生命の「肯定」 28
                              2016年5月29日 寺岡克哉


 前回は、第2部の第6章1節まで紹介しました。

 今回は、その続きです。


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6-2 生命肯定の生き方
 生まれたばかりの子供は、生命の否定など考えない。体が健康であれば、
明るく元気であり、生命を肯定しきっている。それが、思春期ぐらいから人生に
苦悩を感じ始め、年齢を経るに従って苦悩がどんどん増していくが、この主な
原因は人間関係と情報である。というのは、自己愛や隣人愛を理想主義だと
軽蔑し、競争原理の名の下にエゴイズムを容認して闘争を激化させたり、足の
ひっぱり合いによる自己実現の抑圧や、いじめなどがいたる所で行われている
からである。このような人間関係の中に長くいれば、生命の否定に取りつかれ
てしまうのも当然である。

 そして、テレビや新聞などのマスコミは、悲惨な事故や残虐な犯罪や他国の
戦争など、生命に対して否定的な情報ばかりを報道し、生命の肯定に関する
情報は前者に比べてほとんど報道されない。このように情報が片寄っていて
は、世の中に対する認識が歪み、理性が生命の否定に自然と向いてしまう。
もしも戦争や殺人事件などを不愉快に感じないばかりか、かえって愉快に感じ
るようであれば、その人の理性は既に生命の否定に向いている。そして、他人
の不幸がもてはやされるような社会は、理性が生命の否定に向いた人間の
多い社会なのである。

 理性を生命の否定に向けてしまうこれらの諸問題は、一見すると、解決策の
全く見出せない難しい問題に思える。ところが、問題の本質は意外と単純で
あり、解決策は既に決まっている。それを以下に列挙すると、

1.生命否定の人間関係を生命肯定の人間関係に改善する。(ここで生命否定
  の人間関係とは、殺意、憎悪、怒り、自己嫌悪、反感、恐れ、不安、焦燥、
  妬み、嫉妬、闘争などの人間関係である。また、生命肯定の人間関係とは、
  愛情、慈悲、思いやり、信頼、優しさ、安心、助け合いなどの人間関係であ
  る。)

2.生命否定の人間集団から抜け出し、生命肯定の人間集団に入る。

3.生命肯定の人間関係を新しく作り出す。

4.生命否定の情報を退け、生命肯定の情報を積極的に取り入れる。(ここで
  言う生命否定の情報とは、殺意、憎悪、自己嫌悪、反感、恐れ、不安、焦燥、
  妬み、嫉妬、闘争などを駆り立てる情報である。また、生命肯定の情報とは、
  愛情、慈悲、思いやり、信頼、優しさ、安心、助け合いなどを啓発する情報で
  ある。)ところで、生命肯定の良い情報は書籍にある。書籍には人類三〇〇〇
  年の生命肯定に関する英知が蓄積されている。例えば、仏教経典、聖書、
  老子、荘子、その他愛にあふれた人物の伝記や小説など、たくさんある。

5.常に理性を生命の否定から遠ざけ、生命の肯定に向ける。つまり、殺意、
  憎悪、怒り、自己嫌悪、反感、恐れ、不安、焦燥、妬み、嫉妬、闘争などを
  駆り立てる想像や思考をやめる。そして、愛情、慈悲、思いやり、信頼、優し
  さ、安心、助け合いなどの気持ちが沸き起こるような、ものの見方や考え方
  を心がける。

6.以上のことを今後一生続ける。


 解決策は以上である。

 つまり、各人が人間環境を改善し、情報を自己管理して常に理性を生命の肯定
に向けること。そして、一生を通してそれを続けるのみである。特効薬などはない。
しかし、これが大生命の意志にかなった人間本来の生き方なのである。この生命
肯定の生き方は人間が勝手に決めたものではない。これは大生命の意志から
要請された、自然の摂理にかなう合理的で正しい生き方である。逆に生命否定の
生き方のほうが、人間の歪んだ理性が勝手に作り出した、自然の摂理に反する
非合理で無意味な生き方なのである。


 ところで人類はまた、人間の生命だけでなく、地球の生命全体を肯定し、大生命
の存続を守っていかなければならない。つまり人類は、何が大生命の永続と発展
にとって好ましいことなのか、また、何が大生命に致命的な悪影響を及ぼすのか
を注意深く判断し、行動しなければならない。なぜなら、今や人類の地球環境に
対する影響力は、大生命の自然治癒能力を超えているからである。そして、今後
もしも、人類が大きな間違い(例えば全面核戦争や大規模な環境汚染など)を犯す
(注121)、地球環境を元に戻せなくなってしまうからである。地球環境は大生命
が作ったものであることを忘れてはならない。

 人類の科学知識は、大生命のシステムをまだほとんど理解できていない。地球
環境を正常に戻すことが出来るのは大生命だけである。そして人類は、人類で
ある前に地球の生物なのだから、正常な地球環境の中でしか健全に生きられない
ことを謙虚に認めなければならない。これは、例えば自動車の個人使用をあきらめ、
最低でも共同使用にするぐらいの覚悟と謙虚さのいることである(もちろん自動車
以外にも、地球環境に大きな影響を与えているものは色々あるが、各人の持つべ
き意識レベルのたとえとして自動車を挙げた)。

 現在の地球環境と生態系は、生命が四〇億年もの苦しみに耐え、生きる努力
を続けて来た結果である。これを大規模に破壊して滅ぼす権利など、たかだか
三〇〇万年前に発生した人類ごときにあるはずがないのである。大生命を破壊
する権利など誰にも存在しない。たとえ「神」であろうとも、大生命を破壊してこれ
を無に帰す権利など絶対にあるはずはないし、あってはならないのである。

 ゆえに人類は大生命を守り、大生命の意志に従い、生命を肯定して生きなけれ
ばならない。そしてそれ以外に、人類がこの地球上で健全に生きる方法は存在
しないのである。



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注121:
 このことに関して現在、人類が直面しているいちばん大きな問題は、地球
温暖化による気候変動です。

 環境省と国立環境研究所、及び宇宙航空研究開発機構が、今年の5月
20日に発表した最新の分析結果によると、

 地球大気全体の月別二酸化炭素平均濃度が、2015年の12月に初めて
400ppmを越え、400.2ppmを記録したことがわかりました。

 (ちなみに、産業革命前の二酸化炭素濃度は280ppmていどでした。)

 このまま二酸化炭素の排出を減少させることができなければ、地球の生態
系が壊滅的な被害を受けてしまうことは、すでに目に見えているのです。
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 申し訳ありませんが、この続きは次回でやりたいと思います。



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