日本人がテロの標的に 2
2015年2月15日 寺岡克哉
「イスラム国」が、すべての日本人を「テロの標的」にしてしまった
ため、
日本側は、国の内外において、さまざまな対応に追われています。
今回は、そのことについてレポートしたいと思います。
* * * * *
2月3日。
日本政府は、「イスラム国」が日本人を狙ったテロを警告していること
を踏まえて、
「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」の会合を、首相官邸で
開きました。
この会合には、
本部長である菅・官房長官や、山谷・国家公安委員長のほか、外務、
防衛、法務など関係省庁の副大臣たち、内閣危機管理官、国家安全
保障局長などが出席しています。
菅・官房長官は、会合の冒頭で、
「(”イスラム国”は)動画で日本国民をテロの対象とすることも言及
している」
「改めて我が国をめぐるテロの脅威が現実のものになるとの認識
を共有してく」
「非道卑劣きわまりないテロは絶対に起こしてはならない強い決意
で、テロの未然防止に努めて行かなければならない」
と、強調しました。
そして、この会合では、
在外公館による、海外日本人への注意喚起の徹底。
原子力発電所、空港、公共交通機関など、重要施設の警戒や警備
の強化。
個人識別情報などを活用した、厳格な入国審査の徹底。(テロリスト
の入国防止)
入管における、携帯品などの危険物調査の厳格化。(武器などの
流入防止)
等々の、対策を打ち出しています。
* * * * *
同じく2月3日。
この日に行われた閣議後の記者会見で、それぞれの各大臣が、
さまざまな「テロ対策」を表明しました。
まず、菅・官房長官は、閣議後の記者会見で、
「政府一丸となってテロの未然防止に全力をあげて取り組む」
と強調し、
情勢の変化に応じて、対策を不断に見直す考えを示しました。
麻生 副総理・財務相は、
「疑わしい取引の届け出義務の履行を徹底する」と述べて、
テロ資金対策の徹底を、金融機関に求めたことを明らかにしました。
中谷・防衛相は、
「軍事情報は自衛官でなければ分からない要素が強い。ヨルダンは
資源・エネルギーの供給元としてますます重要な地域だ。ヨルダンへの
(防衛駐在官の)派遣や、必要な所の増員に努めたい」と述べ、
テロ対策強化の一環として、ヨルダンへの防衛駐在官の派遣などを
新たに検討する方針を示しました。
下村・文部科学相は、
海外の日本人学校など、合計139校にたいして、警戒を呼びかける
「通知」を出したことを明らかにしました。
日本人の児童生徒が学ぶ在外教育施設は、世界の55ヶ国に合計で
139校あるのですが、
このうち、「イスラム国」が勢力圏を主張している地域には、日本人学校
が5校あります。
「通知」は2月2日付けで出されており、学校の警備体制の再点検や、
現地の警察当局との連携によって、通学・通勤中の安全確保に取り組む
よう求めていますが、
とくに、中東などにある計12校には、「厳重な警戒態勢」をとるように
注意を喚起しています。
また、文部科学省内には、日本人学校側の相談に24時間体制で応じ
るホットラインも開設しました。
さらに同省は、国内の大学にも、海外渡航する学生に注意を喚起する
ように要請しており、
とくに、テロの危険性が指摘されている国への留学を予定している学生
には、渡航時期の変更などの適切な判断を求めています。
* * * * *
同じく2月3日。
安倍首相は、この日に行われた参議院の予算委員会で、
テロ対策について「不断の見直しが必要」と強調しました。
また、安倍首相は同予算委員会で、在外日本人の安全確保に向け、
「在外公館や防衛駐在官の情報収集機能の強化を図っていくことが
重要だ」
と述べて、外国で軍事情報を収集する「防衛駐在官」を増やす方針も
強調しました。
さらに安倍首相は、同予算委員会で、
海外の日本大使館と現地の日本人会などで構成する「安全対策連絡
協議会」の活動を促進して、「危険情報の迅速な提供」に努めていく方針
を示しました。
また、日本人学校には、「警備の強化」を要請するとしています。
* * * * *
2月6日。
「イスラム国」が、今後も日本を標的にしていることから、
外務省は、海外にいる日本人の安全確保に向けた検討をしてきまし
たが、
中根・外務政務次官は、この日に記者会見をして、速やかに実行する
対策を発表しました。
それによると、
テロや災害などが起こったとき、事前に登録された携帯電話のメール
アドレスに情報を一斉送信するとともに、
「救助が必要な状況かどうか」などを返信してもらうことで、安否確認を
するという、「新たな仕組み」を設けるとしています。
また、
海外にある日本人学校にたいして、警備員の増員や、監視カメラの
設置などの「警備強化」を支援するほか、
パリやロンドンなどの5つの大都市には、外務省の担当官を派遣して、
現地の日本人を対象にした「安全対策のセミナー」を開催するなどと
しています。
* * * * *
ところで、「スポーツ」の世界でも、
「イスラム国」が、今後も日本人を標的にすると予告したことから、
中東で開催される国際大会への選手派遣の中止や、安全対策を
見直す動きが出ています。
たとえば、日本卓球協会は2月5日。クウェートで2月11日から開催
される国際大会と、カタールで2月17日から開催される国際大会への、
石川佳純さんらの派遣を見送りました。
日本レスリング協会も、イランで2月2日~14日に予定していた合宿
と、大会の参加を取りやめました。
日本フェンシング協会は、ヨーロッパに遠征中だったオリンピック2大会
連続銀メダルの太田雄貴さんらに、
「空港で日の丸を隠す。”JAPAN”のウエアを着ない」などの、異例の
指示を出しました。
ちなみに来年は、ブラジルのリオデジャネイロで、オリンピックが開催
されますが、
卓球の場合は、国際大会の成績を基に算出される世界ランキングで
オリンピックへの出場が決まるため、大会の不参加は、選手たちにとっ
て大きな痛手になります。
またクレー射撃は、オリンピック出場権を懸けたワールドカップ(W杯)
が、3月にアラブ首長国連邦(UAE)で開催されますが、安全か危険な
地域かの線引きが難しく、
日本クレー射撃協会の大江直之事務局長は、「選手は行きたがって
いるが、何かあった場合には協会の責任を問われる。選手の自己責任
とも言えない」と語っており、困惑を隠せない様子でした。
* * * * *
以上、ここまで見てきましたが、いったい何ということでしょう!
日本国内にある、原子力発電所、空港、公共交通機関などの
重要施設。
世界の55ヶ国に139校もある、日本人学校などの在外教育施設
と、そこに通う子供たち。
海外で仕事をする、日本人ビジネスマン。
海外で学習や研究をする、日本人留学生。
そして、海外遠征をするスポーツ選手たち・・・
じつに、たくさんの日本人が、「身の危険」を感じざるを得なく
なってしまいました!
ところで日本が、
「イスラム国」にたいして空爆を行うのは、憲法上、不可能なこと
です。
そしてまた、日本は「キリスト教国」でもありません。
それなのに、
「イスラム国」への空爆を主導し、キリスト教国である「アメリカ」と同じ
ぐらいに、
日本が敵視されてしまったというのは、
やはり、安倍首相による中東外交が、かなり拙(まず)かったのでは
ないかと思えてなりません。
たしかに中東への「人道支援」は、少なからず必要でしょう。
しかし人道支援をするにしても、安倍首相のような、実際に敵意を招い
てしまった方法ではなく、
問題になった2億ドルの支援を、たとえば「赤新月社(イスラム諸国に
おいて、赤十字社に相当する組織)」などを通じて行うなど、
むやみに敵意を煽(あお)らないような「上手なやり方」が、他にいくら
でも、あったのではないでしょうか。
わざわざ日本の税金を使って、人道支援を行うというのに、
すべての日本人が「テロの標的」にされるという、
そんな日本国民の意にまったく反するような、大変な事態になって
しまったことが、
ものすごく残念でなりません。
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