指定廃棄物の問題点 1
                           2014年11月16日 寺岡克哉


 放射能汚染した廃棄物のうち、1キログラムあたり8000ベクレルを超え
る放射性物資を含んだ、「指定廃棄物」と呼ばれるもの。

 そのような指定廃棄物の、「最終処分場の建設」にたいして、

 栃木県内の候補地となっている塩谷町は、「指定廃棄物」を福島県内で
まとめて処理すべきだとする提案をまとめ、議論を呼んでいます。



 その提案では、

 指定廃棄物を各県で処理するという、「国の方針」を見直し、

 福島第1原発周辺の「帰還困難区域」にまとめて中間貯蔵を行い、

 最終的には、「原発の敷地内」で最終処分を行うように求めています。



 しかし、国側(望月義夫・環境相)は、

 「特措法(放射線物質汚染対処特措法)に基づく基本方針である、
(各県1ヶ所に最終処分場を作るという)県内処理を見直すことは
ない


 と明言しており、議論が平行線をたどっている状態です。


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 ところで、テレビや新聞などのマスコミは、

 指定廃棄物について、「1キログラムあたり8000ベクレルを超える」と
いう表現でしか報道しません。

 だから私は最初、指定廃棄物というのは、1キログラムあたり8500ベク
レルとか、9000ベクレル程度なのだろうと思っていました。

 そのため、

 「塩谷町の気持ちは分かるけれども、すこし了見が狭いのではないか?」
という印象を持ってしまいました。



 ところが、ちょっと調べてみると、

 指定廃棄物には、1キログラムあたり10万ベクレルを超えるものも、

 じつは存在しているのです!




 そうなると、

 「塩谷町の主張も、まったく当然だ!」という印象に大きく変わります。

 またしても、マスコミの「印象操作」に引っかかってしまったという感が
否めません。



 そのことに、ちょっと悔(くや)しい思いがしたのと、

 「やはり、これは大きな問題だ!」という思いが込み上げてきたので、

 「指定廃棄物の問題点」について、すこし詳しく調べ、レポートすること
にしました。


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 まずはじめに、「指定廃棄物」が発生する理由ですが、

 福島第1原発の事故によって、大気中に放出された大量の放射性
物質は、

 風に運ばれて広い範囲に拡散し、雨などによって地表や建物、樹木
などに降下しました。

 それが、日常生活で排出されるゴミ、浄水発生土、下水汚泥、稲わら
や堆肥(たいひ)などに付着して混入し、焼却などによって濃縮され、

 「放射性物質で汚染された廃棄物」となったわけです。



 このような「放射性物質で汚染された廃棄物」のうち、

 汚染のレベルが「1キログラムあたり8000ベクレル以下」のものは、
「通常の廃棄物」として処理されます。(これも非常に問題があると思い
ますが・・・)

 そして一方、

 「1キログラムあたり8000ベクレルを超えるもの」が、「指定廃棄物」と
して取り扱われ、

 「国の責任の下で、適切な方法で処理すること」と、なっているのです。



 さらに、この「指定廃棄物」は、

 1キログラムあたり「8000ベクレル超~10万ベクレル以下」と、

 1キログラムあたり「10万ベクレル超」という、2つの種類に区分されて
います。



 だから、やはり、

 「指定廃棄物」には、1キログラムあたり10万ベクレルを超えるもの
も存在しているのです。


 たとえば福島県の、県中浄化センターにおける「実例」として、

 1キログラムあたり2万6400ベクレルの「脱水汚泥」を焼却すると、

 1キログラムあたり33万4000ベクレルの「スラグ」というものになります。



 このような指定廃棄物の「処理方法」ですが、

 1キログラムあたり「8000ベクレル超~10万ベクレル以下」のものに
ついては、「管理型処分場で特別な方法により処分」となっています。

 このとき、放射線物質汚染対処措置法で安全確保のための基準(焼却
灰のセメント固形化など)が決まっており、

 国が新たに最終処分場を設置する場合は、「遮断型構造」を有する
処分場を設置します。



 一方、

 1キログラムあたり「10万ベクレル超」のものについては、「遮断型構造
の処分場で処分」となっており、

 公共の水域および地下水と遮断されている場所への「埋め立て」として
います。

 また、福島県の場合は、「中間貯蔵施設」に保管することになっています。


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 ところで、環境省のサイトにある、

 指定廃棄物処分等有識者会議(第1回)の配布資料5

 「指定廃棄物 最終処分場等の構造・維持管理による安全性の確保に
ついて 平成25年3月」 (以下「参照資料」と略します)を見ると、

 指定廃棄物を、地表から5メートルの深さまで、埋め立てることを考えて
いるみたいです。

 つまり、地表から5メートルの深さの場所に埋めるのではなく、

 たとえば、縦100メートル×横110メートル×深さ5メートルの巨大な穴
を掘り、その穴を「指定廃棄物」で満タンにするということです(参照資料
26ページ)。



 ここで、

 たとえば指定廃棄物が、1キログラムあたり10万ベクレルの「焼却灰」
だったとします。

 そうすると、1平方メートルあたり8億ベクレルの放射能になります(注1)。

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注1:

 参照資料の38ページによると、焼却灰の比重を1.6g/cmとして
います。

 そうすると、1m×1m×5mの体積では、100×100×500×1.6
/1000 =8000kgの焼却灰があることになります。

 ここで、焼却灰の放射能濃度を100000Bq/kgとすると、

 1mあたり8000kgの焼却灰があるのだから、8000×100000
=800000000となり、

 1平方メートルあたり8億ベクレルの放射能になります。

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 1平方メートルあたり8億ベクレル!

 これは、人の立ち入りが制限される「放射線管理区域」の基準である、
1平方メートルあたり4万ベクレルの、なんと2万倍。

 チェルノブイリ原発事故で「強制移住」の対象とされた、1平方メートル
あたり148万ベクレルの、571倍の放射能になります。



 たしかに、

 埋め立てた下の方にある廃棄物(たとえば地表から1メートルよりも深い
所にある廃棄物)から出た放射線の大部分は、

 それよりも上部にある「廃棄物自体」に遮蔽(しゃへい)されるので、

 実際には、1平方メートルあたり8億ベクレルもの放射能は観測されない
でしょう。



 しかしながら、参照資料の24ページによると、

 もしも、そのような場所(1キログラムあたり10万ベクレルの廃棄物を
5メートルの深さで埋め立てた場所)の上に人がいた場合、

 毎時18マイクロシーベルト(つまり、年間158ミリシーベルト)
被曝をするとしています。

 これは、帰還困難区域(年間50ミリシーベルト)の、およそ3倍もの
被曝量です。



 このように、

 指定廃棄物の最終処分場が作られてしまったら、

 その場所は、人が住めない「死の土地」となってしまうのです!




 もちろん、参照資料の同24ページでは、

 廃棄物の上に、厚さ35センチのコンクリートで蓋(ふた)をして、放射線
を遮蔽し、

 さらにその上に、厚さ1メートルの土をかぶせることで遮蔽を強化して、

 放射線の量を400万分の1にするとしています。



 しかしながら、いくら放射線を遮蔽したところで、

 「放射性物質そのもの(つまり指定廃棄物そのもの)」が、消滅するわけ
では決してありません。

 だから、放射能汚染されていない「きれいな土地を」、わざわざ「指定
廃棄物」で汚染させることには、

 やはり、大きな疑問を感じてしまいます。



 最終処分場の建設候補地となっている栃木県の塩谷町では、

 住民による反対運動も起こっていますが、

 これは、「まったく当然のことだ」と言わざるを得ません!


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 「指定廃棄物の問題点」については、

 他にも、いろいろとレポートしたいことがありますが、それは次回で
やりたいと思います。



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