STAP現象の検証結果
2014年12月28日 寺岡克哉
理化学研究所は12月19日付けで、「STAP現象(注1)の検証結果」
という報告書を発表しました。
このたび行われた検証実験は、小保方研究員によるものと、丹羽・
副チームリーダーによるものとがありますが、
ここでは、話題の中心人物である小保方さんが行った検証実験に
ついて、見て行きたいと思います。
------------------------------
注1 STAP現象:
マウス新生児の各組織の細胞(分化細胞)を一定の条件でストレス
処理することにより、多能性をもつ未分化細胞にリプログラミングされ
るという現象。
------------------------------
* * * * *
まず最初に、報告書の結論をごく簡単に言ってしまえば、
STAP細胞らしきもの(STAP様細胞)は出来たけれど、
STAP現象の確認には至らなかった(キメラの作成を認める
ことが出来なかった)
と、なります。
以下、これらのことについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
* * * * *
さて、
普通の細胞(分化した細胞)を、酸性の溶液に浸してストレスを与える
ことにより、
もしも「STAP細胞の可能性があるもの」が出来たなら、その細胞は
緑色に光る(緑色蛍光を発する)ようになります。
そのような緑色に光る細胞を含んだ、細胞塊(いくつかの細胞が集まっ
た塊)を、検証実験の報告書では「STAP様細胞塊」と呼んでいます。
このたびの検証実験では、
酸処理を行わなかった場合では、「STAP様細胞塊」はまったく生じま
せんでしたが、
弱酸処理を行った場合では、その多くに「STAP様細胞塊」が形成
されることが確認されました。
しかしながら、
そのような「STAP様細胞塊」の出現数は、100万細胞あたり10個
ていどで、
ネイチャーの論文(2014年7月2日付で取り下げ)に記載された、
100万細胞あたり数百個には達しませんでした。
その理由として、
マウスの遺伝的背景が影響している可能性も考えられましたが、
違う遺伝系統のマウスで実験しても、「STAP様細胞塊」の出現数
に、有意な差は認められなかったのです。
なぜ、検証実験では、
「STAP様細胞塊」の出現数が、数10分の1にまで減ってしまった
のでしょう?
まず私は、このことに疑問を感じました。
* * * * *
ところで、
STAP細胞ではない、ふつうの細胞でも、「自家蛍光」と呼ばれ
る光を発することがあります。
だから、
細胞が緑色に光っただけでは、それが確かにSTAP細胞である
とは、じつは言えません。
しかしながら、
ふつうの細胞が発する「自家蛍光」は、「緑色蛍光」の他に、「赤色
蛍光」も発するという性質があります。
そして一方、
「STAP細胞の可能性が高いもの」は、「緑色蛍光」を発しますが、
「赤色蛍光」は発しません。
そこで検証実験では、
緑色蛍光を発する細胞を含んだ「STAP様細胞塊」について、
「赤色蛍光」も発しているかどうかを調べています。
それによると、
緑色蛍光を有する細胞塊の多くは、赤色蛍光も有しており、
赤色蛍光をもたないSTAP様細胞塊は、少なかったとしています。
しかし、
赤色蛍光が低く、緑色蛍光の高い細胞塊。
つまり、「自家蛍光ではない」STAP様細胞塊も、たしかに
存在していました。
* * * * *
ところがさらに、「自家蛍光ではない」という確認ができても、
それだけでは、「STAP細胞である」とは断定できないのです。
STAP細胞らしきもの(STAP様細胞)が、多能性をもつ未分化細胞
にリプログラミングされているかどうかを、もっとも確実に示す「決め手」
は、
キメラマウス(注2)を生じさせることなのです。
------------------------------
注2 キメラマウス:
2種類以上の異系統のマウスの胚を融合させて作るマウス。
------------------------------
しかしながら!
全部で1615個の細胞塊(STAP様細胞塊を丸ごと、あるいはSTAP
様細胞塊を小さな細胞塊にきざんだもの)を、
宿主胚に移植し、845個の胚発生(注3)を確認しましたが、
リプログラミングを有意に示す「キメラ形成」は、認められません
でした。
------------------------------
注3 胚発生: 胚が細胞分裂を開始し、成体になるまでの過程。
------------------------------
このことにより、
今回の検証実験で、STAP現象の確認に至らなかったことから、
来年の3月までを期限としていた検証計画を終了すると、報告書
では帰結しています。
ちなみに、
ネイチャーの論文(2014年7月2日付で取り下げ)でのキメラ作成
は、山梨大学の若山教授(当時 発生・再生科学総合研究センター
チームリーダー)によって行われましたが、
このたびの検証実験でのキメラ作成は、検証実験チームの清成寛
研究員(本務はライフサイエンス技術基盤研究センター ユニットリー
ダー)によって行われました。
しかしなぜ、
若山教授はキメラ作成ができたのに、清成研究員にはできな
かったのでしょう?
12月19日付けの「STAP現象の検証結果」という報告書を見て、
この疑問が、私の心にいつまでも残ったのでした・・・
* * * * *
上の疑問にたいする答えは、
その後、7名の外部専門家による「研究論文に関する調査委員会」
が発表した、
12月25日付けの「研究論文に関する調査報告書」の、13ページ
に記載されていました。
その部分を抜粋すると、以下のようになります。
------------------------------
(ネイチャーの)STAP論文に登場し理研に資料として残されていた
3種類のSTAP幹細胞(FLS、GLS、AC129)は、今回の調査でいず
れもES細胞(それぞれFES1、GOF-ES、129B6F1ES1)に由来
することが確実になった。
また、STAP細胞やSTAP幹細胞から作成されたとされるキメラ
やテラトーマについても、残存試料を用いて上記のES細胞に固有
のDNA塩基配列を検出した結果、全て上記ES細胞のいずれか
に由来することで説明できた。
------------------------------
つまり、
STAP細胞とされるものの中に、ES細胞(注4)が混入していた
ため、
それとは知らずに(あるいは知ってか)、若山教授はES細胞のキメラ
マウスを作成してしまったのです。
------------------------------
注4 ES細胞:
受精卵の細胞から作られる万能細胞の一種。受精卵が分裂を始め
た後に一部の細胞を取りだし、培養して作る。ほぼ無限に増殖する
能力と、体を構成するどんな細胞にも分化する能力をもつ。
------------------------------
上で抜粋した、
12月25日付けの「研究論文に関する調査報告書」というのは、
全体で32ページもあり、詳しい調査や、精密な遺伝子分析が
行なわれています。
だから、
ES細胞が混入していたのは、事実であると断定して、
まず間違いないでしょう。
さてここで、ES細胞が混入した原因として、
培養器具の不注意な操作による過失か、あるいは、誰かの故意的
な仕業(しわざ)によるものかの、2つが考えられますが、
もしも、ES細胞の混入が「誰かの故意的な仕業」だったら、
それは、「悪意のある捏造(ねつぞう)」以外の、何ものでもありま
せん。
科学の世界を愚弄(ぐろう)する、きわめて悪質で卑劣な行為です。
このことに関して、
12月25日付けの「研究論文に関する調査報告書」の15ページ
には、以下のように記載されています。
------------------------------
客観的状況に照らし混入の機会があったと見られる全ての関係者を
洗い出し聞き取り調査を行ったが、小保方氏を含め、いずれの関係者
も故意的又は過失による混入を全面的に否定しており、残存試料・
実験記録・関係者間のメール送信記録・その他の客観的資料の分析
検討によっても混入行為の特定につながる証拠は得られず、ES細胞
混入の目撃者も存在せず、混入の行為を同定するに足りる証拠がない
ことから、委員会は、誰が混入したかは特定できないと判断した。
行為における故意又は過失の認定は、当該行為がなされた客観的
状況と当該行為者にかかる主観的要素を総合的に判断しなされる
べきものであるが、ES細胞混入の行為者が特定できない状況なの
で、混入行為が故意によるものか過失によるものかにつき決定的な
判断をすることは困難であり、調査により得られた証拠に基づき認定
する限り、不正と断定するに足りる証拠はないと考えられる。
------------------------------
何ともはや!
STAP騒動の核心が、ウヤムヤになっている感が否めません。
しかしながら、あくまでも「科学的な分析」の下では、
「ES細胞が混入していた事実を明確に示すこと」までが限界なの
でしょう。
目次へ トップページへ