トルコ情勢について 5
2016年9月4日 寺岡克哉
8月24日。 トルコの軍隊が、シリアに侵攻しました。
少なくても9台の戦車が列をなして国境を越え、シリア領内に侵入した
のです。
その目的は、
「イスラム国」が支配している、シリア北部の「ジャラブルス」という町や
近郊の村から、「イスラム国」を駆逐することでした。
* * * * *
侵攻作戦は、8月24日の午前4時(日本時間で午前10時)に始まり
ました。
まずトルコ軍が、シリアとの国境沿いの地区から、「イスラム国」の拠点
にたいして激しい砲撃を行ない、
その後、トルコ空軍と、アメリカが主導する対イスラム国の「有志連合」
が、空爆を実施しました。
さらにその後、トルコ軍の戦車部隊や特殊部隊のほか、国境付近の
トルコ側で待機していたシリアの反体制派勢力(自由シリア軍)が越境し
たのです。
これほど大規模なトルコ軍の部隊が、シリアに侵入したのは、すごく
異例のことだと言います。
そして、侵攻作戦が開始された同日のうちに、
トルコの支援を受けているシリアの反体制派勢力(自由シリア軍)が、
インターネット上に声明をだし、
「ジャラブルスは ”イスラム国” から完全に解放された」と発表しました。
ちなみに「ジャラブルス」という町は、
「イスラム国」が首都にしているシリア北部の「ラッカ」に、戦闘員や物資
を運ぶ玄関口として機能しており、
「イスラム国」がシリアで有していた、唯一の対トルコ国境沿いの拠点で
した。
この「ジャラブルス」を失ったことにより、
「イスラム国」は一段と孤立化が進んで、大きな打撃を受けるのは間違い
ありません。
同8月24日。
トルコのアラ内相は、この侵攻作戦について、「短期間で終わる」という
見通しを示しました。
また同日、
トルコを訪問していたアメリカのバイデン副大統領は、トルコ軍による
対「イスラム国」侵攻作戦について、
「戦いの継続を感謝する」と述べ、支持する考えを示しました。
* * * * *
ところが!
このたびのシリア侵攻作戦の目的は、
「イスラム国」を駆逐するだけでは、ありませんでした。
トルコのエルドアン大統領は、8月24日の演説で、
軍事作戦は「IS(イスラム国)やPYD(クルド民主連合党)に対する
ものだ」と述べて、
「イスラム国」だけでなく、シリア北部で勢力を広げているクルド人に
対しても、つよい敵意を示したのです。
ところで、
トルコとシリアは、およそ900キロメートルにわたって、国境が接してい
ます。
このうち、シリア側の東西およそ70キロメートルにわたる地域を「イスラ
ム国」が支配しており、
残りの国境沿いは、ほぼ「クルド民主連合党」の勢力圏になっています。
その一方で、
トルコ国内には、1000万人以上のクルド人が住んでおり、
「クルド民主連合党」との関係が深い、トルコ国内の分離独立勢力は、
エルドアン政権と対立しています。
このため、
アメリカの支援を受けて、シリア北部で支配地域を広げる「クルド民主
連合党」は、
トルコにとって、「イスラム国」よりも、さらにそれ以上の安全保障上の
脅威になっていると言います。
(じつは「クルド民主連合党」は、アメリカ軍の支援を受けて「イスラム国」
と戦うことにより、支配地域を広げているのです。)
* * * * *
8月27日。
トルコ軍は、戦車部隊を増派し、反体制派の「自由シリア軍」と連携
して、
ジャラブルスから南へ7~8キロメートルの地域において、クルド人
勢力との戦闘に突入しました。
トルコ軍機が、クルド人勢力の武器弾薬庫を爆撃しましたが、
クルド側も、ロケット弾でトルコ軍の戦車2台を破壊しました。
この攻撃で、トルコの兵士1人が死亡し、トルコ軍にとって初めての
犠牲者が出ました。
8月28日。
トルコ軍の発表によると、
シリア北部において「クルド民主連合党」の勢力圏を空爆し、
「クルド民主連合党」のメンバー25人を殺害、および関連施設5ヶ所を
破壊したということです。
昨日の、ロケット弾による攻撃への報復とみられます。
イギリスにあるNGOの「シリア人権監視団」は、同日。
この空爆などで、少なくても民間人40人が死亡し、75人が負傷したと
発表しています。
同8月28日。
エルドアン大統領が演説し、
PYD(クルド民主連合党)は、IS(イスラム国)と同様に「テロ組織」だと
して、
両組織を「シリアから根絶する」と強調しました。
* * * * *
このような状況なので、
今後、シリア領内において、「トルコ軍」と「クルド民主連合党」との
戦闘が、さらに拡大していくことが懸念されています。
また、
トルコ国内においても、クルド系組織による、テロなどの「報復攻撃」
が懸念されるでしょう。
ほんとうに、いま現在のトルコは、
ものすごく複雑で、とても大変な状況になっていると、言わざるを得ま
せん。
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