 トルコからギリシャに流入した「不法移民」を、トルコに送還する見返りと
して、

 トルコへの資金援助や、トルコ国民に対するEUビザ(査証)の免除、さら
には、トルコのEU加盟交渉を加速することなどが合意されています。



 しかしながら・・・ 

 もしも、トルコで死刑制度が復活したならば、この「EU・トルコ難民協定」
が反故(ほご)になる可能性があります。

 また、これとは別に、

 トルコのチャブシオール外相が、今年の10月までにビザ免除が実現しな
ければ、EU・トルコ難民協定の「撤回」もあり得ると警告しました。



 このように、トルコにおける「対EU情勢」は、

 死刑制度復活の問題や、シリア難民の問題、さらにはビザ免除の問題
などが絡んで、

 とても難しく、切迫した局面となっています。


            * * * * *


 つぎに、トルコにおける「対アメリカ情勢」ですが、

 これにはまず、「エッセイ754」で述べたように、アメリカで事実上の
亡命生活を送っている「ギュレン師」の身柄(みがら)を、

 トルコ側の求めに応じて、アメリカ側が引き渡すかどうかという問題が
あります。



 この問題についての最新情報によると、

 9月4日に、G20サミットが開かれている中国の杭州市で、

 アメリカのオバマ大統領と、トルコのエルドアン大統領が、会談をしてい
ます。



 その会談でエルドアン大統領は、

 「クーデター前の証拠をすでに渡したのに続いて、クーデターに関与した
証拠も収集して、アメリカに渡す」と述べて、

 「ギュレン師」の身柄の引き渡しを強く求めました。



 しかしながら、これに対してオバマ大統領は、

 「不法な行為に関与した者を捜査し、裁きにかけるため支援する」と述べ、

 アメリカの司法当局が、トルコの捜査に協力を続ける考えは示しましたが、

 「ギュレン師」の引き渡しについては、明言を避けています。



 たしかにアメリカという国は、(いちおう)民主的な法治国家を謳(うた)って
いるので、

 アメリカの司法当局が納得しない形(つまり、政治判断による超法規的な
措置など)で、

 有無も言わさず、「ギュレン師」の身柄をトルコに引き渡したりするのは、
そう簡単にできないのでしょう。

 そのため、この問題については、もうしばらく時間がかかるのではないか
と思われます。


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 申し訳ありませんが、この続きは次回でやりたいと思います。



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