イスラム国 7 2014年10月5日 寺岡克哉
トラウマになると嫌(いや)なので、今まで見るのを避けていたのです
が・・・
戦争のことをレポートするには、「悲惨な現実」から目をそらせてはいけ
ないと思い、
イスラム国の戦闘員が切断した「生首(なまくび)」の画像を、インター
ネットで見てみました。
やはり私には、ものすごく衝撃的です。画像の記憶は、しばらく頭から
離れないでしょう。
よく、「太平洋戦争の悲惨な記憶を薄れさすな!」と、いうようなことが
言われます。
しかしながら、およそ70年も前の昔話を聞かされるよりは、
いま現在、実際に起こっている戦争の悲惨な現実を、目をそらさずに見た
方が、よほどインパクトが大きいと思います。
そもそも1963年に生まれた私にとっては、1945年に終結した「太平洋
戦争」も、1600年に行われた「関ケ原の戦い」も、
生まれる前に起こった、実感が伴わない「歴史上の出来事」という認識しか
なく、両者にたいして、あまり印象の差がありません。
それに比べれば、いま現在において、実際に切断された「生首」の画像
を見た方が、戦争の悲惨さを嫌というほど思い知らされるのです。
さて今回も、
「イスラム国」をめぐる、世界の動向について見て行くことにしましょう。
* * * * *
アメリカ東部時間の9月22日夜(日本時間で23日午前10時半ごろ)。
アメリカ国防総省は、シリア領内の「イスラム国」にたいして、空爆を開始
したと発表しました。
アメリカがシリアへの空爆を行ったのは、これが初めてですが、シリア
政府には事前に通告したといいます。
空爆は、アメリカと「有志の国」によって行われましたが、この時点では、
参加した国名は明らかにされませんでした。
また、シリアでの空爆作戦は進行中だとして、空爆の場所などの詳細な
情報も明らかにされていません。
* * * * *
9月23日。
アメリカ中央軍は、サウジアラビア、ヨルダン、アラブ首長国連邦、バーレー
ン、カタールの中東5ヶ国も、アメリカ軍とともに空爆に参加したことを明らか
にしました。
このたびの空爆には、戦闘機や爆撃機、無人機を投入したほか、近海
に展開するアメリカの艦艇から、巡航ミサイルの「トマホーク」も発射されま
した。
シリア北部のラッカや、デリゾール、ハサカ、アブカマルの4つの都市の
周辺において、
イスラム国の指揮拠点や武器貯蔵施設、あるいは武装車両などに、合計
で16回の攻撃を行ったといいます。
またアメリカ軍は、これとは別に、
シリアに拠点を置く、国際テロ組織アルカイダ系のグループ「ホラサン」
の施設にも、空爆を加えました。
同日。
イギリスに拠点を置いている、反政府勢力系の団体「シリア人権団体」に
よると、
アメリカ軍などによるシリアへの空爆で、「イスラム国」の戦闘員が少なく
ても70人死亡し、
アルカイダ系グループ「ホラサン」の戦闘員も、およそ50人が死亡したと
しています。
また、デリゾール県にいる反政府勢力の活動家によると、市民7人も空爆
に巻き込まれて死亡したとしています。
同日。
アメリカのオバマ大統領は、ニューヨークで行われる国連総会に向かう
直前に、ホワイトハウスで声明をだし、
このたびの「有志連合」による空爆について、「アメリカの単独行動でない
ことを世界に明確に示すことになるだろう」と強調し、テロに立ち向かう正当
性を訴えました。
また、
国防総省のカービー報道官は、「イスラム国」に対する軍事作戦について、
「まだ始まりに過ぎない」と述べ、今後もシリアとイラクで空爆を続けていく
姿勢を示しました。
同日。
イギリス首相府は、現在、シリアの「イスラム国」の拠点に向けた空爆には
参加していないことを表明しました。
イギリス国防省によると、空爆への参加については協議を続けており、
まだ最終決定はしていないといいます。
同日。
イスラム国の武装組織の要員は、ロイターに対し、「こうした攻撃に対抗
する。サウド家(サウジアラビア王家)の息子らも批判すべき対象に含まれ
る。空爆が起きたのは彼らのせいだ」
と述べ、空爆の実施に寄与したとして、サウジアラビアを批判してます。
同日
シリアのアサド政権と緊密な関係にあるイランの、ロウハニ大統領は、
「政府の要請や国際法に基づかない空爆は、何ヵ国が参加しようとも無意
味だ」と述べて、国連安保理の決議などを経ずにシリアへの空爆を行った
ことを、厳しきく非難しました。
その上でロウハニ大統領は、「アサド政権の協力なしにシリアを安定させる
ことはできない」と述べて、
アメリカが「イスラム国」に対抗するためとして、アサド政権に対抗する穏健
派の反政府勢力に軍事訓練などを行う方針を示していることを、強くけん制
しました。
同日。
安倍首相はニューヨークの国連本部で、イランのロウハニ大統領と会談を
しました。
イスラム国への対策をめぐり安倍首相は、「国際秩序を揺るがす脅威だ。
協力したい」と要請しました。
ロウハニ大統領は、「中東の不安定化が拡大している」と指摘し、「協力でき
るところで協力したい」と述べて、中東情勢をめぐる定期対話を開くことで意見
が一致しました。
日本は、伝統的に良好な両国関係を生かし、イランを敵対関係にあるアメリ
カ側に少しでも引き寄せたい考えです。
また、この日。
岸田外相がニューヨーク市内のホテルで、アメリカのケリー国務長官と会談
をしました。
ケリー長官は、「イスラム国」への空爆を、シリアで開始したことを説明しま
した。
岸田外相はケリー長官にたいし、「基本的に国際社会のイスラム国に対す
る戦いは支持している。今回の行動がイスラム国の弱体化・壊滅につながる
ことを期待する」と、空爆支持の姿勢を強調しています。
また、イスラム国から逃れた避難民保護のため、日本として約2550万ドル
(およそ28億円)の支援を決定したことを伝えました。
同日。
オーストラリアのメルボルン郊外で、「イスラム国」の支持者とみられる男
(18歳)が、警察署で警官2人をナイフで刺し、警官に射殺される事件が起こ
りました。刺された警官2人の命に別状はありません。
イスラム国は9月22日の声明で、イスラム国に対抗する「有志連合」に参加
する国の市民を殺害するように、支持者に呼びかけていました。犯人の男は
それに応えて、警官襲撃を決行した可能性があります。
同日。
アメリカのオバマ大統領は、国連総会に出席するために訪れたニューヨー
ク市内のホテルで、シリア空爆に参加したヨルダンのアブドラ国王をはじめ、
サウジアラビア、バーレーン、カタール、アラブ首長国連邦の中東5ヶ国と
会談し、イスラム国に対抗する「有志連合」の結束を誇示しました。
会談の冒頭でオバマ大統領は、「われわれの前例のない努力によって、
世界が団結しているという極めて鮮明なメッセージを発信できる」と強調しま
した。
その上で、「われわれは ”イスラム国” や大量流血を引き起こす過激派
勢力を最終的に打ち破る。それは容易なことではないが」と、決意表明をし
ました。
ちなみに、この会談には、イラクのアバディ首相も加わっています。
* * * * *
9月24日。
アメリカのオバマ大統領が、ニューヨークで開かている国連総会で演説を
しました。
その演説の中で「イスラム国」については、「無実の人々を殺害し、世界に
衝撃を与えている。 ”イスラム国” は弱体化され最終的には壊滅されなけ
ればならない」と述べました。
その上で、「 ”イスラム国” と戦うイラクやシリアの勢力に武器を供与し、
支援していく。われわれは軍事力を行使し、空爆を行っていく」と述べ、
イスラム国のような組織には武力しか通用しないとして、空爆を続ける決意
を表明しました。
オバマ大統領は、「われわれは脅しに屈しない」と述べ、イスラム国に加担
する者は手遅れになる前に「戦場を離れるべき」と警告しています。
しかし、その一方で、「アメリカの地上部隊を海外に派遣するつもりはない」
という方針も改めて示し、アメリカは、いかなる国も占領する意向を持っていな
いとしています。
またオバマ大統領は、アメリカが主導する有志連合に「すでに40ヶ国以上
が参加を申し出た」ことを明かし、
「アメリカは単独では行動しない。世界にわれわれの取り組みに加わるよう
求めたい」と呼びかけ、国際的な包囲網の構築に向け、各国に協力を求めま
した。とくにイスラム教の国々に対しては、過激思想を拒絶するように求めて
います。
さらにシリア情勢については、イスラム国とともに「アサド政権」も非難しま
した。
すでに20万人近くが犠牲になっている内戦を、終結に導く唯一の解決策
は「政権の移行だ」と強調し、改めてアサド大統領の退陣を求めています。
同日。
国連安全保障理事会は、すべての国にたいして、武装組織の戦闘に参加
するため海外に渡航する自国民の処罰を求める決議案を、全会一致で採択
しました。
これは、「イスラム国」などの過激派組織に、多くの外国人戦闘員が合流し
ていることを受けた措置です。
決議では、「外国人テロ戦闘員」が紛争の緊張を高めており、母国や渡航
先の国にとって深刻な脅威となる可能性があると指摘し、
国連加盟国にたいして、海外の紛争地域に自国の戦闘員を渡航させる
ことや、戦闘員の募集・資金調達を、「重大犯罪」として取り締まることを義務
付けています。
これに違反した国に対しては、国連憲章の第7章に基づいて、経済制裁
などを科す権限が、国連安保理に付与されます。
同日。
オバマ大統領はニューヨーク市内で、イラクのアバディ首相と、初めて会談
をしました。
この会談でアバディ首相は、「イラク軍は ”イスラム国” との戦闘で多く
の武器を失った。とくに ”イスラム国” がシリアから国境を越えて入ってき
た際に、多くの武器が破壊され、奪われたものもある」として、武器の供与を
求めました。
これに対してオバマ大統領は、「イスラム国」と戦うために、イラク軍にでき
るだけ早期に武器を供与する方針を伝えています。
会談後の記者会見でオバマ大統領は、「 ”イスラム国” はイラクだけで
なく、世界やアメリカにとっても脅威であり、われわれは、空爆やイラク軍の
訓練を行っている」と説明しました。
しかしながら、「アバディ首相も ”イスラム国” の壊滅は容易ではなく、
一夜にして出来ることではないと分かっていると思う」と述べて、
「イスラム国」に対抗するためにも、イラクが宗派や民族の違いを乗り越え
て結束するとともに、地域の国々と連携して取り組むことが重要であると、
強調しています。
同日。
アメリカ軍は、「イスラム国」に対して、サウジアラビアやアラブ首長国連邦
の軍と共に、戦闘機や無人機で空爆を13回行ったと発表しました。
この空爆は、シリア東部にある12ヶ所の石油精製施設を狙ったもので、
「空爆の成果は調査中だが、成功したとみている」としています。
ちなみにアメリカ軍は、このたび攻撃した施設で、「イスラム国」が1日に
最大でおよそ200万ドル(およそ2億2000万円)の資金を得ていたと推定
しており、
「石油精製施設を破壊することで、”イスラム国” の作戦能力をそぐことが
目的である」と説明しています。
同日。
トルコとの国境にあるシリア北部の町「アイン・アラブ」を防衛している、
クルド人部隊の幹部によると、
アメリカ主導で実施された空爆を受けて、「イスラム国」が現地における
戦闘員の数を増やしているということです。
この幹部は、「ラッカ砲撃以降、戦闘員や戦車の数が増えた」と述べて
おり、すでに「イスラム国」は、アイン・アラブの南端から8キロ以内の地点
まで侵攻しているといいます。
一方、ラッカに潜む反政府勢力の活動家によると、イスラム国側は、シリ
ア政府軍から奪った対空砲を近くの山などに設置して、反撃する構えを
見せているということです。
また、「イスラム国」はラッカの住人にたいし、モスク(イスラム教の礼拝
所)のスピーカーを通じて逃げないように呼びかけているものの、住民の
中には、ラッカの郊外や隣国のトルコに避難する動きが出ているとしてい
ます。
同日。
イスラム国に忠誠を誓っている、北アフリカ・アルジェリアの武装組織
「カリフの兵士」は、
人質にしていたフランス人男性の首を切断する映像を、インターネット
に公開しました。
その映像によると、これはイラク領内でイスラム国への空爆を行った、
フランスにたいする「血のメッセージ」だと主張しています。
「カリフの兵士」は、拘束したフランス人男性の映像を9月22日に公開
しており、
フランスが24時間以内に空爆を停止しなければ、人質を殺害すると
脅迫していました。
しかしフランス政府は、「テロリストの脅しには屈しない」という姿勢を
貫いていたのです。
フランスのバルス首相は、この日の議会で、映像が公開された事実
は把握していると述べた上で、映像の真偽の確認を急ぐ考えを示して
います
* * * * *
9月25日。
アメリカ国防省のカービー報道官は、昨日に行ったシリア東部の石油
精油施設への空爆について、
空爆に参加した16機の戦闘機のうち10機が、同盟関係にあるサウジ
アラビアとアラブ首長国連邦の戦闘機だったとして、アラブの周辺国が
空爆の実行に大きな役割を果たしていると説明しました。
その上でカービー報道官は、「”イスラム国” は他にも精油施設を所有
している。われわれはシリアの ”イスラム国” に対して、引きつづき戦略
を練っていく」と述べて、今後も各国と連携して軍事作戦を続ける考えを
示しました。
また、「アメリカが攻撃した施設に、シリアの政府軍が侵攻していると
いった動きはみられていない」と述べて、アメリカの空爆によってアサド
政権を利する形には、なっていないことを強調しています。
一方、シリアに潜むアルカイダ系グループ「ホラサン」の指導者が、
アメリカ軍の空爆によって死亡したと一部報道で伝えられていることに
ついては、「まだ確認ができず、攻撃の成果は検証中だ」と述べるにとど
まりました。
同日
イスラム国が制圧している、シリア東部のデリゾール県に潜む反政府勢力
の活動家は、
この日も戦闘機5機が、シリアとの国境に近い町や、石油精製所を空爆
したことを明らかにしました、
その上で、「空爆は、ものすごく威力が強く、10キロほど離れた場所でも
大きな爆発音が聞こえたほどだ。空爆を恐れて、住民が全員避難した地区
もある」と証言しています。
また、「集落の中では、イスラム国の装甲車などがある場所や、幹部が
集結している場所が攻撃されたが、住民が避難していた学校も空爆されて
けが人も出ていて、住民は怒っている」と、いうことも明かしました。
この活動家によると、昨日に行われた空爆では、住民9人が巻き添えと
なって死亡した村もあるということで、空爆を歓迎していた住民の間でも、
一部では「反発の声」が上がっているみたいです。
同日。
国連事務総長のムラデノフ特別代表(イラク担当)は、声明を出し、
イラクの著名な女性弁護士で人権活動家のサミーラ・ヌアイミさんが、
「イスラム国」に公開処刑されたことを明らかにし、「おぞましい犯罪だ」と
非難しました。
声明などによるとヌアイミさんは、「イスラム国」がイラク北部のモスル市
にあるモスクや廟(びょう)を破壊したとして、フェイスブックで批判をして
いました。
それで「イスラム国」のグループは、9月17日にヌアイミさんをモスル市
の自宅から拉致し、
宗教法廷で「背教罪」による有罪判決を下したあと、拷問を加えた末に、
今週、銃殺刑にしたといいます。
同日。
イラクのアバディ首相は、「イスラム国」の戦闘員がフランスやアメリカで、
地下鉄への攻撃を計画しているという「信頼できる情報」を、入手したと明ら
かにしました。
イラクで拘束したメンバー数人から得た情報として、イスラム国の「ネット
ワーク」が、イラク国内から攻撃を計画していたと言います。
フランスのオランド大統領は、関係閣僚を集めた緊急会議を開催して、
「公共の場や交通機関でのテロ行為に備えるため対策を強化することを
決めた」とする声明を出しました。
パトロールする警官や軍人を増強し、パスポートの提示を求めたり、公共
施設などで所持品の検査を強化するといいます。
また、多くの人が集まる、主要な観光スポットでの警備体制も強化します。
一方、アメリカ ニューヨーク市の、ウィリアム・ブラットン警察本部長は、
アバディ首相の発言を受けて、地下鉄や街の中心部を巡回する警官の数
を増やして、警戒に当たっていることを明らかにしました。
* * * * *
以上、
9月23日~25日までの、「イスラム国」をめぐる世界の動向について、
見てきました。
私は思うのですが・・・
この「テロとの戦い」には、すでに「世界中」が巻き込まれてしまったよう
に感じます。
もちろん日本も、「イスラム国」に人質をとられており、すでに巻き込まれ
ています。
また、「イスラム国」側の戦略として、
海外に渡航している、ビジネスマンや観光客の「拉致・殺害」。
欧米諸国に住んでいる「市民の殺害」、都市や交通機関への「テロ攻撃」
などを画策しているため、
この戦いにおける「戦場」は、
シリアやイラク領内の「イスラム国が制圧した地域」だけでなく、世界中
に広がっていると考えてよいでしょう。
もしかしたら、これは、
今までに無かった、まったく新しい形の「世界大戦」なのかも知れま
せん。
欧米諸国は、「イスラム国」と戦うだけでなく、
自国が抱えている「社会的な矛盾や不平等」とも、戦わなければならな
く、なっています。
欧米諸国の中から、「イスラム国」に共鳴する若者が続出しているのは、
おそらく、そう言うことなのでしょう。
そしてまた、
このような国際情勢の中で、さらには「ウクライナ問題」なども考えると、
日本における「集団的自衛権の行使」を、十分な国民的議論も行わず
に、軽々しく容認してしまって、
はたして良いのでしょうか?
私は、そのような観点から、
「イスラム国」の問題を見つづけ、レポートして行きたいと考えています。
目次へ トップページへ