立ち上がる学者たち
                              2015年8月2日 寺岡克哉


 集団的自衛権の行使を可能にする「安全保障関連法案」が、

 7月16日に、衆議院の本会議で「強行採決」されました。

 そして現在、同法案は、参議院で審議が行われている最中
です。



 そのため、ここ最近では、

 安全保障関連法案への「反対世論」が、ものすごく高まって
おり、

 連日のように、「反対集会」や「デモ」が行われています。


           * * * * *


 ところで、そのような反対運動の一つに、

 ノーベル物理学賞を受賞した、益川敏英さんが発起人の一人
になっている、

 「安全保障関連法案に反対する学者の会というのが、あり
ます(注1)。

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注1:

 「安全保障関連法案に反対する学者の会」の発起人は、以下の
7人です。

 浅倉 むつ子(早稲田大学教授 法学)
 上野 千鶴子(東京大学名誉教授 社会学)
 内田 樹(神戸女学院大学名誉教授 哲学)
 佐藤 学(学習院大学教授 教育学)
 廣渡 清吾(専修大学教授 法学/日本学術会議前会長)
 益川 敏英(京都大学名誉教授 物理学/ノーベル賞受賞者)
 間宮 陽介(青山学院大学特任教授 経済学)

 また、同会における学者・研究者の賛同者は、7月31日現在
で、1万2644人となっています。
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 じつは益川さん(注2)は、私が以前に所属していた名古屋大学・
物理学教室の大先輩で、

 名古屋大学で特別講義をして頂いたときに、直接お会いしたこと
もあります。

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注2:

 名古屋大学・物理学教室では、「すべての研究者は基本的に
同等である」という考え方がとても強く、
 大学院生が教授に対しても、「先生」とは呼ばずに「さん」付け
で呼ぶのが、習(なら)わしになっています。

 益川さんの現在の役職は、名古屋大学 素粒子宇宙起源研究
機構・機構長(特別教授)です。
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 そしてまた、私は若いころ、ものすごく無謀で無鉄砲なことに、

 「自分が科学者として、社会にたいして意見が言えるようになるた
めには、ノーベル賞ぐらいは取れなければだめだ」と、自分ひとりで
勝手に思い込んでいました。

 そんな事もあって、私は今まで、

 「日本のノーベル賞学者たちは、せっかく賞が取れたのに、社会に
たいして、あまりにも意見を言わなすぎる」という不満を、ずっと持ち
続けていたのです。



 以上のような理由で、

 このたびの益川さんたちの活動は、私の希望や理想と、まったく
一致するものであり、

 微力ながら、本サイトでも紹介して、

 1人でも多くの方に、その活動を知って頂きたいと思った次第です。


             * * * * *


 さて、先日の7月20日。

 「安全保障関連法案に反対する学者の会」の、学者およそ150人が、

 東京都内で記者会見をしました。



 この場で、益川さんは、

 「首相が有事だと思ったら戦争できるというとんでもない話。立憲主義
に真っ向から敵対する」と、安全保障関連法案について批判しました。

 その上で、

 「国民も安倍晋三首相のやろうとしていることがいかに危険か認識し
始めた。ここ1週間で鋭い反対世論の立ち上がりがある」と、述べてい
ます。



 また、上野千鶴子・東京大学名誉教授(社会学)は、

 「 ”手遅れにならないうちに” と、これだけの研究者が、やむにやま
れぬ思いで集まった」

 「学者と学生が一緒に闘っている。国の運命に関わる法案を廃案に
できないことはない」と、力を込めて訴えました。



 千葉大学の酒井啓子教授(イラク現代政治)は、

 「自衛隊が人を殺すようになり、それなりに築いてきた派遣先での
国際評価は一変する」と、強調しました。

 その上で、

 「国民も海外でリスクを負わなければならず、強い危惧がある」と、
危機感を示しています。


             * * * * *


 ところでまた、

 「安全保障関連法案に反対する学者の会」は、同じく7月20日に、

 廃案を求める「抗議声明」も発表しました。



 その全文は、以下のようになっています。

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<安全保障関連法案の衆議院特別委員会と本会議での強行採決
 に対する抗議声明>


 7月15日衆議院特別委員会、翌16日本会議で、集団的自衛権の行使
を容認することを中心とした違憲性のある安全保障関連法案が強行採決
されたことに、私たちは強い怒りをこめて抗議します。

 各種世論調査では、戦争法制としての本質をもつ安全保障関連法案に
反対が多数となり、8割を超える大多数が今国会での成立は不必要として
いた状況の中での強行採決は、主権者としての国民の意思を踏みにじる
立憲主義と民主主義の破壊です。

 首相自身が、法案に対する「国民の理解が進んでいない」ことを認めた
直後の委員会採決強行は、現政権が国民世論を無視した独裁政治で
あることを明確に示して
います。

 衆議院憲法審査会で3人の憲法学者全員が安全保障関連法案は「違憲」
だとし、全国のほとんどの憲法学者が同じ見解を表明しているにもかかわ
らず、今回の強行採決が行われたことは、現政権が学問と理性、そして
知的な思考そのものを無視していること
のあらわれです。

 戦後の日本は憲法9条の下で、対外侵略に対して直接的な関与はしてき
ませんでした。政府は「安全保障環境の変化」を口実に、武力行使ができ
る立法を強行しようとしていますが、戦後日本が一貫してきた隣国との対話
による外交に基づく信頼関係こそが、脅威を取り除いてきたという事実を見
失ってならないと思います。

 私たちが6月15日に表明した見解は、多くの学者、大学人に共有され、
いくつもの大学で、学生と教職員が一体となった取り組みが行われました。
私たちは参議院での審議を注意深く見定めながら、立憲主義と民主主義
を守り、この法案を廃案にするために、国民とともに可能なあらゆる行動を
実行します。

 2015年7月20日  安全保障関連法案に反対する学者の会
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 うえの声明文の中で、私が太字で強調したところ、つまり、

 「現政権が国民世論を無視した独裁政治であることを明確
に示して」
いること。

 「現政権が学問と理性、そして知的な思考そのものを無視
していること」




 私は、これら2つの部分にたいして、

 「正にその通りだ!」という、とても深い共鳴と感銘をうけました。

 また ”現政権” つまり、

 「安倍政権」を痛烈に批判しており、ものすごく痛快でもあり
ます。


            * * * * *


 最後に、

 これは学者だけに限りませんが、「社会的な知名度の高い人」
には、

 ぜひとも、今回のような批判活動を、積極的に行ってもらいたい
と願ってやみません。



 さらに言わせて頂くと、

 「知名度の高い人」は、そうする資格があり、

 また、そのような責任を負うべきだと、私は考えています。



 なぜなら、「知名度が高い」ということは、

 (私なんかと違って)それだけ「社会的な影響力が大きい」と、

 いうことなのですから・・・ 



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