トルコ情勢について 3
                              2016年8月21日 寺岡克哉


 前回で、お話しましたように、

 トルコは、イスラム教国であるにも拘(かかわ)らず、

 意外にも、かなり「世俗的」な国でした。



 その原因を調べてみたら、

 1923年にトルコ共和国が建国されて以来、建国の父であるケマル・
アタチュルクの立てた原則により、

 トルコは憲法上、「世俗主義国家」と規定されているみたいです。



 しかも、

 この「世俗主義」は、ほかのイスラム圏では見られないほど厳格なもの
であり、

 「イスラム主義政党」が禁じられたのはもちろんのこと、

 公立学校、国立大学、議会などで、イスラム的な服装をすることも厳禁
とされてきました。

 とくにイスラム圏の女性には、スカーフやベールなどを着用する風習が
ありますが、

 これもトルコでは禁じられ、解禁に向かったのは2000年代の後半だと
いうことです。


 このようにトルコは、かなり強制的に、「世俗主義」を貫いてきた国なの
です。


             * * * * *


 ところが一方、

 エルドアン大統領が所属している、トルコの与党である「公正発展党」は、

 イスラム主義政党として非合法化の対象となった、「福祉党」とその後継
政党の「美徳党」を前身としています。



 「公正発展党」は、

 これまでイスラム主義を全面には出してきませんでしたが、所属している
議員のイスラム主義色は強く、

 トルコの国内や外国などから、「イスラム主義政党」であるとみなされて
いるのです。



 日本の報道などを見ると、エルドアン大統領は、

 イスラム教指導者のギュレン師を支持している、いわゆる「ギュレン派」
と呼ばれる人々を、

 先日の7月15日に起こった「クーデター未遂事件」に関与したとして、
大々的に粛清(しゅくせい)しています。



 つまりエルドアン大統領は、イスラム教の指導者を支持する人々を
粛清しているわけで、

 その部分だけを見ると、いかにも「世俗主義派」であるような印象を、
持ってしまいがちです。

 (じつは私も当初、エルドアン大統領は、てっきり「世俗主義派」だと
ばかり思っていました。)

 しかし、そのような印象は、まったく間違っていたのです。


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 ちなみに、

 トルコにおける「世俗主義派」の人々は、

 軍関係者や司法関係者、そして知識人などに多いとされています。



 一方、エルドアン大統領は8月13日の時点で、

 軍関係者や公務員など5000人近くを罷免(ひめん)し、7万6000人
以上を停職処分にしています。

 両方を合わせると、なんと8万人以上もの人々が、粛清(しゅくせい)
の対象にされたことになります。



 この数の多さから、私は思うのですが、

 おそらくエルドアン大統領は、いまの機会を最大限に利用して、

 「ギュレン派」の人々だけでなく、「世俗主義派」の人々も一緒に、

 まとめて大粛清を行なっているのではないでしょうか。



 たとえば、逮捕された将官級の軍人は口をそろえて、

 「クーデター計画はギュレン派によるものだと思う。だが自分はギュレン
派ではない」と、主張しているそうです。

 このような軍人たちは、罪から逃れようとして、口先だけのウソを言って
いるのではなく、

 本当にギュレン派ではないのに、「世俗主義派」であったがために、
逮捕されたのではないでしょうか。


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 もしもエルドアン大統領が、「世俗主義派」をも粛清しているのであれば、

 今後トルコは、「イスラム主義」が台頭するような国に、なって行くのでは
ないでしょうか。



 そして、

 アメリカやヨーロッパ(EU)との関係が、ますます悪くなっていき、

 最悪の場合は「対立」するように、なってしまうのではないでしょうか。



 そのような兆候として、

 エルドアン大統領は、8月9日にロシアを訪問して、プーチン大統領
と会談をしています。

 さらにまた、エルドアン大統領は8月12日に、トルコを訪問したイラン
のザリフ外相とも会談をしました。

 ロシアもイランも、アメリカやEUとは、いろいろな問題で対立している
国ですから、

 どうもトルコは、この先だんだんと、そちらの方向に動いて行くような
気がしてなりません。



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