日本人がテロの標的に 1
2015年2月8日 寺岡克哉
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安倍(首相)よ。
勝ち目のない戦争に参加するというお前の無謀な決断のために、
このナイフは健二(後藤健二さん)だけを殺害するのではなく、
お前の国民はどこにいたとしても、殺されることになる。
日本にとっての悪夢を始めよう。
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これは、2月1日にインターネット上に投稿された、
「イスラム国」とみられる組織が、後藤健二さんを殺害したとする
動画の中で、
黒い服を着た覆面姿の、ナイフを持った戦闘員とみられる男が
述べていた、メッセージの後半部です。
このメッセージを見るかぎり、どうやら、
すべての日本人が、「イスラム国」による「テロの標的」に、
されてしまったみたいです!
* * * * *
なぜ、こんな大変なことに、なってしまったのでしょう?
つまり、なぜ「イスラム国」は、
日本を名指しで敵視するように、なってしまったのでしょう?
その、いちばん「直接的な原因」については、
「イスラム国」を名乗るグループが、インターネット上で1月20日
に発表した、
2億ドル(およそ235億円)を支払わなければ、湯川遥菜さんと、
後藤健二さんを殺害すると警告した「ビデオ声明」を見ると、
推察することができます。
以下は、そのビデオ声明の前半部です。
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日本の首相へ。
お前は「イスラム国」から8500キロ以上も離れているのに、自ら進ん
でイスラム国に対するこの十字軍に参加した。
私たちの女性や子どもを殺し、イスラム教徒の家を破壊するために、
得意気に1億ドルを供与した。
従って、この人質(後藤さん)の命には1億ドル掛かる。
そしてまた、イスラム国の拡大を防ぐ目的でムジャヒディン(イスラム
聖戦士)に対抗する背教者の訓練に1億ドルを供与した。
従って、この日本人(湯川さん)の命には、別にもう1億ドル掛かる。
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つまり、安倍首相が「2億ドル」の供与をしたために、
「イスラム国」が、日本を名指しで敵視するようになったのでは
ないかと、推察できるわけです。
* * * * *
ところで、
「イスラム国」が批判した、安倍首相による「2億ドルの供与」とは、
いったい何のことでしょう?
それは、
安倍首相が1月17日にエジプトで行った、「中東政策スピーチ」の
中で、述べられたことのようです。
このことに関しては、
前衆議院議員 三谷英弘さんのオフィシャルブログに、1月21日
付けで掲載された、
「なぜ日本がISの戦いに巻き込まれたか。」という記事で、分かり
やすく説明されています。
以下、その部分を抜粋してみましょう。文中の( )は、私が加えた
補足説明です。
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なぜ日本がISの戦いに巻き込まれたか。
エジプトでの安倍首相のスピーチ原文をぜひ見て頂きたいと思います。
以下抜粋です。
「イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするの
は、ISILがもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、
インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援を
お約束します。」
(上記、日本文の出典は外務省のサイト)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/me_a/me1/eg/page24_000392.html
"We are going to provide assistance for refugees and displaced persons
from Iraq and Syria.
We are also going to support Turkey and Lebanon. All that, we shall do
to help curb the threat ISIL poses. I will pledge assistance of a total
of
about 200 million U.S. dollars for those countries contending with ISIL,
to help build their human capacities, infrastructure, and so on."
(上記、英文の出典は外務省のサイト)
http://www.mofa.go.jp/me_a/me1/eg/page24e_000067.html
どうですか?
上の日本文は安倍首相のスピーチ、下の英文は外務省の公式の英訳
です。
日本文から受ける印象と英文から受ける印象、相当印象が違うなと
思いませんか?
日本語のスピーチの方でも相当踏み込んでいるなという印象はありま
すが、
英語の方は、人道的支援、難民支援という要素と敢えて切り離し、
直訳すれば「これからトルコとレバノンの支援を行う。ISILと戦う国々に、
人的能力・インフラ支援のために2億ドルを供与する」となっていれば、
直接的にISと対峙するトルコやレバノンなどの国々にISと戦う兵力
や施設を整えるためのお金を提供すると読むのが当然です。
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この三谷さんの説明を見ると、
「イスラム国」が、日本を敵視してしまうのも、無理はないと思えて
なりません。
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ところでまた、
このような「英訳」の問題は、国会でも取り上げられています。
「日本を元気にする会」の松田公太代表は、1月28日に行われた
参議院の本会議で、
中東へ2億ドルの支援を表明した、安倍首相のエジプト・カイロでの
スピーチについて、
「英訳された結果、ニュアンスが変わり、”イスラム国”による日本人
人質事件を誘発した可能性がある」と主張しました。
松田代表は、英訳では支援の目的を説明する部分が、
「”イスラム国”と戦っている国が戦闘要員や戦闘の基盤を構築する
ために2億ドルを支援する」と、なっていると指摘し、
その上で、
「日本が本格的に戦争に加担することになったと捉えることができ、
(人質事件の)口実を与えてしまった可能性がある」と、強調しました。
そして、安倍首相にたいし、
「あえて変えて発信したのか、単純ミスなのか」と、質問をしたのです。
これに対して安倍首相は、
「スピーチの英文は和文に忠実な形で訳されており、ニュアンスが異なっ
ているという指摘はまったくあたらない」と、反論しています。
* * * * *
ちなみに、
安倍首相のスピーチの英訳では、文章の構成が変えられ、
ほかにも「食い止める」の部分を、「拘束」や「抑制」を意味する「curb」
という言葉で表現するなど、
日本語よりも強めの印象があります。
早稲田大学大学院の、春名幹男客員教授(国際報道論)は、
「英訳版は軍事目的を完全に否定していないように見える」
「人道支援だと明確に打ち出すべきだった」
と、指摘しています。
また、
東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所の、飯塚正人
教授は、
「(エジプト)カイロでの、安倍首相の迂闊(うかつ)極まりない
演説が、”イスラム国”に彼らなりの大義名分を与えてしまったこと
は明らか」
「その結果、最終的には海外に暮らす日本人全体が大きな危険
にさらされることになったと言わざるを得ない」
と、主張しています。
* * * * *
以上、ここまで見てきて、私は思うのですが・・・
おそらく安倍首相は、エジプトで行ったスピーチによって、
世界中の日本人が危険にさらされることなど、
まったく想定していなかったのでは、ないでしょうか。
しかし安倍首相は、これほどの大事(おおごと)になった以上、
むしろ「イスラム国」の脅威を、積極的に利用することにより、
集団的自衛権の行使を拡大させたり、憲法改正への動きを加速
させて行くのではないかと思います。
事(こと)の発端(ほったん)は、スピーチの中の一文という、一見
すると「些細(ささい)」なことにしか感じませんが、
もしかしたら、これこそが、
日本の「歴史的な転換点」と、なってしまうのかも知れません。
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