イスラム国 5           2014年9月21日 寺岡克哉


 前回に引きつづき、

 「イスラム国」にたいする、世界各国や国際組織の対応について、見て
行きましょう。


             * * * * *


●アラブ連盟

 アラブ連盟(注1)は9月7日。エジプトの首都カイロで、外相級会合を
開きました。

 会合が終わると、アラビ事務局長が声明を読み上げましたが、

 具体策への言及はさけつつも、「必要なあらゆる措置をとることで合意
した」と、しています。



 しかしながら声明には、

 イラクにおいてアメリカが、イスラム国に対して進めている「空爆」を、
明確に支持する文言は盛り込まれませんでした。

 これは、アラブ諸国としてアメリカの軍事行動を支持すると、

 イスラム国に同調するジハード(聖戦)主義勢力が、アラブ諸国内でも
テロ活動を活性化させるのではないかという懸念があるためです。

 また、

 アラブ諸国の「国民感情」としても、欧米の軍事介入には反発する懸念
があり、

 アメリカの空爆支持においては、各国の足並みがそろわなかった形と
なりました。



 ところで声明では、

 シリアの反体制派にたいして、アサド政権側と対話するようにも促して
います。

 これは、イスラム国に対抗するために、「シリア内戦の鎮静化」が必要
であるという認識が、アラブ諸国内にあるものとみられます。



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注1 アラブ連盟

 「アラブ連盟」は、アラブ世界の政治的な地域協力機構で、1945年
に創立されました。本部は、エジプトの首都カイロにあります。

 創立後にも加盟国は増えて、現在では、
 エジプト、シリア、イラク、ヨルダン、レバノン、サウジアラビア、
イエメン、リビア、スーダン、モロッコ、チュニジア、クウェート、
アルジェリア、アラブ首長国連邦、バーレーン、カタール、オマーン、
モーリタニア、ソマリア、パレスチナ、ジプチ、コモロの、21ヶ国と1機構
が「アラブ連盟」に加盟しています。

 ただし「シリア」は、2011年の11月から、いま現在においても、加盟
資格が停止されています。
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●イラク

 イラク連邦議会は、9月8日にアバディ首相が率いる内閣を承認して、
「新内閣」が発足しました。

 新内閣には、イスラム教のシーア派、スンニー派、そしてクルド人の
3勢力が参加しており、「挙国一致」に向けた歩みが始まった格好です。



 ちなみに、これまでのイラクは、

 マリキ前首相の支持基盤であるシーア派をすごく優遇していたため、
少数派のスンニー派やクルド人との対立を深めていました。

 そのためイラクは、「イスラム国」にたいして有効な対処ができず、支配
地域の拡大を許してしまったのです。

 だからアメリカなどの国際社会は、この混乱を収拾させるため、実務家
肌で党派色が薄いとされるアバディ氏による、

 「挙国一致政権」の早期樹立を期待していました。



 ところが、

 治安などを行う「実力組織」を掌握(しょうあく)する、「国防相」と「内相」に
ついては、候補者の調整が難航して、決めることができませんでした。

 この2つのポストについてアバディ首相は、1週間以内に決めると表明し、
空席の期間は自らが代行することになりました。



 しかしながら、その8日後の9月16日。

 イラク連邦議会は、アバディ首相が選出した「国防相」と「内相」の候補
者を、否決してしまいました。



 連邦議会議長の広報室の発表によると、

 アバディ首相は、国防相の候補者にスンニー派のジャベル・ジャベリ氏を、
内相の候補者にはシーア派のリヤド・ハリーブ氏を、それぞれ選出しました。

 しかし名前が提示された直後に、投票で否決されてしまったといいます。

 その理由は、シーア派のアバディ首相が所属する「法治国家連合」から、
内相候補が選ばれたことに対して、

 同じシーア派の他政党が反発し、国防相の人事案も含めて拒絶したと
いうことです。



 このためイラクの現状は、

 イスラム国に対抗するための「挙国一致」への取り組みが、やや後退した
形になっています。


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●インドネシア

 インドネシアの「国家テロ対策庁」などによると、すでに100人以上がシリ
アやイラクに渡ったということで、

 その大半は、「ジェマ・イスラミア」などインドネシア国内の過激派組織に
所属している若者です。



 じつはインドネシアは、およそ2億2000万人ものイスラム教徒を抱える、
世界最大のイスラム国家です。

 近年において、インドネシアで活動するイスラム過激派組織は、弱体化
していたのですが、

 しかし「イスラム国」を目指す過激派は、活発に情報交換などをしており、
過激派のネットワークがよみがえりつつあります。



 インドネシアのユドヨノ大統領は、今年の8月。

 「イスラム国の思想はイスラムの教えから逸脱し、社会に害悪をもたらす」

 として、イスラム国への参加や、支持表明を禁じると明言しました。

 さらには、ジハード(聖戦)に参加した者の、国籍の剥奪(はくだつ)も検討
するとしています。


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●オーストラリア

 オーストラリア連邦警察は9月18日に、国内で大規模な反テロ作戦を
実施しました。

 連邦警察の発表によると、シドニー市内と近郊で25ヶ所の捜査令状
を取り、800人以上の警官を動員して、

 テロ関連の容疑で少なくても1人を逮捕し、15人を拘束しました。

 また、ニューサウスウェールズ州警察によると、ブリスベン市内でも
複数の個所で捜索が行われました。

 これらは「反テロ」において、オーストラリア史上最大規模の作戦だと
いいます。



 オーストラリアのアボット首相は、同9月18日。

 「非常に直接的な勧告が、ISIL(イスラム国の旧名)の幹部とみられる
オーストラリア人から、オーストラリア国内の支持者らに向けて発せられ
た。国内で実演殺人を実施せよという内容だ」と発表しました。

 その上で、

 「これは単なる疑惑ではなく、意図されたものであり、それが警察と治安
当局が今回の行動に出た理由だ」と、述べています。



 オーストラリア放送協会は、

 当局に拘束された人物らは、シドニーで一般市民を無作為に選んで
捕らえ、

 イスラム国の旗を体に巻きつけて、カメラの前で斬首する計画を立てて
いたと報道しました。

 計画の詳細は、裁判所の文書で明らかにされる見込みだとしています。



 ちなみに、オーストラリア政府は先週、

 イラクとシリアでの戦いに参加した後に帰国する、オーストラリア戦闘員
らに対する懸念が高まっていることから、

 国内における「テロの警戒レベル」を、およそ10年ぶりに引き上げて、
4段階のうちで上から2番目の「高」にしていました。



 さらなるテロ対策として、

 オーストラリア政府は、国民が戦闘のために海外に渡航することを禁止
する予定です。

 オーストラリアの情報機関のトップによると、

 海外で戦闘に参加しているオーストラリア人は約60人に上り、国内には
100人以上の支援者がいるということです。

 ここ数ヶ月のうちに、イスラム国に加わって戦闘を行ったオーストラリア人
の15人が死亡し、そのうちの2人は「自爆テロ」を起こしていたといいます。



 さらにアボット首相は、イスラム国に対抗する「有志連合」を支援するた
めに、

 戦闘機や特殊部隊の兵士200人を派遣する、準備をしているということ
です。


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 以上、

 前回のレポートから、ここまで見てきて、私は改めて思ったのですが、

 「イスラム国」の台頭は、もはや「世界的な問題」になっています。



 そしてまた、私も心配していたのですが、

 やはり「インドネシア」にも、イスラム国の影響が及んでいました。

 そのほか東南アジアでは、マレーシア、シンガポール、フィリピンなどにも、

 若者がシリアやイラクに渡るなどの「イスラム国の影響」が、及んでいる
みたいです。



 ちなみに東南アジアは、

 日本企業の進出や、外国人労働者の受け入れなど、わが国と深く結び
ついている地域です。

 そのため日本も、

 「イスラム国によるテロ攻撃」と、けっして無関係では、なくなってきている
のです。



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