トルコ情勢について 4
2016年8月28日 寺岡克哉
トルコ政府は、
先日の7月15日に起こった「クーデター未遂事件」について、
アメリカに亡命している、イスラム教指導者の「ギュレン師」が首謀者
であると断定し、
アメリカにたいして、身柄の引き渡しを要求しています。
さらにトルコ政府は、
ギュレン師を支持する人々の「ギュレン派」が、
このたびの「クーデター未遂事件」の実行者であると断定し、
「ギュレン派」にたいして、大規模な粛清(しゅくせい)を行っています。
今回は、
この「ギュレン師」と、「ギュレン派」のことについて、ちょっと調べて
みました。
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まず「ギュレン師」ですが、
名前は「フェトフッラー・ギュレン」さんといい、トルコの東部にあるエルズ
ルムという町が出身地です。
ギュレン師は、イスラム教の道徳をベースにした「市民運動の指導者」
として、その方面の人々には広く知られています。
トルコの国家方針である世俗主義と、イスラム主義が矛盾しないことを
訴えており、比較的穏健な立場をとっています。
また、
ギュレン師の思想の基盤は、イスラム教のスンニー派ですが、
誰にでも理解できる道徳を説いており、暴力には一貫して反対の立場を
とっています。
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つぎに「ギュレン派」ですが、
これは、「ギュレン師に付き従っている人々」を総称して、そのように
呼んでいるみたいです。
この「ギュレン派」は、教団組織もメンバーシップも無く、およそ「教団」
とは呼ぶことができません。
いろいろな人々が、それぞれ各自に、ギュレン師に付き従っているの
です。
しかし「ギュレン派」は、さまざまな分野の人々に、広く浸透して
います。
たとえば「ギュレン派」によって、トルコ国内外で開設された学校は、
世界の91ヵ国で、およそ489校の高校・初等学校、6校の大学に上っ
ています。
また、教育センターや語学センターなども開設されているといいます。
さらに「ギュレン派」は、学校だけでなく、新聞社や放送局、大手銀行、
国内最大の商業組織なども保有しているといわれます。
たとえば、「ギュレン派」に属する「ザマン紙」などは、トルコ国内で最大の
新聞社の一つですし、
「サマンヨルTV」などのテレビ局、「ブルチFM」や「ワールド・ラジオ」など
の主要なラジオ局も、「ギュレン派」によって設立されました。
また、利息なしのアジア銀行や、ウシュク保険という保険会社、アジア・
ファイナンスのような金融機関も「ギュレン派」に属していますし、
裕福なトルコ人や中小企業家たちによって作られた「トルコ労働者実業家
連合」も、「ギュレン派」に属するとみなされています。
さらにまた、
「ギュレン派」の人々は、地震などの自然災害による被災者を救援する
活動にも熱心です。
1999年にトルコ北西部のマルマラで起こった大震災(死者1万7000人
超)をきっかけに、NGO(非政府の非営利団体)を立ち上げており、
「東日本大震災」のときにも、熱心に救援活動をしてくれたそうです。
このように、
「ギュレン派」の人々は、実にさまざまな分野で、とても広く活動して
いるのです。
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※ 注意
いま現在、ギュレン派にたいして、大規模な粛清が断行されています。
ギュレン派に属するメディアグループの免許は剥奪され、
ギュレン派に近い関係にある企業は、政府から経営陣が派遣されて
経営権が奪われています。
ギュレン派に属する大学は、政府から任命された学長に交代させられ
ており、
そのほか教育分野では、1500以上の教育施設が閉鎖され、およそ
14万人もの生徒が転校を強いられています。
さらには、教職免許を奪われた教諭が、およそ2万人にも上っています。
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ところで、
2003年にエルドアン氏が首相の座に就いた当初、
エルドアン首相と、ギュレン師やギュレン派は、「同志」の関係にありま
した。
当時のエルドアン首相は、世俗主義派の軍指導部が政権を脅かすのを
防ぐために、ギュレン派の人々を重用したといいます。
そしてまた、2008年から2009年ごろにかけて、
軍幹部や世俗主義派のジャーナリスト、実業家などがクーデターを企(く
わだ)てたとして、相次いで逮捕・追訴される事件が起こりましたが、
その当時ギュレン派は、トルコ軍や警察、検察にも支持者を増やしており、
容疑者の摘発にたいして、ギュレン派の警察官や検事が関与したと言わ
れています。
このように、世俗主義派に相対(あいたい)する勢力として、
エルドアン大統領と、ギュレン師やギュレン派は、協力関係にあったの
でした。
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ところが、2013年の12月になると、
ギュレン派は、今度はエルドアン政権中枢の汚職を暴(あば)こうとしま
した。
エルドアン大統領の子息や、側近の閣僚の、汚職を暴露するために、
ソフトクーデターを試みたのです。
これに激怒した、当時のエルドアン首相は、
即座に警察官や検察官の配置換えを断行したほか、
ソフトクーデターに関与した人々を罷免するという強硬策に出ました。
それ以降、
ギュレン派は、政権側から「フェトフッラー派テロ組織」と呼ばれるよう
になり、
徹底的な「排除の対象」にされてしまうのです。
そのため、いま現在のギュレン師は、
アメリカで「事実上の亡命生活」を余儀なくされているわけです。
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ところで、アメリカのバイデン副大統領は8月24日。
トルコの首都アンカラで、エルドアン大統領や、ユルドゥルム首相と
会談をしました。
この会談でバイデン副大統領は、
トルコ側がアメリカに求めている、「ギュレン師の引き渡し」について
「アメリカの法的基準を満たす ”証拠” が必要だ」として、即座の引き
渡しには応じませんでした。
いちおう、ギュレン師の人権を無視することができないアメリカとしては、
そのような対応をするのが当然でしょう。
しかし、このままだと、アメリカとトルコの関係が、さらに悪化していく
のは目に見えています。
今後、どのように「関係改善」を目指していくのか、なかなか難しい局面
になってきました。
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