トルコ情勢について 1
                               2016年8月7日 寺岡克哉


 テレビでは、あまり報道されないけれど・・・ 

 いま現在、トルコの情勢は、とても微妙で難しい局面の只中(ただなか)に
あるように、

 私には思えてなりません。



 というのは、

 トルコは、「イスラム国」との戦いや、「シリア難民」の対策にとって、もの
すごく重要な役割を担っているのですが、

 エルドアン大統領が、先日に起こったクーデター未遂事件を理由にして、
「大規模な粛清」を行なっているため、

 トルコと、アメリカやEU(ヨーロッパ連合)との、「対立」を招きかねない状況
になっているからです。


              * * * * *


 たとえば・・・ 


 トルコのエルドアン政権は、

 現在アメリカに住んでいる、イスラム教指導者のギュレン師が、クーデター
未遂事件の首謀者であると決めつけており、

 アメリカ側にたいして、身柄を引き渡すように要求しています。


 ところがアメリカ側は、

 証拠が十分ではないとして、ギュレン師の身柄の引き渡しを、拒んでいる
のです。



 しかし、その一方で、

 トルコとアメリカは、シリアでの「イスラム国」との戦いにおいて、密接な
協力関係にあります。

 アメリカにとってトルコは、イスラム世界における最も強力な同盟国で
あり、トルコ国内にはアメリカ軍の基地もあるぐらいです。



 しかしながら、

 ギュレン師の身柄引き渡しの問題で、トルコとアメリカの関係が悪化す
れば、

 アメリカ軍と、トルコ軍との連携(れんけい)がうまく行かなくなったり、

 トルコ国内にアメリカ軍基地を置くことを、トルコ側が拒んだりする可能
性も、考えられるかも知れません。



 しかも、

 「イスラム国」との戦いでは、NATO(北大西洋条約機構)が大きな役割
をはたしていますが、

 いまの時点においてトルコ軍は、NATOの中でも、アメリカ軍に次ぐ存在
感を示しています。


 なので、

 もしも関係悪化によって、トルコがNATOから離脱することにでもなれば、

 「イスラム国」との戦いにおいて、大きな悪影響がでるのは絶対に避けら
れないでしょう。


               * * * * *


 ところでまた、

 トルコは長年にわたって、「EUへの加盟」を目指す協議をつづけています。

 それで2002年には、EUに加盟するための条件の1つである、「死刑制度
の廃止」を行いました。



 しかしながら、エルドアン大統領は、

 反抗勢力を一掃するため、支持者からも求める声が上がっているとして、

 「死刑制度の復活」を前向きに検討する考えを示しているのです。

 もしも、トルコ政府が死刑制度を復活させたならば、

 トルコがEUに加盟できる可能性は、まったく無くなってしまうでしょう。



 ところで、

 今年の3月に、「EU・トルコ難民協定」というのが結ばれました。


 その協定によると、

 トルコからギリシャに流入した「不法移民」を、原則としてトルコに送還する
見返りとして、

 トルコへの資金援助や、トルコ国民に対するEUビザ(査証)の免除、さら
には、EU加盟への交渉を加速することなどが合意されています。



 しかしながら、

 トルコで死刑制度が復活すれば、この「EU・トルコ難民協定」が反故(ほ
ご)になる可能性もあり、

 ヨーロッパの国々に、大量の「シリア難民」が流入する恐れがあります。



 さらにまた、

 死刑制度の話とは別に、トルコのチャブシオール外相は8月1日。

 10月までにビザ免除が実現しなければ、EU・トルコ難民協定の「撤回」
もあり得ると警告しました。

 このため「シリア難民」の問題は、EUにとって、かなり緊迫した状況に
なっています。


          * * * * *


 以上、ここまで見てきましたように、

 もしもトルコ情勢が、さらに悪化してしまったら・・・ 

 つまり、エルドアン大統領の強権姿勢がさらに強くなり、アメリカやEU
との対立が決定的になってしまったら・・・



 もしも、そうなってしまったら、

 すこし以前に騒がれていた「イギリスのEU離脱」よりも、

 さらにもっと大きな問題になるのではないかと、私は感じています。



 もちろん日本にも、何らかの影響が、少なからず及んでくるでしょう。

 なので本サイトでも、これから何回かにわたり、

 トルコ情勢について、すこし詳しく調べていきたいと思っています。



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