イスラム国 6           2014年9月28日 寺岡克哉


 イスラム国をめぐる世界の動きが、とても目まぐるしくなってきました。


 ところで前回までは、

 国別、地域別にまとめて動向をみてきましたが、そのようなレポート方式
だと、時間的に話が前後する恐れが出てきました。


 なので今回からは、

 「時系列」に従って、イスラム国をめぐる世界の動向について、見て行く
ことにしたいと思います。


              * * * * *


 9月15日。

 フランスのパリに、およそ30の国と機関の代表たちが集まって、「イス
ラム国」への対応策を協議する国際会議が開かれました。

 フランスのオランド大統領は冒頭で、「イスラム国の脅威への対応には
一刻の猶予もない」と強調し、
 「テロに対するイラクの戦いはわれわれの戦いでもある。われわれは
イラク政府を支援しなくてはならない」と、国際社会の団結を呼びかけま
した。

 採択された共同声明では、「イスラム国」はイラクだけではなく、国際
社会にとっても脅威になっていると指摘し、
 関係国はイラクにたいして、「適切な軍事面での支援も含めたあらゆる
必要な手段をとることを約束した」などとしています。

 しかし一方、声明では、アメリカのオバマ政権が表明しているシリア領
への空爆拡大の方針についての、言及はありませんでした。
 シリアのアサド政権と同盟関係にあるロシアなどが、反対したものとみら
れます。

 また、この会議には、イラクとシリアの両国に影響力のある「イラン」が、
参加しませんでした。



 同日。

 アメリカ軍は、イラクの首都バグダッドの南西部で、イラク政府軍と戦って
いる「イスラム国」の拠点にたいして、空爆を行ったと発表しました。

 アメリカ軍は8月8日から、イラクの北部を中心に空爆を行ってきましたが、
首都バグダッドの近郊にまで範囲を拡大したのは初めてのことです。

 このたびの空爆についてアメリカ軍は声明を出し、「大統領の方針にのっ
とり、アメリカ人の保護や人道的な任務という枠組みを超え、拡大して行わ
れた初めてものもだ」と説明しました。


              * * * * *


 9月16日。

 イギリスに拠点がある民間団体の「シリア人権監視団」によると、シリア
北部のラッカで、シリア政府軍の戦闘機が、イスラム国に撃墜されました。

 イスラム国は、シリアとイラクの両政府軍から、多数の高性能武器を奪っ
ており、地対空ミサイルなどの対空兵器を得た可能性があります。

 アメリカが、シリア領内への空爆拡大を検討するなか、イスラム国が対空
攻撃能力を誇示した格好となりました。


              * * * * *


 9月19日。

 フランスのオランド大統領が声明をだし、フランス空軍が、イラク領内の
「イスラム国」にたいして空爆を行ったことを明らかにしました。

 オランド大統領は、「テロリストの勢力をそぎ、イラク政府やクルド人部隊
を支援するためだ」と述べ、今後もイスラム国にたいして空爆を続けていく
としています。

 ただしオランド大統領は、イラクに地上部隊を派遣する可能性を否定する
とともに、「関与するのはイラクだけだ」と述べて、シリアでの軍事作戦には
参加しない立場を強調しました。



 同日。

 国連安全保障理事会は、「イスラム国」への対応を話し合う外相級会合を
開き、「国際社会が連携してイラクの新政権を支えていく」とする議長声明
を出しました。
 この会合は、アメリカのケリー国務長官が主宰し、日本をふくむ38ヶ国が
参加しています。
 また声明には、「イスラム国による殺りくや誘拐、拷問を強く非難し、民主
化を進めるイラク政府を全力で後押しする」と明記しました。

 ただし、ロシアやイラン、シリアの代表は、「イスラム国」の脅威は認めな
がらも、「軍事行動はあくまでも国際法や国連憲章にのっとり、テロと戦って
いる各国政府の了解のもとに行われるべきだ」などと述べて、
 アメリカがシリア政府の同意のないままシリア国内への空爆の準備を進め
ていることをけん制しました。



 同日。

 アメリカのライス大統領補佐官(国家安全保障担当)は、ホワイトハウス
での記者会見で、

 イスラム国に対抗する「有志連合」について、「単一の指揮の下で行動する。
有志連合の指揮が分かれることはない」と語り、イスラム国への軍事行動を
単一の指揮下で進める考えを明らかにしました。

 その上で、「各国の政治状況に応じて様々な支援を歓迎する」と述べ、軍事
だけでなく、人道支援も含めた幅広い分野での有志連合への参加を訴えて
います。



 同日。

 日本政府は、この日の閣議で、「イスラム国」の被害を受けたイラク国内の
避難民、レバノンに流入しているシリア難民向けに、2270万ドル(およそ25
億円)の緊急無償金協力を行うことを決定しました。難民キャンプへのテント
などの救援物資の配布などに充てます。

 また、政府はこれとは別に、シリアの反体制派支配地域やイラク国内に、
280万ドルを支援します。医療器材の供与などを想定しており、一連の支援
は総額で2550万ドルになります。


               * * * * *


 9月20日。

 シリア北部では、「イスラム国」がクルド人への攻勢を強めており、この日
までに、トルコとの国境に近いアイン・アラブという町や、その周辺の少なく
ても63の村を制圧しました。

 激しい戦闘から逃れようとしたクルド系の住民が、トルコとの国境に押し
寄せたため、
 トルコ政府は9月19日に、鉄条網などで閉鎖していた国境を解放して、
住民たちをトルコ側に避難させています。

 トルコのクルトゥルムシュ副首相によると、9月19~20日の2日間で
6万人以上の住民がトルコに逃れ、学校や政府の施設などで保護されて
いると言うことですが、その数はさらに増えるとみられます。



 同日。

 トルコ政府は、「イスラム国」の人質になっていたトルコ人の外交官ら49
人が、無事に解放されたことを明らかにしました。

 外交官らは6月11日に、モスルの領事館で身柄を拘束されましたが、
救出作戦が行われるまでに人質たちは8回、移動させられていたといい
ます。

 救出作戦の具体的な内容は明らかにされていませんが、トルコのエル
ドアン大統領は、「事前に準備された作戦で、詳細はすべて慎重に計算
されていた。作戦は一晩の間に極秘で実行された」と述べています。

 ちなみにトルコ政府は、これまで人質の安全に配慮して、アメリカなどが
行っているイスラム国への空爆について、トルコ国内の基地の使用を拒否
するなど慎重な態度をとってきました。

 しかし今回、人質が救出されたことで、イスラム国への対応が積極的
な姿勢に転じるかどうかが注目されています。


              * * * * *


 9月21日。

 イスラム国は、シリア北部のトルコとの国境に近い町アイン・アラブや、
その周辺の村々を制圧しており、
 国連によると、トルコに越境したクルド人避難民の数は、この日までに
10万人を超えた可能性があり、これからも増える見通しです。

 アイン・アラブ周辺地域から逃れたクルド人住民によると、イスラム国は
制圧した地域で、年齢を問わず住民を処刑し、隷属(れいぞく)を強制して
いるといいます。

 9月20日にアイン・アラブを訪れた、トルコの親クルド政党HDPのイブラ
ヒム・ビニチ氏は、「これは戦争というより大虐殺だ。彼ら(イスラム国)は
村に押し入って1~2人の首を切断し、村人に見せつけている」と説明し、

 「じつに恥ずべき人道状況だ」と述べて、国際社会による介入を求めて
います。



 同日。

 ローマ法王フランシスコは、イスラム教徒が人口の半分を占めるバルカン
半島のアルバニアを訪れた際に

 「暴力や弾圧をたくらみ、実行に移す者を、神を守る者と自認させてはなら
ない」と述べて、イスラム国によるキリスト教徒たちへの迫害などを、強く批判
しました。

 ローマ法王は、アルバニアのニシャニ大統領たちと会談し、イスラム教や
カトリック、東方正教会の信者たちが宗教の違いを超えて共存していること
を称賛し、宗教間の融和の重要性を改めて訴えました。



 同日。

 アメリカのケリー国務長官と、イランのザリーフ外相が、ニューヨークで会談
し、「イスラム国」への対応について意見を交わしました。
 アメリカ政府が、核開発問題で鋭く対立しているイランと公式の会談をする
のは、初めてのことです。

 アメリカ国務省の高官によると、協議の具体的な内容は明らかにされて
いませんが、
 アメリカはイラン側に、イスラム国にたいする国際的な包囲網の構築につ
いて協力を求めたものとみられます。



 同日。

 イランのザリーフ外相が、サウジアラビアのサウド外相と、ニューヨークで
会談をしました。

 会談の終了後、サウド外相は、「イスラム国」によるシリアとイラクでの勢力
拡大は深刻な危機であり、サウジとイランが協力して対処できるとの認識を
示しました。


               * * * * *


 9月22日。

 「イスラム国」は、インターネット上に声明を出し、アメリカやフランスなどの
有志連合に加わる国々の市民を「殺害」するように呼びかけました。

 声明では、アメリカなどがイスラム国を壊滅させるための国際的な包囲網
の構築を進めていることについて、
 「十字軍の最後の軍事作戦になる。これまでの作戦が破壊され敗れたよう
に、今回もそうなる」と述べています。

 その上で、全世界のイスラム教徒にたいし、「アメリカ人やヨーロッパの
市民、とくにフランス人、さらにはオーストラリア人やカナダ人、そしてイスラ
ム国に敵対する”有志連合”に加わった市民を殺害できるなら、神の名の下
に殺害せよ」と呼びかけています。

 この声明について、アメリカ・ホワイトハウスのアーネスト報道官は記者
会見で、「何も答えることはない」と述べ、
 アメリカが主導するイスラム国との戦いに、「揺るぎはない」という姿勢を
示しました。

 また、フランスのカズヌーブ内相は声明を発表し、「フランスは恐れてはいな
い。危険が全くないわけではないが、フランス政府は万全の予防策を講じて
おり、今もこれからも国民の安全を確保するためあらゆる措置をとる」と、強調
しています。



 同日。

 トルコのカートゥルマス副首相は、クルド軍が「イスラム国」のアイン・アラブ
侵攻を阻止する戦いを続けるなかで、その戦火を逃れるために約13万人の
住人がトルコに避難したことを明らかにしました。

 トルコ政府は、治安上の理由から解放していた国境の多くを閉鎖したため、
警備に当たるトルコの治安部隊と、一部の住民が衝突するなどの混乱も起き
ています。

 国連難民高等弁務官事務所は、避難する住民の数がさらに増えて、数十
万人に上る可能性を示しており、混乱がさらに拡大することが懸念されます。



 同日。

 イスラム国の系列を名乗る武装勢力が、北アフリカのアルジェリアで、フラ
ンス人の男性を拘束したとする映像を、インターネット上に公開しました。

 その映像では、覆面をした男が、「フランスは24時間以内にイスラム国へ
の攻撃をやめなければ、(フランス人の)男性を殺害する」と脅し、フランス
がイラクで行っているイスラム国への空爆を中止するように要求しています。

 これについて、フランスのファビウス外相は訪問先のニューヨークで記者
会見し、この映像が本物であり、男性はアルジェリアの北部で拘束された
ことを明らかにしました。しかし、そのことでフランスの方針が変わることは
ないと強調しています。

 また、フランスのオランド大統領は、アルジェリアの首相と会談し、フラン
ス人男性の解放に向けての協力を求めました。



 同日。

 新疆ウイグル自治区の過激派が、イスラム国から「テロリスト訓練」を受け
るために中国を離れたと、政府系の新聞が報道しました。自国での攻撃が
訓練の目的だとしています。

 共産党機関紙・人民日報の傘下にある「環球時報」は、中国の「反テロ
職員」の話として、
 新疆の過激派は「テロリスト技術の訓練を受けようとしているだけでなく、
中国でのテロ活動激化への支持を得るために、実際の戦闘を通じて国際
的なテロ組織とのつながりを広げようとしている」としています。

 また環球時報は、新疆の過激派が最近、シリアやイラクでのイスラム国
の活動や、東南アジアでのイスラム国の「分派」に関与していると報じてい
ます。

 さらには、新疆の過激派とされる4人が今月、インドネシアで逮捕されたと
しています。



 同日。

 ロシアのプーチン大統領は、アメリカが、シリア領内の「イスラム国」にも
空爆を拡大する方針を固めたことについて、シリアのアサド政権の同意が
あれば、容認する考えを示しました。

 ロシアはこれまでも、アメリカがシリア領内で空爆する場合は、合法政府
であるアサド政権と国連安保理の、「事前承認」が必要だと主張していま
した。



 同日。

 岸田外相はニューヨークで、イタリアのモゲリーニ外相と会談をしました。

 この会談で岸田外相は、モゲリーニ外相が再来月にEU(ヨーロッパ連合)
の上級代表に就任することにたいして、「日本とイタリアやEUとの協力を
成果あるものにしたい」と祝意を示しました。

 その上で、イスラム国への対応について、「各国がそれぞれの強みを
生かした貢献が必要だ」と述べて、日本として避難民に対する人道支援
などに力を入れていく方針を説明しました。

 これに対してモゲリーニ外相は、「イスラム国は、宗教を悪用したテロ組織
だということを忘れてはならない」と応じ、

 両外相は、日本とイタリア、EUが引きつづき緊密に連携して「イスラム国」
に対応していくことを確認しました。


                * * * * *


 以上、

 9月15日~22日までの、イスラム国をめぐる世界の動向について見て
きました。


 「イスラム国」は、アメリカやフランスなどの「有志連合」に加わる国々の
市民を、「殺害」するように呼びかける声明を出しました。

 しかしアメリカは、そんなことには屈せず、シリア領内の「イスラム国」に
たいして、空爆を開始することになります。


 申し訳ありませんが、それについては次回でレポートしたいと思います。



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