フランスで史上最大のデモ
2015年1月18日 寺岡克哉
1月11日。
フランス各地で合計およそ370万人もの人々が集まった、「フランス
史上最大のデモ」が行われました。
パリだけでも160万人に達し、フランス第2の都市リヨンでは30万人、
ボルドーで10万人など、
フランスの各地で、数万人~数10万人規模のデモが展開されたの
です。
このように大規模なデモが行われたのは、「テロに反対すること」が、
その理由でした。
フランスでは1月7日。AK47ライフルで武装したシェリフ・クアシ容疑
者とサイド・クアシ容疑者の兄弟が、
イスラム教の開祖ムハンマドの風刺画を掲載した、週刊誌シャルリー・
エブドの本社を襲撃し、
職員、警官、編集長、風刺漫画の担当者たちの、合わせて12人を
殺害しました。
さらに事件はこれにとどまらず、1月8日にアメディ・クリバリ容疑者が
女性警官を殺害し、翌9日にはユダヤ教食料品店で人質4人を殺害した
のです。
クアシ兄弟とクリバリ容疑者は、別の場所に立てこもりましたが、ほぼ
同時の行われた警官隊の突入によって殺害されました。
しかしながら、これら一連の事件によって17人が犠牲となり、フランス
における過去50年間で、最悪のテロ事件となったのです。
デモに参加した市民たちは、「共に民主主義のために!」などとシュプ
レヒコールを上げ、
「自由、平等、博愛」の価値を共有する共和国の一体感を誇示するよ
うに、フランス国家の大合唱も巻き起こりました。
週刊誌の名前から取った連帯を示す合言葉の、「私はシャルリ」と書か
れたプラカードを掲げる人たちや、
「言論の自由」を訴えるため、鉛筆を髪飾りとしてつける女性も見られま
した。
このデモには、イスラム教徒の人も参加しており、
パレスチナ出身の学生(25歳)は、「個人的には宗教を風刺すること
には反対だが、だからといって人を殺すべきではない」と訴えています。
また、パリで行われたデモ行進では、フランスのオランド大統領の呼び
かけで、
ドイツのメルケル首相、イギリスのキャメロン首相、イスラエルのネタニ
ヤフ首相、パレスチナのアッバス議長、トルコのダウトオール首相など、
50ヵ国もの首脳が参加しました。
フランスのオランド大統領は、「今日、パリは世界の首都となった」と
して、「国全体が立ち上がるだろう」と述べています。
* * * * *
以上のようにフランスでは、
「民主主義」や「言論の自由」を高らかに掲げて、
「テロに反対する大規模なデモ」が、くり広げられたのでした。
しかしながら・・・
どうしても私は、それを手放しで100%称賛する気にはなれず、
このたびの大規模デモや、テロ事件に関連して、いろいろな事を
思ってしまうのです。
まずはじめに誤解を招かないように、はっきりと申し上げますが、
もちろんテロ行為は、絶対に許されるものではありません!
しかしながら、「言論の自由」の名の下に、
イスラム教を信仰する人々の「心の拠りどころ」であり、「生きる支え」
となっている預言者ムハンマドを、
ヌード姿にさせてしまうなど、あまりにも下劣な表現で侮辱することが、
無制限に許されて良いものでしょうか?
また、
テロ行為により、17人もの人々を殺害したことは、絶対に許される
ものではありませんが、
しかしながら、フランス側も「空爆」を行っており、「イスラム国」の戦闘
員を殺害するだけでなく、
誤爆や巻き添えなどで、おそらく一般市民や子供なども含めて、たく
さんの人々を殺害しているのではないでしょうか?
さらに、これはフランスだけに限りませんが、ヨーロッパ諸国では
イスラム系移民の人々にたいする、「社会的な差別」が存在するの
ではないでしょうか?
そしてそれが、イスラム系移民の若者を、過激なテロへと走らせる
背景になっているのでは、ないでしょうか?
このたびのテロ事件を受けて、フランスでは、
各地のイスラム教の施設に対して、手投げ弾が投げ込まれたり、放火
されたりする事件が相次ぎました。
このような「憎しみの連鎖」が続くならば、この先も、イスラム過激派に
よるテロが発生するのではないでしょうか?
フランスの大規模なデモによって、世界的に大きな反響を呼び起こし
ましたが、
それが反って、イスラム過激派組織の「大宣伝」になってしまったの
では、ないでしょうか?
これに味を占めた過激派組織が、次々とテロ計画を実行するのでは
ないかと、ものすごく心配です。
1月14日。週刊誌シャルリー・エブドは、またしても預言者ムハンマド
の風刺画を掲載しました。
「テロには絶対に屈しない」という、強い意志の表れなのでしょうが、
これに対して、ジャーナリストでつくる国際NGOの「プレス・エンブレム・
キャンペーン」は、「緊張緩和が求められる時に配慮を欠き、火に油を注
ぐ」と批判する声明を出しています。
また、エジプトのカイロにある、イスラム教スンニ派の最高権威機関アズ
ハルは、この風刺画について、「憎悪をかき立てるだけ」と警告しました。
こんなことでは、対立や緊張が、ますます高まってしまうでしょう。
同じく1月14日。フランスのオランド大統領は、
原子力空母「シャルル・ドゴール」を、ペルシャ湾に派遣する方針を
表明しました。
オランド大統領は、「(空母の)投入により、貴重な情報を収集できる。
必要なら強力で効果的な作戦を行う」と述べており、
「イスラム国」への空爆を、さらに強化する考えを示しました。
どうやら、
フランスで起こったテロ事件と、それに反対する大規模なデモが、
原子力空母を派遣するための、「口実」として使われてしまった感が
否めません。
* * * * *
以上、ざっと思いついたことを、とりとめもなく挙げてみましたが、
フランスでテロ事件が起こったのには、やはり、それなりの理由が
あったのではないかと思えてなりません。
しかし最後に、もういちど繰り返しますが、たとえ、どのような理由
があろうとも、
テロ行為は、絶対に許されるものではないのです!
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