IS問題で思うこと 1
2014年11月2日 寺岡克哉
題名にある「IS」というのは、「イスラム国 (Islamic State)」のことで
すが、
このシリーズでは、「イスラム国」の問題に関連して、私の思ったことや
考えたことを、書いて行きたいと思います。
* * * * *
まず、「イスラム国」の問題で、いちばん深刻だと私が思うのは、
「世界大戦」と言うには大げさかもしれないけれど、戦闘の行われる場所
が世界各地に広がる恐れがあり、
「世界的な紛争」というぐらいの事態には、なってしまうのではないかと
言うことです。
そんな事態に向かっている「具体的な動き」として、
世界各地にバラバラと点在し、それぞれ孤立していたイスラム過激派
組織が、
「イスラム国」の下に、「世界的なまとまり」を見せつつあります。
以下、そのことについて見て行きましょう。
* * * * *
まず今年の7月に、アフリカ西部のナイジェリアで、「ボコ・ハラム(西洋の
教育は罪)」という過激派組織が、「イスラム国」への支持を表明しました。
そして8月の下旬には、ナイジェリア北東部の一部の都市で、「イスラム
国家の樹立」を宣言しています。
この「国家樹立」に関しては、「イスラム国」のメンバーが、統治のノウハウ
を助言したとも言われています。
ちなみに「ボコ・ハラム」は、今年の4月に女子生徒200人以上を拉致し
たために、国際的な非難を受けている組織です。
北アフリカのアルジェリアでは、「カリフの兵士」という過激派組織が、
「イスラム国」に忠誠を誓いました。
この「カリフの兵士」は、9月22日にフランス人の男性を拘束し、フランス
がイラク領内で始めた「イスラム国」への空爆を停止するように要求しま
した。
しかしフランス政府が、「テロリストには屈しない」という姿勢を貫いた
ため、
「カリフの兵士」は、フランス人男性の首を切断して殺害したとする映像
を、9月24日にインターネット上で公開しています。
アフリカ北部のリビアでは10月中旬。「アンサール・シャリア」という過激派
組織の戦闘員が、「イスラム国」の旗をはためかせて、同国東部の市街地
を行進しました。
「アンサール・シャリア」は2012年の9月に、リビア東部のベンガジにある
アメリカ領事館を襲撃して、アメリカ大使らを殺害した事件に関与したと見ら
れる組織です。
ちなみにリビアは、2011年の8月にカダフィ政権が崩壊してから、「政府」
がほとんど機能しておらず、
多数の民兵組織が戦闘行為を続けている状態で、「テロ組織の温床」に
なっています。
そのため、周辺国は警戒を強めていますが、もしもリビアに「イスラム国」
が浸透してしまったら、エジプトやアルジェリアなどの周辺国にも、深刻な
影響を与える恐れがあります。
エジプトにあるアブラハム政治戦略センターの、ディア・ラシュランさんは、
「”イスラム国” との連携を表明することで、支配地域の住民にたいして
恐怖を植えつけ、支配力を強めることができる」と指摘しています。
ラシュランさんは、「イスラム国」の本拠地であるシリアとイラクで、その
勢力をそがなければ、今後も支持する組織が増えると見ており、
事実、レバノンなどの中東や、北アフリカ諸国では、傘下入りは表明して
いないものの、「イスラム国」を支持する組織が続々と生まれているといい
ます。
* * * * *
さらには、中東やアフリカだけでなく、
アジアにおいても、過激派組織が「イスラム国」の下に、まとまろうとして
います。
たとえば、パキスタンでは今年の10月14日。イスラム過激派組織である
「パキスタン・タリバン運動(TTP)」の幹部6人が、「イスラム国」の傘下に
入るという声明を出しました。
これは幹部個人の意思であって、TTPの組織全体が傘下入りしたわけ
ではありませんが、しかし組織内には同調者が増えているといいます。
ちなみにTTPは、「イスラム国」と対立している「アルカイダ」との、繋がり
が深い組織だと思われていました。
しかし最近では、勢いを増している「イスラム国」側に、なびく傾向がある
みたいです。
もしも、「TTP(パキスタン・タリバン運動)」と、「イスラム国」との連携が
どんどん深まって行ったら、
その影響力が、中東から南アジアまで拡大してしまうため、ものすごく
深刻な状況となるでしょう。
中国の「新疆(しんきょう)ウイグル自治区」では、過激派が「イスラム国」
から「テロリスト訓練」を受けるために、中国を離れたといいます。
政府系新聞の報道によると、「自国での攻撃」が訓練の目的だとして
います。
共産党機関紙・人民日報の傘下にある「環球時報」によると、中国の
「反テロ職員」が、
「(新疆の過激派は)テロリスト技術の訓練を受けようとしているだけで
なく、中国でのテロ活動激化への支持を得るために、実際の戦闘を通じ
て国際的なテロ組織とのつながりを広げようとしている」と話しています。
また、新疆の過激派が最近、シリアやイラクでのイスラム国の活動や、
東南アジアでのイスラム国の「分派」に、関与しているとも報じています。
ところで、新疆ウイグル自治区では、
今年の7月に、カシュガル地区のヤルカンド県で、住民たち37人が殺害
され、容疑者59人が射殺されるという襲撃事件が起こりました。
さらには9月21日。バインゴリン・モンゴル自治州ブグル県内で、市場や
商店街の入り口、派出所など合計4ヶ所で、「同時爆破テロ」が行われま
した。
ウイグル族とみられる容疑者を含めて、死者は50人に上ると伝えられて
おり、射殺や拘束された容疑者の数は、およそ40人となっています。
これらの一連の事件には、ウイグル自治区の分離・独立を目指している
組織である、「東トルキスタン・イスラム運動」が関与していると、中国当局
は強調しており、
ウイグル族の一部が出国して、(イスラム国など)中東の過激派と合流
しているという見方を強めています。
フィリピンでは、イスラム過激派集団の「アブサヤフ」が、2人のドイツ人
を人質にとり、
2億5000万ペソ(およそ6億円)の身代金を要求するとともに、アメリカ
による「イスラム国」への空爆について、ドイツに支持をやめるように求め
ました。
そして要求に応じない場合は、2人の人質のうち1人を、10月17日に
殺害すると警告しました。
ちなみに人質は、10月17日に2人とも解放されましたが、アブサヤフの
報道官は、「要求した身代金が支払われた」とコメントしています。
マレーシアについては、およそ40人のマレーシア人が「イスラム国」に
参加し、シリアやイラクで活動していると言われています。
マレーシア警察は、10月13日~15日までの3日間に実施した作戦で、
「イスラム国」とつながりがあるとみられる14人を逮捕しました。
14人のうち3人は、人材集めや資金調達、マレーシア市民がシリアで
テロ組織に参加するための渡航の手配をするなどの責任を負っており、
この集団の中で中心的な役割を担っていたと見られています。
マレーシア国営のベルナマ通信は、この14人を含めて、今年の4月以降
に「イスラム国」とつながりがあると思われる者ら、36人を逮捕したと報じて
います。
これらのことから、組織名は明らかになっていませんが、マレーシアには
「イスラム国」に通じている、いくつかの過激派組織が存在していると思わ
れます。
インドネシアは、およそ2億2000万人ものイスラム教徒を抱える、世界
最大のイスラム国家です。
インドネシアの「国家テロ対策庁」などによると、100人以上がシリアや
イラクに渡ったということで、
その大半は、「ジェマ・イスラミア」などインドネシア国内の過激派組織に
所属している若者たちです。
ところでインドネシア政府は、2002年の「バリ島爆弾テロ事件」を受け、
テロ組織の壊滅に力を注いてきました。
それが功を奏し、近年において「ジェマ・イスラミア」は、ほぼ壊滅状態に
なっていたのです。
しかしながら、「ジェマ・イスラミア」の設立者であるアブ・バカル・バシール
師(服役中)が、
「イスラム国」の旗を背景にして、若者に参加を呼びかけるメッセージを
インターネットでインドネシア国内に拡散させており、過激派のネットワーク
がよみがえりつつあります。
さらには、
インドネシアの調査機関「IPAC」によると、シリアに渡ったインドネシア人
とマレーシア人の間では、
合同の戦闘部隊を作る計画があるほか、将来的には両国やフィリピンなど
で、「イスラム国家の建設」を目指す動きもあるといいます。
* * * * *
以上、ここまで見てきましたように、
今までイスラム過激派組織は、世界各地に点在し、それぞれが孤立
していたのですが、
「イスラム国」の下にまとまり、有機的に結束することで、
中東から、北アフリカやアフリカ西部、そして南アジアや東南アジア、
中央アジア、西アジアにまたがる、「世界的なネットワーク」が作られ
ようとしています。
もしも、そのような「世界的ネットワーク」が作られてしまったら、
世界各国で同時多発的に、テロや暴動、さらには紛争を起こすこと
さえも、
おそらく可能になってしまうでしょう。
残念ながら、現在のところ、
そのような「世界的危機」に向かっている一方であるというのが、
否定できない状況になっています。
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