安保関連法案をめぐる攻防
                            2015年9月13日 寺岡克哉


 記録的な大雨により、「関東・東北水害」が発生して、ものすごく
大変なことになっています。

 が、しかし、

 そのドサクサに紛(まぎ)れて、集団的自衛権の行使を可能にする
「安全保障関連法案」が、もうすぐ成立してしまいそうです。



 関東・東北水害も、たいへん重大な出来事ですが、

 安全保障関連法案が成立してしまうと、日本という国の、これから
進んでいく方向が大きく変わってしまうので、

 これも、ものすごく重大な問題です。



 そのため本サイトでも、

 安全保障関連法案が、いまの国会で成立するか、それとも廃案に
なるか、

 その「攻防」について、書き残しておきたいと思いました。


            * * * * *


 さて、まず9月4日。

 安倍首相は、自民党の谷垣・幹事長と会談し、安全保障関連法案を
早期に成立させる方針を確認しました。

 安倍首相は、「法案の採決にはできるだけゆとりも欲しいし、あまり
ギリギリになるのは良くない」と述べ、9月14日の週の採決をめざす
べきという考えを示しました。



 ちなみに与党側は、

 参議院の特別委員会で、9月8日に「参考人質疑」を行うのに続いて、
「公聴会」の開催も急ぎ、採決に向けた環境を整えたいとしています。


 これに対して、民主党や維新の党などは、

 法案を強引に採決するのは認められないとしており、安倍首相が出席
する集中審議や、地方での公聴会の開催など、徹底した審議を求めて
いく構えです。


 さらに民主党などは、

 安倍内閣に対する「不信任決議案」の提出も含め、ほかの野党に
たいして、法案の成立阻止に向け連携して取り組むように、呼びかけ
ています。


             * * * * *


 9月6日。

 安全保障関連法案に反対する学生たちのグループ「SEALDs(自由
と民主主義のための学生緊急行動)」と、

 「安全保障関連法案に反対する学者の会」が、東京都新宿区の繁華
街で協力して街宣行動をしました。


 SEALDs(シールズ)のメンバーたちがマイクを手にして、「戦争反対」 
「憲法守れ」と連呼し、

 野党議員たちが次々に演説する声も、ビル街に響きわたりました。


 主催者側の発表によると、この集会に参加した人の数は、1万2000
人となっています。


             * * * * *


 9月7日。

 JNNの世論調査により、いまの国会で「安保関連法案」が成立する
ことに、6割の人が「反対」しているのが分かりました。

 この調査は、9月5日と6日に行われたのですが、それによると、

 安倍政権は、安全保障関連法案をいまの国会で成立させる方針です
が、この方針に賛成の人は30%、反対の人が61%でした。

 「政府・与党が法案について十分に説明しているか」という質問には、
「十分だ」と答えた人は13%で、「不十分」と答えた人が83%にもなっ
ています。



 同9月7日。

 安倍首相は、自民党の役員会で、

 「平和安全法制の成立に向け、緊張感を持ってやっていきたい」と
述べて、安全保障関連法案の審議に全力で取り組む考えを強調しま
した。

 与党は、9月8日に参議院の特別委員会で「参考人質疑」を行なった
あと、
 9月14日の週の前半に「公聴会」を開き、9月18日までに参議院の
本会議で可決・成立することを目指しています。


             * * * * *


 9月8日。

 自民党の総裁選挙が告示されましたが、安倍首相以外の届け出が
なく、無投票当選を決めました。

 新総裁の任期は、2018年9月までの3年間です。

 野田聖子・前総務会長が最後まで立候補を模索していましたが、
立候補に必要な20人の推薦人を集めることができず断念しました。



 同日。

 安全保障関連法案の審議をしている、参議院の特別委員会の理事
会で、

 与党側が、安全保障関連法案の採決に向けて、9月15日に「中央
公聴会」を行いたいと提案しました。

 これに対して民主党は、「2回目の参考人質疑や地方公聴会を
行なわないまま中央公聴会を行うことには、到底、応じられない」と
反発しています。



 同日。

 安全保障関連法案の審議をしている、参議院の特別委員会が、
「参考人質疑」を行いました。

 参考人発言の要旨は以下の通りです。

 ●宮家邦彦(みやけ・くにひこ) 立命館大客員教授(与党推薦)
 安保法案に反対する方々の主張は安全保障の本質を理解せず、冷戦
後の大きな変化を考慮しない観念論と机上の空論だ。戦争の形態が根
本的に変化した21世紀で、憲法学者はなお古い憲法の解釈に固執する。
それでもし国が守れなくなっているのだとすれば、いかがなものか。現行
法では、どうしても対応できない種類の危機が生まれつつあることも悲し
い現実だ。あらゆる事態に対応できる法的枠組みを準備しなければいけ
ない。

 ●大森政輔(おおもり・まさすけ) 元内閣法制局長官(野党推薦)
 閣議決定による集団的自衛権の行使容認は憲法の基本原則からの重大
な逸脱だ。内閣が閣議決定でなし得る範囲を超えた措置で無効だ。周辺
事態法制定時、法制局は発進準備中の航空機への給油・整備について
「典型的な武力行使との一体化事例で、憲法上、認められない」と言い続け
た。表面上(米軍の)ニーズがないことにして収めた。(法制局が)そのまま
主張を通せば、憲法上、認められないということで議論が打ち切られたはず
だ。

 ●神保謙(じんぼ・けん) 慶応大学総合政策学部准教授(与党推薦)
 安保法案は必要不可欠であり強く賛同するが、成立後も不断の態勢整備
が必要だ。領域横断的な脅威や、他国からの武力攻撃に至らない「グレー
ゾーン事態」に対する切れ目のない制度構築の必要性が法案策定の根拠
だ。今国会では法案が合憲か違憲かの議論に時間を割かれ、安保政策の
在り方を問う議論が不十分だ。海上保安庁の武器使用権限拡大の議論は
欠落し、集団的自衛権行使を認める要件も限定されすぎたとの危惧がある。

 ●伊藤真(いとう・まこと) 日本弁護士連合会・憲法問題対策本部・副本
部長(野党推薦)
 安保・外交政策は、憲法の枠の中で実行するのが立憲主義の本質的要請
だ。人間が犯す過ちをいかに事前にコントロールするかが憲法論の本質だ。
憲法を無視し、今回のような立法を進めるのは立憲民主主義国家としてあり
得ない。国民の理解が得られないまま、採決を強行して法案を成立させる
ことなどあってはならない。安保法案は国民主権や民主主義、憲法の平和
主義、立憲主義に反する。廃案にすべきだ。



 同9月8日の夕方。

 参議院の特別委員会が、9月15日に「中央公聴会」を開くことを、自民・
公明両党などの賛成多数で議決しました。

 これについて、野党側の筆頭理事を務める民主党の北澤・元防衛大臣
など、民主党、維新の党、共産党の理事らが国会内で記者会見し、

 「与党はとんでもない暴挙に出た。地方公聴会を飛ばして、中央公聴会
の強行採決をしたことは断じて許さない。これからも、真剣に議論はして
いくが、このような暴挙は、2度と許さないという強い決意で臨んでいく」
と述べて、与党側の対応を批判しています。



 同日の夜。

 東京の新宿では、安全保障関連法案に反対する人たちが集会を開き、
主催者側の発表で、およそ5000人が集まりました。

 人々は雨の中でも、「戦争させない」とか、「憲法9条を壊すな」と書か
れたプラカードを手にして、法案に反対する意思を示しています。

 2人の息子を連れて埼玉県から参加した女性(30代)は、「各地で反対
の声が上がっているのに採決しようとするのはおかしいと思います。本当
に必要な法案であれば、国民が納得できるまで説明を尽くすべきだと
思います」と話しました。

 東京都内の会社員の男性(30代)は、「国会の審議が重要な局面に
なったので、仕事を終えて参加しました。十分な説明がなされていない
ので、法案は撤回してほしい」と、話しています。


             * * * * *


 9月11の午前。

 民主、維新、共産、社民、生活、日本を元気にする会の各党と、参院
会派の無所属クラブが、国会内で野党党首会談を開きました。

 各党首は、参議院で審議中の安全保障関連法案の採決を阻止する
ため、
 衆議院への「内閣不信任決議案」の提出や、参議院への「問責決議
案」の提出を視野に、一致して対応する方針を確認しました。

 また、「地方公聴会」や「参考人質疑」などを開いて、徹底審議をする
ように求めていくことも確認しました。

 民主党の岡田代表は、会談後の記者会見で、「与党が強行採決する
状況になれば、問責決議案も不信任決議案の提出も当然ある。まずは
今国会での採決阻止を目指す」と、強調しています。



 同日の午後。

 参議院の特別委員会が、安全保障関連法案をめぐり、9月16日に
神奈川県の横浜で「地方公聴会」を開くことを議決しました。

 自民党は当初、「地方公聴会」の開催に否定的でしたが、野党の要求
に譲歩した形となりました。

 しかし与党側は、地方公聴会を開いたあと、その日のうちに締めくくり
の質疑を行なって、翌9月17日までに特別委員会の採決に踏み切り、
9月18日までに法案の成立を目指す方針です。


            * * * * *


 以上、

 安全保障関連法案をめぐる、9月4日~11日までの攻防について
見てきました。



 与党は、遅くても9月18日までの「法案成立」を目指していますが、

 野党が、特別委員会の採決後に、「問責決議案」や「内閣不信任案」
などを連発すれば、

 参議院本会議の採決が大幅にずれ込んで、9月18日までに法案
が成立しない可能性も、けっして否定できません。



 しかし自民党は、もしもそんな事態になった場合は、「60日ルール
(注1)」の適用も排除しない方針です。

------------------------------
注1 60日ルール:

 衆議院が可決した法案を、参議院が60日以内に採決しない場合、
参議院はその法案を否決したとみなし、衆議院の出席議員の3分の
2以上の賛成で再可決をすれば、その法案が成立するという憲法の
規定。

 「安全保障関連法案」の場合は、7月16日に衆議院を通過している
ので、9月14日以降から「60日ルール」の適用が可能になります。
------------------------------



 このように、安倍政権と与党は、

 国民の世論をまったく無視し、こんな強引な手段を使ってまでも、

 「安全保障関連法案」を、いまの国会で成立させようとしている
のです!




      目次へ        トップページへ