イスラム国 9 2014年10月19日 寺岡克哉
前回の最後で、「イスラム国」が行っている「文化遺産の破壊」について
触れましたが、
私には、このことと、2001年に破壊された「バーミアンの大仏」のこと
が、重なってしまいます。
「イスラム国」が行っている、大量虐殺や人身売買、強姦などの「非人道
的な行為」に、すごく大きな怒りを覚えるのは当然ですが、
古代から、たくさんの人々の手によって守られてきた文化遺産を、いとも
簡単に破壊する行為にも、ほんとうに大きな怒りを感じてしまいます。
他国や他民族が、長年にわたって培(つちか)ってきた「文化」を尊重せず、
それを破壊するというのは、じつに狭量で傲慢で野蛮な行為だと、言わざる
を得ません。
それでは今回も、
「イスラム国」をめぐる世界の動向について、見て行きましょう。
* * * * *
9月30日。
イギリス国防省によると、イギリス空軍のトーネード戦闘爆撃機が、「イス
ラム国」にたいする空爆をイラクで初めて実施しました。
2機のトーネードが、キプロスにあるイギリス空軍基地を飛び立ち、イラク
の北西部でクルド人部隊を攻撃していた「イスラム国」の重火器陣地に、
レーザー誘導爆弾で爆撃したということです。
また、同じ地域において、武装トラックに「空対地ミサイル」を打ち込んで
います。
イギリス国防省は、いずれの攻撃も成功だったと評価していますが、死者
が出たかどうかは不明です。
同日。
アメリカ国防総省のカービー報道官は、イギリス軍が行った空爆につい
て、「イギリスがイラクでの取り組みに加わったことをうれしく思う」と歓迎し
ました。
その上でカービー報道官は、アメリカ軍がイラクやシリアの広い範囲に
わたって関係国と連携しながら、「イスラム国」にたいする作戦を進めて
いると強調しています。
同日。
トルコ国会は、イラクとシリアで行われている「イスラム国」の掃討作戦に
軍を派遣するかどうかについて審議をしました。
この週の後半まで審議を続けてから、採決を行う予定です。
ちなみにトルコは、いま現在のところ、アメリカの主導で40数ヶ国が参加
している「有志連合」には加わっていません。
* * * * *
10月1日。
現地の情報によると、「イスラム国」は、シリア北部のトルコ国境沿いに
ある町「アイン・アラブ」の南東端から、2~3キロの地点まで迫っていると
いうことです。
「イスラム国」による迫撃砲での砲撃は、激しさを増しており、アイン・アラ
ブには5分置きに砲弾が着弾していると、CNNトルコは報道しています。
アメリカや同盟軍は、「イスラム国」の拠点に対して空爆を行っています
が、
しかし、現地のクルド人勢力の関係者によると、「イスラム国」の勢いは
弱まっておらず、アイン・アラブをめぐる攻防は激化しているということです。
同日。
イギリス空軍が、2度目の空爆を行いました。
バグダッドの西方で、2機のトーネード戦闘爆撃機が、武装トラックを含む
「イスラム国」の車両2台を空対地ミサイルで攻撃し、成功したといいます。
同日。
「イスラム国」への軍事作戦に参加していた新型輸送機の「オスプレイ」が、
発艦しようとしたところ一時的に出力を失い、
海に飛び込んで脱出した搭乗員2人のうち、1人が行方不明になっている
と、アメリカ軍が明らかにしました。
オスプレイは、残った搭乗員によって制御を取りもどし、強襲揚陸艦に着艦
したということです。
アメリカ軍は、この事故の原因を調査しています。
同日。
オーストラリアのアボット首相は、議会において、「イスラム国」に対する
空爆作戦に、オーストラリアの部隊も参加すると発表しました。
ただし、空中給油と哨戒機による後方支援が中心で、空爆への参加は
見送っています。
これについてアボット首相は、「空爆参加は、イラク政府の最終承認と、
オーストラリア国内の決定待ちの状態だ」と説明しています。
* * * * *
10月2日。
国連人権高等弁務官事務所と、国連イラク支援団は、
「イスラム国」が台頭するイラクで、武力衝突などによる市民の死者が、
今年に入って少なくても9347人に上ったと発表しました。
負傷者も1万7000人を超えたとしていますが、実際の数は、はるかに
多い可能性があります。
この日に、両機関が発表した報告書では、
「家を追われたり、”イスラム国” の支配地域に閉じ込められたりして、
食糧や水、薬が入手できずに死亡した市民も多く存在する」と指摘して
います。
また、イラク国内で避難を余儀なくされた人は、8月現在で推定180万人
に達しており、市民の保護が極めて重要な課題になっていると強調してい
ます。
さらには、「イスラム国」による市民を標的にした殺害、誘拐、強姦などの
深刻な人権侵害行為が広範囲に起きていると指摘しており、
とくに女性や子供、老人たちの置かれている状況に、深刻な懸念を示し
ています。
同日。
トルコ議会は、「イスラム国」に対する軍事行動を承認しました。
これによって、シリアとイラクへ軍を派遣することや、外国の部隊が軍事
作戦を行うためにトルコ領内を通過することが認められました。
このたびの議会による承認は、トルコ政府に幅広い権限を与えるものと
なっていますが、
しかしながら、シリアとイラクに直ちに派兵することを、トルコ政府に義務
づけるものではありません。
アメリカ国務省のサキ報道官は、トルコ議会が軍の軍事作戦を承認した
ことについて、「歓迎する。協力関係の強化を楽しみにしている」と述べて
います。
同日。
オランダ議会が、オランダ軍による「イスラム国」への空爆を承認しました。
議会で、オランダのルッテ首相は、早ければ来週にも軍事作戦を開始
するという見通しを示したうえで、
準備のために戦闘機の一部が、すでにヨルダンの基地に到着している
ことを明かしました。
同日。
アメリカのヘーゲル国防長官と、フランスのルドリアン国防相が、「イス
ラム国」への対応について協議をしました。
ヘーゲル国防長官は、共同記者会見で、「フランスがシリアに関与する
可能性について協議した」と述べましたが、詳細は明らかにしませんで
した。
ルドリアン国防相は、シリアにおけるフランスの「イスラム国掃討作戦」
の参加について、協議したことを認めませんでした。
また記者団にたいし、「有志連合」に加わることを(ヘーゲル長官から)
求められなかったと示唆しました。
* * * * *
10月3日。
「イスラム国」は、人質にしていたイギリス人男性の首を切断して殺害
する映像を、インターネット上に公開しました。
イギリス人が斬首によって殺害されたのは、これで4人目となります。
映像では、男性が「私はアラン・へニングです。イギリス議会が ”イスラ
ム国” への攻撃を承認したため、イギリス人の一人として、その代償を
はらいます」などと話した後、戦闘員がその男性を殺害する様子が映って
います。
また、映像の最後では、戦闘員の男がアメリカ人とされる男性をひざま
ずかせ、「アメリカの空爆がわれわれへ攻撃を続けているのだから、われ
われも同じことを続ける」と述べて終わっています。
イギリスのキャメロン首相は、この日に声明をだし、「”イスラム国” に
よるアラン・へニング氏の冷酷な殺害は、テロリストたちがいかに残忍なの
かを示すものだ。今は彼の家族の気持ちに寄り添いたい」としています。
その上で、「彼は人々を助けようとしているとき(シリア国内の民間人に
援助物資を届けるボランティア中)に拘束され、そして殺害された。われわ
れは殺人者を追い詰め、裁きを受けさせるため、あらゆることをしていく」
と述べています。
アメリカのオバマ大統領は、この日に声明を発表し、強く避難しました、
その上で、「アメリカは、イギリスや同盟国などと共に犯人を裁きにかけ、
”イスラム国” を弱体化させて、最終的に壊滅させるため、断固とした行動
を取り続ける」という決意を強調しました。
また、ホワイトハウス国家安全保障会議のヘイデン報道官は声明をだし、
映像の最後でひざまずかされているアメリカ人男性が「イスラム国」に拘束
されていることを認め、
「家族のもとに戻すため、あらゆる手段を講じる」として、救出に全力をつく
す考えを示しました。
同日。
アメリカ海軍は、10月1日にオスプレイから海に飛び込んで脱出し、行方
不明になっていた兵士を発見することができず、死亡を認定したと発表しま
した。
「イスラム国」に対する軍事作戦に参加していたアメリカ軍の兵士が死亡
したのは、これが初めてです。
国防総省のカービー報道官は記者会見し、「兵士の死亡が軍事作戦と
関係したことは疑いようがない」と述べて、哀悼の意を示しました。
しかし、その一方で、
死亡が認定された兵士について、アメリカ政府が軍事作戦の犠牲者とし
て正式に認めるかどうかは、分からないとしています。
同日。
オーストラリアは、イラク領内の「イスラム国」への空爆に参加することを
閣議決定し、特殊部隊をイラクに派遣することも決めました。
ビンスキン国防軍司令官は、「今後、数日中」に空爆を始めるとの見通し
を示しています。
オーストラリアのアボット首相は記者会見で、「”イスラム国” は世界に
宣戦布告しており、空爆はオーストラリアの国益にかなう」と述べ、
空爆や派兵について「イラク政府の要請を受けた」として、作戦が「長期化
する。数週間ではなく数ヶ月にわたる」という見通しを示しました。
また、イラクに派遣する特殊部隊は、地上の戦闘活動には従事せず、イラ
ク軍にたいし助言を行うとしています。
同日。
カナダのハーパー首相は議会で、イラク領内の「イスラム国」に対する
空爆に参加する意向を表明しました。
議会では10月6日に裁決が行われる予定ですが、ハーパー首相が率い
る保守党が過半数を占めているため、承認される見通しです。
ハーパー首相によると、カナダは最大6ヶ月間に限定したうえで、戦闘機
と空中給油機、偵察機などを派遣する計画ということで、地上軍は派遣しま
せん。
* * * * *
10月4日。
パキスタン最大の武装組織である「パキスタン・タリバン運動」は、「イスラ
ム国」を支援すると表明しました。
報道によると、「パキスタン・タリバン運動」の報道官は声明で、「イスラム
国」にたいし、「世界中のイスラム教徒が期待している。我々はあなた方と
ともにある」と表明し、
「対立関係は忘れよう」と呼びかけて、戦闘員の提供など「あらゆる可能な
支援を行う」と約束しています。
「パキスタン・タリバン運動」は、アフガニスタンのタリバンに共感する武装
組織が集まって2007年に発足し、パキスタン政府や欧米を標的にしてい
ます。
2012年には、女子教育の必要性を訴えていた当時15歳のマララ・ユス
フザイさん(2014年にノーベル平和賞受賞)を銃撃しました。
この武装組織にたいし、今年の6月からパキスタン軍が、掃討作戦を行っ
ています。
同日。
アメリカで、「イスラム国」への参加を計画し、シリアに向かおうとしていた
19歳の男が、FBI(連邦捜査局)に逮捕されました。
この男は、アメリカ中西部イリノイ州のシカゴ郊外に住んでおり、シカゴの
国際空港でトルコに向かう飛行機に搭乗しようとしたところを、FBIに逮捕
されたといいます。
FBIが、男の自宅を捜査したところ、「イスラム国」を信奉する内容の文書
や手紙などが見つかったとしています。
* * * * *
10月5日。
シリア北部の町アイン・アラブ付近で、町を守るクルド人勢力の女性戦闘
員が、「イスラム国」を標的とした自爆攻撃を行いました。
イギリスに拠点がある非政府組織(NGO)の「シリア人権監視団」による
と、女性戦闘員は町の東方にある「イスラム国」の陣地で自爆し、複数の
死者が出た模様ですが、正確な死傷者数は不明だということです。
「イスラム国」側が戦略として用いてきた自爆攻撃を、クルドの女性戦闘
員が行った例は初めてとされており、クルド人側の固い決意を示している
と言えます。
* * * * *
10月6日。
「イスラム国」は、アイン・アラブに侵入し、防衛に当たっていたクルド人
部隊との激しい戦闘の末に、東部の3地区を制圧しました。
イギリスを拠点とする「シリア人権監視団」によると、まる1日に及んだ
戦闘後に、「イスラム国」側が工業地帯の3地区を掌握したといいます。
クルド人部隊は、全住民たちに対して町外への避難命令を出しており、
同地のクルド人報道官は、およそ2000人がすでに町を離れたと明かし
ています。
また、この日。
シリアのクルド人民兵組織である「人民防衛軍(YPG)」の司令官が
明かしたところによると、
「イスラム国」がアイン・アラブの町の東端の検問所を制圧しており、
アイン・アラブが陥落する恐れが強まっているといいます。
同司令官によれば、アイン・アラブの中心地から1.6キロ超の検問所
に、「イスラム国」の戦闘員らが黒いイスラム国の旗を掲げており、その
旗は、国境に近いトルコ側の村からも確認できるといいます。
「人民防衛軍(YPG)」の民兵たちは、国際的な軍事支援を呼びかける
とともに、アメリカを中心とする「有志連合」が時々行うアイン・アラブへの
空爆は、十分に武装された「イスラム国」の攻勢を阻止するのにほとんど
役に立っていないと訴えています。
しかしながら、
「人民防衛軍(YPG)」は、アメリカやトルコ、ヨーロッパ連合(EU)が
テロ組織として認定している、トルコの反政府武装組織「クルド人労働者
党」に近いことから、YPGに軍事支援をすると、ややこしい問題を引き
起こす恐れがあります。
同日。
NATO(北大西洋条約機構)のストルテンベルグ事務総長は、
「イスラム国」が、トルコとの国境地帯で攻勢を強めていることに関連して、
NATO加盟国であるトルコを防衛する考えを表明しました。
事務総長は、訪問先のポーランドで行った記者会見で、トルコの防衛力
を高めるためにパトリオット・ミサイルを配備していると説明し
その上で、「トルコはNATOの加盟国であり、トルコ国境を防衛すること
は、われわれの責任である」と強調しました。
同日。
ベルギー国防省は声明を発表し、ベルギー軍の戦闘機が昨日、イラク
領内で「イスラム国」にたいし、初めて空爆を行ったことを明らかにしました。
声明によると、イラクの隣国・ヨルダンの空軍基地に派遣されたベルギー
軍のF16戦闘機6機のうち2機が、イラク軍と戦っている「イスラム国」の
戦闘員を発見し、1機が攻撃を行いました。
「攻撃の結果、直ちに敵の脅威を取り除いた」として、空爆は成功したと
しています。
同日。
北海道大学に在籍して休学中の26歳の男が、「イスラム国」に戦闘員と
して加わるために、シリアに渡航する計画を立てたとして、
外国にたいして私的に戦闘行為をする目的で準備や陰謀をすることを禁じ
た、刑法の「私戦予備及び陰謀」の疑いで警視庁の取り調べを受けました。
日本人が「イスラム国」に参加しようとした動きが明らかになったのは、
これが初めてです。
警視庁によると、この大学生はシリアに渡航する求人に応募し、渡航を
計画したということで、
任意の調べにたいし、「シリアに行って ”イスラム国” に加わり、戦闘員
として働くつもりだった」と話しているということです。
* * * * *
以上、9月30日~10月6日までの動向について見てきました。
「イスラム国」と、トルコとの間で、緊張が高まってきましたが、
もしも、「イスラム国」がトルコ領内に侵入し、戦闘がおこると、
トルコはNATO(注1)に加盟しているため、同じく加盟している他の
27ヶ国も、戦争に巻き込まれてしまいます。
そんな事態にならないよう願ってやみません。
-------------------------------
注1 NATO(北大西洋条約機構):
NATOとは、アメリカ合衆国を中心として、北アメリカ(アメリカ+カナダ)
とヨーロッパ諸国により、1949年に結成された「軍事同盟」です。
結成後にも加盟国は増えて、2010年現在では、アメリカ、イギリス、
フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、
ノルウェー、デンマーク、アイスランド、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、
トルコ、チェコ、ハンガリー、ポーランド、エストニア、スロバキア、スロベニ
ア、ブルガリア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、アルバニア、クロアチア
の合計28ヶ国になっています。
-------------------------------
しかし、それにしても・・・
この日本で、「イスラム国」の戦闘員の募集が行われていたとは、もの
すごく驚きました。
意外にも、私たちが全く知らないうちに、
イスラム過激派による「テロ組織」の触手が、日本の社会に伸びていた
のかもしれません。
目次へ トップページへ