IAEAの最終報告書
2015年5月31日 寺岡克哉
5月24日。
IAEA(国際原子力機関:注1)が、福島第1原発事故を総括した
「最終報告書」の、全容が明らかになりました。
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注1 IAEA 国際原子力機関:
国連の関連機関で、1957年に設立されました。オーストリアの首都
ウィーンに本部が置かれ、164ヶ国が参加しています。
この機関の目的は、原子力の平和利用を促進し、軍事利用を防止
することです。
ちなみに現在、この機関のトップである事務局長は、日本の天野之弥
(ゆきや)氏が担っています。
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この、IAEAによる「最終報告書」は、要約版でさえ、およそ240ページ
もあるのですが、
その「要旨」は、共同通信の報道によると、以下のようになっています。
(便宜上、各文に番号を付けました。また、「太字」にした部分は、とくに
私が重要だと思った所や、気になった所です。)
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(1)(自然災害など)外的な危険要因に対する原発の脆弱(ぜいじゃく)
性について、体系的で総合的な方法で見直したことがなかった。
(2)事故当時、国内や海外の原発運転の経験は規制の中で十分に
考慮されていなかった。
(3)東電は福島県沖でマグニチュード(M)8.3の地震が発生すれ
ば最大約15メートルの津波が第1原発に達すると試算していた
が、対策を取らなかった。原子力安全・保安院も迅速な対応を求め
なかった。
(4)2007年の訪日調査で「日本には設計基準を超える事故について
検討する法的規制がない」と指摘、保安院が安全規制の向上に中心
的な役割を果たすよう求めた。
(5)第1原発の設計は、津波のような外的な危険要因に十分対応して
いなかった。IAEAの安全基準で勧告された確率論的安全評価(PS
A)による審査は十分実施されず、非常用ディーゼル発電機の浸水
対策などが欠けていた。
(6)原発で働く東電社員らは津波による電源喪失や冷却機能の喪失
に十分な備えがなかった。適切な訓練を受けず、原発の状況悪化
に対応できる機器もなかった。
(7)原発の安全に関する問題に遅滞なく対応する方法について、どの
組織が拘束力のある指示を出す責任と権限を持つのか明確では
なかった。
(8)事故当時の規制や指針、手続きは重要な分野で国際的な慣行に
十分従っていなかった。10年ごとの定期安全レビューでは外的な
危険要因の再評価が義務付けられていなかった。過酷事故の管理
や安全文化でも国際慣行との違いが目立った。
(9)日本では原発が技術的に堅固に設計されており、十分に防護
が施されているとの思い込みが何十年にもわたり強められてき
た。その結果、電力会社や規制当局、政府の予想の範囲を超え、
第1原発事故につながる事態が起きた。
(10)原発事故と自然災害への対応では、国と地方の計画がばらばら
だった。事故と災害の同時発生に協力して対応する準備がなかった。
(11)日本の国内法と指針は、緊急対応に当たる作業員の放射線防護
の措置に言及していたが、詳細な取り決めが不足していた。
(12)子供の甲状腺被ばく線量は低く、甲状腺がんの増加は考えに
くい。一方、事故直後の被曝線量に関しては不確かさが残る。
(13)避難住民の帰還に備え、インフラの再構築やその実行可能性、
地域の持続的な経済活動を検討する必要がある。
(14)汚染された原子炉建屋への地下水流入を制御することが依然
必要。汚染水問題では全ての選択肢を検討することが必要。
(15)復興活動に関する国民との対話が信頼醸成には不可欠。
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上の「要旨」をざっと見ると、これまで何度も指摘されてきたことで
すが、
文番号(9)にあるように、いわゆる「安全神話」を信じ込んできた
ため、
(3)にあるように、最大15メートルの津波が第1原発に達すると
試算していたのに無視し、
(5)にあるように、非常用ディーゼル発電機の浸水対策などが欠け、
(6)にあるように、原発で働く者たちは津波による電源喪失や冷却
機能の喪失に十分な備えがなく、適切な訓練を受けず、原発の状況
悪化に対応できる機器もありませんでした。
そして、いざ原発事故が起こっても、
(7)にあるように、どの組織が拘束力のある指示を出す責任と権限
を持つのか明確ではなく、
(10)にあるように、事故と災害の同時発生にたいして、国と地方が
協力して対応することが出来なかったのです。
これらの「ていたらく」は、何度聞いても腹立たしいかぎりですが、
このたびのIAEAの最終報告書により、その「ていたらく」ぶりが、
世界中に知れ渡り、認識されることになったと言ってよいでしょう。
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ところで私は、すごく気になったのですが、
IAEAは、上の要旨の(12)で、「子供の甲状腺被ばく線量は低く、
甲状腺がんの増加は考えにくい」
という、見解を表明しています。
が、しかしながら、
事故当時に18歳以下だった、福島県の人々を対象に実施している
甲状腺検査では、
甲状腺がんや、その疑いがあると診断される人が、最近においても
次々と現れており、
これから先、ほんとうに甲状腺がんの増加が起こらないのかどう
か、ものすごく疑問に感じるところです。
また、上の「要旨」には書かれていませんが、
IAEAは、文番号(14)で触れている「汚染水の対策」について、
浄化設備でも除去できない「トリチウム」を含む水の、海洋放出を
検討するように提言しています。
が、しかしこれも、
本当に、そんなことをしても良いのか、大きな疑問を感じるところ
です。
私は思うのですが・・・
IAEAが、甲状腺がんや、汚染水の処理にたいして、このような見解
を示すのは、
上の方の(注1)にありますように、所詮(しょせん)IAEAというのは、
原子力の(平和)利用を推進するための機関だからでは、ないで
しょうか。
どうしても、そのように思えてなりません。
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