沖縄の基地問題 1
                            2015年3月29日 寺岡克哉


 沖縄のアメリカ軍基地における問題は、

 ずっと昔(太平洋戦争の終結後)から、いろいろ事あるごとに、
取り沙汰されてきました。



 たとえば近年では、

 1995年に、アメリカ兵による少女暴行事件が発生し、沖縄のアメ
リカ軍基地にたいする、大規模な反対運動が巻き起こりました。

 2004年には、沖縄国際大学に、アメリカ軍のヘリコプターが墜落
し、大規模な抗議集会がおこなわれています。

 2009年には、民主党の鳩山首相が、アメリカ軍・普天間(ふてん
ま)基地の「県外移設」を宣言して、大きな物議を起こしました。



 そして、最近でもまた、

 沖縄県の翁長(おなが)知事が、アメリカ軍・普天間基地の移設
計画にたいして異議を唱え始めたため、

 沖縄の基地問題が、ふたたび大きく取り上げられています。


 今回は、そのことについてレポートしたいと思います。


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 3月23日。

 沖縄県の翁長知事は、臨時の記者会見を行ない、

 宜野湾(ぎのわん)市にあるアメリカ軍の普天間基地を、名護市
の辺野古(へのこ)に移設する計画について、

 辺野古の沿岸部で進められている海底ボーリング(掘削)調査を
ふくめ、「海底面の現状を変更する行為をすべて停止すること」を、

 沖縄県防衛局にたいして指示したと、明らかにしました。



 さらには、3月30日までに作業を停止して報告しなければ、

 来週にも、「岩礁破砕に関する許可を、取り消すことがある
(注1)」
と警告したのです。



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注1 岩礁破砕許可の取り消し:

 「岩礁破砕」というのは、海底の岩石とサンゴ礁を破壊し、岩石や
土砂を採取する作業のことです。

 岩礁破砕の「許可」には、県の規制で条件がつけられており、
「申請外の行為をし、または条件に違反した場合は、許可を取り
消すことができる」となっています。

 沖縄県は、許可を取り消せば岩礁を破壊する行為は認められ
ないことになり、
 ボーリング調査だけでなく、辺野古に新しい基地を作るための
「埋め立て工事そのもの」も、行なうことができないとしています。
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 ちなみに、

 このたび生じた問題の概略は、だいたい以下のようなことです。



 まず国が、辺野古基地の建設に反対する市民を排除するために、

 埋め立て海域を取り囲んで、アメリカ軍や工事用船舶以外の航行
を禁止する「臨時立ち入り制限区域」というのを設けました。

 その上で昨年の8月に、埋め立てを承認した仲井間・前知事から、
「岩礁破砕の許可」を得たのです。



 沖縄防衛局は、

 172ヘクタールもの広大な「臨時立ち入り制限区域」を示す、「浮
標灯」を固定する重りとして、

 海底に、最大で160キロの鋼板アンカーを、248個設置しました。

 しかし、大型台風の襲来によって、そのうちの120個が流出して
しまったのです。

 消えたアンカーの代わりにした「ブロック塊」の重量は10~45トン
もあり、小さく見積もっても、当初のアンカーの62~280倍に及んで
います。



 この大型コンクリート製ブロックが、岩礁破砕の許可区域外で、
サンゴ礁を損傷した蓋然(がいぜん)性が高く、

 沖縄県が必要な調査を実施し、調査終了後に改めて指示するまで
の間、

 「海底面の現状を変更する行為をすべて停止」するように、翁長知事
が沖縄防衛局に指示したわけです。



 翁長知事は、3月23日の記者会見で、

 「指示に従わなかった場合は、(岩礁破砕の)許可を取り消すこと
になる」

 「腹は決めている。そういった事態になった場合は、粛々とさせて
いただきたい」

 と述べており、沖縄防衛局が指示に従わなかった場合には、岩礁
破砕許可が取り消される公算が大きくなっています。


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 この問題にたいする「政府側」の対応は、およそ以下のようです。


 まず、菅・官房長官は3月23日の記者会見で、

 「工事を中止する理由は認められない。”この期に及んで”このよう
なことは極めて遺憾」と強調しました。

 会見では、「この期に及んで」という言葉を5回も使用し、沖縄県側
にたいして大きな不快感を示しています。

 さらに菅・官房長官は、翌日3月24日の記者会見で、

 翁長知事の指示は「違法性が重大かつ明白で無効だ」と批判し、
「現在の作業を中断する理由にはならない」と述べています。



 中谷・防衛相は3月24日。

 参議院の外交防衛委員会で、沖縄防衛局が、法律を管轄する農林
水産相にたいして、審査請求権と指示の執行停止の申し立て書を提出
したことを明らかにしました。

 中谷・防衛相は、「きょう午前、沖縄防衛局の職員が沖縄県庁を訪問
し、アンカーの設置は、地殻そのものを変化させる行為ではなく岩礁
破砕にあたらないことや、許可手続きの対象となっていないことなどを
説明した。このため、きのうの知事の指示は無効なものであり、現在
行っている作業を中断する理由とはならないことも説明した」と、参議院
外交防衛委員会で述べました。

 その上で、中谷・防衛相は、「今回の指示自体が無効なものである
ことを明らかにするため、きょう昼ごろ、法令によって、沖縄防衛局から、
農林水産大臣にたいして、取り消しを求める審査請求書と、指示の執行
停止の申し立て書を提出した」と述べています。



 これを受けて、農林水産省は、

 沖縄県と、沖縄防衛局の双方から意見を聞いたうえで、翁長知事の
指示を執行停止することの必要性や、指示の有効性について、判断
することにしています。

 もしも、翁長知事の指示が「無効」と判断されれば、沖縄県は差し
止め訴訟に踏み切るとみられ、

 最終的な決着は、法廷闘争にもつれ込む可能性が高まっています。


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 また、このたびの問題に対する、

 アメリカ政府の反応や、日本政府のアメリカへの対応は、およそ
以下のようです。



 まず、

 アメリカ国務省のハーフ副報道官は、3月23日の記者会見で、

 「移設に向けた作業はアメリカと日本の長年の取り組みが生んだ
意義のある成果であり、米軍再編について共通の展望を認識する
ための重要なステップだ」

 と述べて、作業は計画どおりに進められるべきだという考えを強調
しました。



 中谷・防衛相は3月25日。

 来日しているアメリカ軍制服組トップの、デンプシー統合参謀本部
議長と、防衛省で会談をしました。

 この場で中谷・防衛相は、普天間基地の辺野古への移設につい
て、「着実に進めていく方針にいささかも揺るぎはない」と述べました。

 これに対して、デンプシー統合参謀本部議長は、「普天間移設は
重要だ。政府の取り組みに感謝したい」と応じています。



 安倍首相も、同3月25日。

 デンプシー統合参謀本部議長の表敬訪問を受け、首相官邸で会談
をしました。

 この場で安倍首相は、「(辺野古への)移設をはじめとする在日米軍
再編について、予定通りに作業を進めていく」と述べています。


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 以上、ここまで見てきましたが、

 沖縄県と、国が、真正面から衝突する形になってしまいました。



 安倍首相が、アメリカに対して、

 辺野古への移設を「予定通りに進めていく」と明言しており、

 国側は、沖縄県にたいして、一歩も引き下がらない構えです。



 3月28日現在における、最新の情報では、

 林・農林水産相が、翁長知事の指示の効力を一時的に停止する
方針を固めており、

 3月30日にも、沖縄県と沖縄防衛局にたいし、文書で通知すると
しています。



 これに対して、

 翁長知事が、どのような対抗措置をとるのか、

 3月30日以降の動きも、まったく目が離せない状況となっています。



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