汚染水流出を隠蔽した理由
2015年3月22日 寺岡克哉
前回のエッセイ682で、
放射性物質に汚染された水(汚染水)が、原発の港湾内ではなく、
「外洋」に流出していたことを、
昨年の4月から今年の2月まで、およそ10ヶ月もの間、
東京電力が「隠蔽(いんぺい)」していたことについて、レポートしま
した。
ところで、東京電力が2015年2月27日付けで発表した、
「2号機原子炉建屋大物搬入口屋上部の溜まり水調査結果」という
資料の14ページ目を見ると、以下のように記述されています。
(以下の記述で、「K排水路」というのは、汚染水を外洋に流出させ
た、問題の排水路です。)
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4.K排水路の放射能濃度に関する情報発信について
<K排水路の初回サンプリング結果のお知らせ>
●平成25年12月13日にK排水路において高い放射性物質が検出
されたことをお知らせ(定例記者会見)
<その後の対応方針、状況のお知らせ>
●特定原子力施設監視・評価検討会等において、排水路の汚染の状況
ならびに清掃、除染の方針等をお知らせ
●排水路の清掃や除染の状況については、廃炉汚染水対策現地調整
会議において写真等でご報告
●一方、清掃、除染作業は個別の対策の効果を確認するためにデー
タを取得しながら進められたが、作業に集中するあまり平成26年4月
から採取したデータについて、公表することに思い至らず
●清掃、除染等が進捗し、平成26年12月頃から排水路排水口の濃度に
低減傾向は見られるものの、K排水路の排水口濃度は、期待したほどの
効果が見られず
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上の記述を見ると、
じつは東京電力は、「K排水路」において、高い放射性物質が検出
されたことを、
平成25年(2013年)の12月13日に行われた、定例記者会見で
発表しています。
そして、その後、
(K排水路の)清掃、除染作業は、個別の対策の効果を確認するため
に、データを取得しながら進められています。
つまり、K排水路の汚染水データは、2013年の12月13日以降から、
定期的に取り続けられていたものと思われます。
ところが!
平成26年(2014年)つまり昨年の、4月から採取したデータについ
ては、
作業に集中するあまり、公表することに思い至らなかったそうです。
しかし私は、
そんな理由を、「はい、そうですか」と簡単に信じることは出来ません。
もっと他に、じつは「本当の理由」があったのではないかと、疑って
います。
以下、そのような疑惑を持った原因について、お話してみましょう。
* * * * *
なぜ東京電力は、
昨年の4月以降の、K排水路における汚染水データを、公表しなく
なったのか?
それは、他でも指摘されていますが、
その1か月後の、昨年5月から始まった「地下水バイパス」(注1)
の実施にたいして、支障を来たすことを、
東京電力が恐れたからではないかと思われます。
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(注1) 地下水バイパス:
1日あたり約400トンの地下水が原子炉建屋に流入し、放射性物質
に汚染された水に変わっていますが、
「地下水バイパス」というのは、山側から流れてきた地下水を、建屋
の上流でくみ上げ、海に放出することによって、建屋内への地下水の
流入量を減らして、汚染水の増加を抑制する方法です。
ちなみに東京電力は、2014年の9月18日。「地下水バイパス」に
よって、原子炉建屋への地下水流入量が、1日およそ50〜80トン
減ったとする試算を発表しています。
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ところで、
「地下水バイパス」を実施するにあたって、東京電力が独自に決め
た排水基準は、
セシウム134は、1リットルあたり1ベクレル未満。
セシウム137も、1リットルあたり1ベクレル未満。
ストロンチウムなどベータ線を出す放射性物質は、1リットルあたり
5ベクレル未満となっています。
このような、(国の管理基準にくらべれば厳しい)排水基準でも、
風評被害を恐れる、福島県の漁業関係者の人々にとって、
「地下水バイパス」を受け入れることは、苦渋の決断でした。
ところが!
その数10倍~数100倍もの高濃度の汚染水が、K排水路から、
直接外洋に流出していたわけです。
K排水路の「排水口」における、放射性物質の濃度は、
最大値で、
セシウム134が、1リットルあたり280ベクレル。
セシウム137は、1リットルあたり770ベクレル。
ストロンチウムなどベータ線を出す放射性物質が、1リットルあたり
1500ベクレルです。
また、2014年4月~2015年2月の期間においては概(おおむ)ね
セシウム134が、1リットルあたり10ベクレル~200ベクレルていど。
セシウム137は、1リットルあたり数10ベクレル~700ベクレルていど。
ストロンチウムなどベータ線を出す放射性物質が、1リットルあたり
数10ベクレル~1000ベクレルていどと、なっています。
一方、排水量について見ても、
「地下水バイパス」は、2014年5月21日に開始されてから、2015年
3月19日現在まで、合計の排水量が88314トンであるのに対し、
K排水路は、1日あたりの排水量がおよそ1700トンにも上っており、
それが最初に発表された2014年12月から続いていたとすると、2015
年3月19日現在まで、合計753100トンになります。
このように排水量も、「地下水バイパス」よりも「K排水路」の方が、
8.5倍ぐらい多いのです。
(753100÷88314≒8.53)
* * * * *
つまり!
東京電力が、「地下水バイパス」の安全性を訴えていた、その裏で、
地下水バイパスの水よりも、ずっと高濃度で、しかも大量の汚染水が、
そのまま外洋へ、「たれ流し」になっていた訳です。
こんなことが、ひろく公(おおやけ)になってしまったら、
誰でも、「地下水バイパスの実施」が、頓挫しかねないと考えてしまう
でしょう。
これが、「汚染水の流出を隠蔽した本当の理由」だと思います。
福島県の漁業関係者の人々は、「信頼関係が崩れた」と怒っていま
すが、
「地下水バイパス」の裏に隠れて、こんな酷(ひど)いことが横行して
いたのでは、
その憤(いきどお)りも、まったく当然だと言わざるを得ません!
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