「イスラム国」が日本人を殺害 1
2015年1月25日 寺岡克哉
1月20日。
「イスラム国」を名乗るグループが、72時間以内に2億ドル(およそ235
億円)を支払わなければ、
「日本人2人を殺害する」と警告するビデオ声明を、インターネット上
で発表しました!
このビデオには、2人の日本人男性が映っており、千葉市の湯川遥菜
(はるな)さん(42歳)と、仙台市出身のフリージャーナリスト後藤健二さん
(47歳)であるとみられます。
発表されたビデオ声明の全文は、以下のようになっています。
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日本の首相へ。
お前は「イスラム国」から8500キロ以上も離れているのに、自ら進ん
でイスラム国に対するこの十字軍に参加した。
私たちの女性や子どもを殺し、イスラム教徒の家を破壊するために、
得意気に1億ドルを供与した。
従って、この人質(後藤さんとみられる男性)の命には1億ドル掛かる。
そしてまた、イスラム国の拡大を防ぐ目的でムジャヒディン(イスラム
聖戦士)に対抗する背教者の訓練に1億ドルを供与した。
従って、この日本人(湯川さんとみられる男性)の命には、別にもう
1億ドル掛かる。
日本国民に告(つ)ぐ。
おまえたちの政府はイスラム国に対する戦いに2億ドルを払うという
愚かな決定をした。
お前たちには、この日本人らの命を救うために、2億ドルを支払うと
いう賢明な決断をするよう、政府に迫る時間が72時間ある。
さもなければ、このナイフがお前たちの悪夢となるだろう。
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日本の外務省は、日本時間で1月20日の午後2時45分に声明を
確認しており、
首相同行筋によると、イスラエルのエルサレムに滞在していた安倍
首相に、事件の第一報が入ったのは、日本時間で午後2時50分ごろ
としているので、
犯行グループが期限としている72時間後というのは、1月23日の
午後2時50分ごろになると思われます。
* * * * *
この事件を受けて、安倍首相は同1月20日。イスラエルのエルサ
レムで記者会見をしました。
その記者会見で安倍首相は、「許し難いテロ行為で強い憤りを覚え
る」と非難し、「(人質に)危害を加えず、直ちに解放するよう強く要求
する」と述べました。
また安倍首相は、人質解放の交渉について、「人命第一で陣頭指揮
に当たり、(解決に)全力を尽くす。国際社会は断固としてテロに屈せず、
協力して対応していく必要がある」と強調しています。
さらに安倍首相は、犯行グループが非難している2億ドルの支援に
ついて、「支援は避難民が最も必要としている。命をつなぐための支援
だ。しっかりと行う姿勢に全く変わりない」と明言しました。
また、記者会見の質疑応答では、以下のようなやりとりが為されま
した。
記者の質問:
イスラム国は首相が表明した2億ドル支援を殺害警告の理由に挙げて
いる。この方針に挑戦するかのような対応についてどう考えるか。支援
は予定通り行うか。
安倍首相:
2億ドルの支援は、避難民となっている方々にとって最も必要として
いる支援と言える。避難民の方々が命をつなぐための支援と言っても
いい。避難民の方々が必要とする医療、食料のサービスをしっかりと
提供していく(ことが)、日本の責任だと思っている。国際社会からも高く
評価されている支援をしっかりと行っていく。この姿勢には全く変わりは
ない。地域の人々が平和に安心して暮らせる社会をつくっていく。日本は
今後とも非軍事分野において積極的な支援を行っていく。
記者の質問:
身代金を支払う用意があるのか。邦人解放のためイスラム国側と交渉
するのか。
安倍首相:
今後とも人命第一に私の陣頭指揮の下、政府全体として全力を尽くし
ていく考えだ。国際社会は断固としてテロに屈せずに対応していく必要が
ある。
記者の質問:
過去に第三国が身代金を支払うことがあったが、そうしたやり方を考え
るか。
安倍首相:
人命第一に各国の協力も得ながら情報収集に当たっている。国際社会
は決してテロに屈してはならないと考えている。
上の安倍首相の発言や、記者たちとの質疑応答をみると・・・
安倍首相は、「人命第一」だと言いながらも、
犯行グループが非難している「2億ドルの支援」を、断固として実行
するとしており、
身代金については、「払う」のか、「払わない」のか、まったく判然と
しません。
* * * * *
その後、
72時間の期限である、1月23日の午後2時50分が過ぎても、
日本政府は身代金を支払わなかったのですが、
イスラム国側からは、何の音沙汰もありませんでした。
ところが!
日本時間で、1月24日の午後11時すぎ。
湯川さんが殺害されたとする画像と音声が、インターネット上に投稿
されたのです。
画像では、後藤さんとみられる人物が、湯川さんとみられる人物の斬首
された写真を持ち、音声(英語)で湯川さんが殺害されたと説明しています。
また、ヨルダンの監獄に収容されている、サジダ・リシャウィという同胞
の釈放も求めています。
メッセージの全文は、共同通信によると以下のようになっています。
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私はケンジ・ゴトウ・ジョゴ。同房のハルナ・ユカワが「イスラム国」の地で
殺害された写真を見たでしょう。あなた方は警告を受け、期限を示された。
そして、私を捕らえていた者たちは、その言葉どおりに行動した。
アベ、あなたがハルナを殺した。われわれを捕らえていた者たちからの
脅迫を真に受けず、72時間以内に行動しなかった。愛する妻、2人の娘に
会いたい。私の身に同じ事をアベにさせないでほしい。諦めないで。私の
家族や友人、「インデペンデント・プレス」の同僚たちと共に政府に圧力を
かけ続けてほしい。
彼らの要求は、より容易なものだ。彼らは公平になっている。もはや金を
求めていない。だからあなたは、テロリストに資金を出すことになると心配
する必要はない。彼らはただ、収監されているサジダ・リシャウィの釈放を
要求している。単純なことだ。彼らにサジダを引き渡せば、私は自由にな
る。実際に可能なことだと思われる。
日本政府の代表たちが皮肉なことにヨルダンにいる。サジダはヨルダン
政府によって収監されている。私の生命を救うことがどれほど容易かを強調
したい。あなた方が、サジダをヨルダン政府から取り戻せば、私は即座に
解放されるだろう。私と彼女が引き換えということだ。
(妻に対し)これらの言葉はおそらく私の最後の言葉になるかもしれない。
これらの言葉をあなたが聞く私の最後の言葉にしないでほしい。アベに私
を殺させないでほしい。
=不明な部分を一部割愛(共同通信)
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上のメッセージの中で、後藤さんとの交換条件になっている、サジダ・
リシャウィという人物は、
2005年にヨルダンの首都アンマンで、50人以上が死亡した連続
自爆テロ事件の実行犯の1人として、ヨルダン当局に拘束され、
翌2006年に死刑判決を受けた、イラク人の女性とみられています。
* * * * *
1月25日。
安倍首相は朝のテレビ番組で、「イスラム国」に拘束されたとみられる
湯川さんの殺害画像がインターネット上に公開されたことについて、
「分析しているが、残念ながら信ぴょう性が高いといわざるを得ない」
と述べました。
その上で、「このようなテロ行為は言語道断であり、許すことのできない
暴挙だ。強く断固として非難する」と語っています。
同日の午前に会見した、菅・官房長官によると、
公開された画像を政府が確認したのは、1月24日の午後11時10~
20分前後だとしています。
「信ぴょう性が高い」と安倍首相が語った根拠を問われた官房長官は、
断定には遺体の確認が必要とする一方で、「現時点では殺害を否定
する根拠は見いだせない」と述べています。
画像の中で湯川さんとみられる遺体の写真を持った、後藤さんの安否
については、
ネットで流れた音声を分析しているものの、「当然生存している」と語り
ました。
* * * * *
以上、
「イスラム国」による、日本人の人質殺害事件について、最新の情報
をレポートしました。
この事件は、いま現在も状況が進行中であり、続きは次回でレポート
したいと思います。
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