沖縄の基地問題 2
2015年4月5日 寺岡克哉
前回に引きつづき、
沖縄県にあるアメリカ軍・普天間(ふてんま)基地を、同県の辺野古(へ
のこ)に移設する問題について、見ていきたいと思います。
(話の反復を避けるため、前回で取り扱った部分については説明を省い
ています。なので、まだ読んでいない方は、前回の「エッセイ684」から
ご覧になって下さい。)
* * * * *
林・農林水産相は、3月30日。
沖縄県の翁長(おなが)知事が、沖縄防衛局に出した、辺野古沿岸部
での作業停止指示の効力を、
一時的に停止する決定をしました。
その、農林水産相による「決定書」の要旨は、以下のようになってい
ます。
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●行政不服審査請求の採決までの間、沖縄県知事による作業停止
指示の効力を停止する。
●県の指示の適法性は、事実関係などの審理を尽くす必要がある。
●県の指示は行政不服審査法上の処分に当たる。県知事の許可
が必要な点で国は私人と変わらないため申し立ての資格があり、
沖縄県防衛局の申し立ては適法。
●作業停止により、米軍普天間飛行場周辺住民に対する危険性
の継続による損害や、日米の信頼関係への悪影響による外交・
防衛上の損害が生じるとする沖縄県防衛局の申し立ては相当。
●作業の停止という県の指示の性質上、指示の効力停止以外の
方法で損害の回避はできない。
●作業を停止しなければサンゴ礁の損害の有無を調べられない
との関係は必ずしも認められない。県指示の効力を停止しても、
公共の福祉に重大な影響を及ぼす恐れがあるとはいえない。
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これについて菅・官房長官は、同日午前の記者会見で、
「沖縄防衛局からなされた申し立てに対して、水産資源保護法を
所管する農林水産大臣が、公平、中立な立場から審査し執行を
停止した」
「政府としては、引きつづき、沖縄の負担軽減に取り組むと同時
に普天間飛行場の一日も早い返還を実現することが重要だと考え
ており、ボーリング調査などの作業を粛々と進めたい」
と、述べました。
一方、
沖縄県の翁長知事は、同日の午後5時すぎに、県庁で記者団に
たいし、
「国が申し立てをし、同じ国であるの農林水産省が審査するという
対応は、審査が公平公正に行われたか理解できず、残念だ」
「今後は専門家とも相談のうえ、対応したい」と、述べました。
その上で翁長知事は、作業中止の期限としていた3月30日になっ
ても、沖縄防衛局が現地での作業を続けていることに対し、
「”粛々と作業を続けていく” という言葉は何十回も聞いている」
「大変残念だが、私たちもいろいろ精査をしながら対応していき
たい」と、述べています。
沖縄県の今後の対応について、記者団から問われましたが、
翁長知事は、「軽々に答えられない。専門家と相談している」と、
慎重な言い回しに始終しました。
このように、翁長知事が用心深く言葉を選ぶのは、
「不用意に発言すれば、国との法廷闘争で不利になりかねない
(知事側近)」からだと、されています。
県は、水面下で顧問弁護士との会合を重ねており、司法対決への
準備を進めていますが、
県の幹部は、「国は圧倒的な陣容で攻めてくる。一言一句が命取り
になりかねない」と、警戒しているということです。
* * * * *
4月2日。
菅・官房長官は、午前の記者会見で、
沖縄県の翁長知事と、4月5日に会談を行う方向で調整している
ことを明らかにしました。
その上で、
「普天間基地の危険を一日も早く除去しなければならず、名護市
辺野古への移設が唯一の解決策であることや、基地負担の軽減を
実現したいということを説明し、移設に理解をいただきたい」
「お互いに、きたんのない意見交換をまずやりたい。会談を一回
やっただけで物事が解決するとは思っていない」と、述べています。
一方、同日。
上京していた翁長知事は、菅・官房長官との会談について、
「沖縄の民意にご理解をいただく意味でも話をして、私も申し上げた
いことは申し上げたい」と述べ、新基地建設反対の意思を、会談の場
で伝える考えを強調しました。
菅・官房長官が主張している、「普天間飛行場の危険性除去」に
ついては、
「これは直接話をした方がいい。一言でこういった話をすると誤解
を招く」と、述べるにとどめています。
* * * * *
4月5日。
沖縄入りしていた菅・官房長官は、那覇市内のホテルで翁長知事と
会談をしました。
この中で、菅・官房長官は、
「日米同盟の抑止力の維持と、普天間基地の危険性の除去を考えた
とき、名護市辺野古への移設が唯一の解決策だ」
「これは、日本とアメリカの間で真摯(しんし)に議論してきた合意事項
でもある」
「辺野古への移設を断念することは、普天間基地の固定化にもつなが
るというなかで、政府は関係法令に基づいて工事を進めている」
と述べ、普天間基地の危険性を除去するのに向けて、移設計画への
理解を求めました。
その上で官房長官は、
「政権としては約束したことは必ずやるという思いのなかで、1つ1つの
負担軽減策、そして、沖縄県の皆さんと連携しながら経済政策を進めて
いき、信頼感を取り戻していきたい」
と述べ、政府として、沖縄県と協力して基地負担の軽減や沖縄振興に
引きつづき努力する考えを伝えました。
これに対して翁長知事は、安倍首相とも会談したいという考えを示した
上で、
「日米安全保障体制は重要だと理解しているが、日本の安全保障は
日本国民全体で支えるという気構えがなければならない」
「今日まで沖縄県がみずから基地を提供したことはない。上からの
目線で”粛々”という言葉を使えば使うほど、沖縄県民の心は離れ、怒り
は増幅していく」
「辺野古の新基地は、絶対に建設することはできないと確信している」
と述べて、移設計画を断念するように求めたため、会談は平行線に
終わりました。
会談後の記者会見で、菅・官房長官は、
「これから沖縄県と話を進めていく第一歩になった。基地負担の軽減
策とか経済の振興策では沖縄県と連携していく必要があるので、そう
いうことはしっかりやっていきたい」
と述べましたが、その一方で、
「(辺野古への基地移設について)工事はさまざまな関係法令に基づ
いて16年かかって進めているので、そこは、やはり進めさせていただ
くことに変わりがない」と、述べています。
また、翁長知事は、会談後の記者会見で、
「きょうは平行線だったが、言いたいことは申し上げた。きょうの会談
を取っかかりとして大切にしなければならない」
「これから沖縄の主張はしやすくなったと思う。しかし、基地問題で
後退することは全くない」
「私は、”辺野古に基地が絶対できないように、県の行政手続きの
なかであらゆる手段をつかう” と、言っている」
と、述べています。
* * * * *
以上、ここまで見てきましたが、
やはり会談では、沖縄県と国が、真っ向から対立してしまいました。
今後、翁長知事は、安倍首相とも会談をすることになって行くと思うの
ですが、
「辺野古に基地が絶対できないように、県の行政手続きのなかであら
ゆる手段をつかう」
と、明言している翁長知事が、この先どのような対抗策を講じていくの
か、注目していきたいところです。
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