イスラム国 4           2014年9月14日 寺岡克哉


 「イスラム国」が制圧している地域の面積は、イギリスの国土にも匹敵し
ます。


 また、

 CIA(アメリカ中央情報局)が、9月11日に発表した推計によると、

 イスラム国が抱える戦闘員の数は、2万~3万1500人に達するとして
います。


 こんなにも、

 「イスラム国」の勢力が拡大しているので、世界中のさまざまな国や組織
が、その対応に迫られています。


 今回は、

 そのようなイスラム国の勢力拡大にたいする、世界の動きについて見て
いきたいと思います。


              * * * * *


●アルカイダ

 国際テロ組織のアルカイダが、「インドに支部を設立した」と宣言しま
した。

 これには、「イスラム国」に対抗しようとする狙(ねら)いがあると見られ
ています。



 アルカイダの指導者であるザワヒリ氏は、9月3日にインターネットに
掲載されたビデオによる声明で、

 「インドや周辺におけるアルカイダの新しい支部が設立された」と宣言
しました。

 その上で、

 「聖戦の旗を掲げ、イスラム法に基づいたイスラムによる統治を行う」

 「ミャンマーや、インド国内、バングラデシュなどで不公正や圧政からイス
ラム教徒を解放する」

 と述べて、インドや、その周辺国での「テロ攻撃」を予告しています。



 また、ザワヒリ氏はビデオで、

 「カリフを樹立したい者は、イスラム教徒の血と財産を尊重すべきであり、
殺すべきではない」

 と強調し、イスラム国の指導者バクダディ氏を非難しました。



 全体的に、ザワヒリ氏のメッセージのほとんどは、

 シリアとイラクでは弱まっているものの、アルカイダの勢力を見せつける
ことに重点が置かれていて、

 イスラム国がまだ入っていない新しい地域に、アルカイダが拡大している
ことを、示そうとする意図がみられます。


              * * * * *


●イラン

 9月5日。イスラム国との戦いにおいてアメリカ軍と協力することを、

 イランの最高指導者であるハメネイ師が「承認した」と、

 BBC(イギリス放送協会)が情報源を明かさずに報道しました。



 ハメネイ師は、すべての国事にたいして最終決定権をもっており、さら
には「反米路線」を掲げているのですが、

 このたびイスラム国に対抗するため、イラン革命防衛隊の精鋭である
「コッズ部隊」が、アメリカ軍と連携することを許可したと、

 BBC(イギリス放送協会)は伝えています。



 これに対して、同日の9月5日。

 アメリカ国防省のハーフ副報道官は、イスラム国への対処をめぐり、

 「イランと軍事行動を調整したり、(作戦上必要な)情報を共有したり
することはない」と、記者会見で明言しました。



 しかし、その一方でハーフ副報道官は、

 「イスラム国はイランを含む中東地域全体への脅威であり、すべての
国が撃退へ向けて取り組まなければならない」と指摘して、

 イラン側とイスラム国をめぐって対話すること自体は、「拒まない」という
考えを強調しています。


              * * * * *


●アメリカ

 アメリカのオバマ大統領は、9月10日にホワイトハウスで国民に向けて
演説し、

 「イスラム国」への空爆を、これまでイラク領内に限定していたのですが、

 その方針を転換して、「シリア領内」にも拡大する考えを示しました。



 オバマ大統領は演説で、

 「イスラム国は野蛮な行為でアメリカ人記者2人の命を奪った」と非難し、

 「イスラム国のような ”癌(がん)” を根絶するには時間がかかる」

 「包括的で持続的な戦略(有志連合の結成)によって弱体化させ、最終
的には(イスラム国を)壊滅させる」と、宣言しました。



 その上で、シリア領内におけるイスラム国への対応については、

 「空爆を継続しているイラクと同様に、シリアでの行動もためらわない」

 と述べ、空爆に踏み切る考えを明らかにしました。



 しかし、その一方でオバマ大統領は、

 「イラクやアフガニスタンの取り組みとは異なる。アメリカ軍の戦闘部隊
が国外で戦うことはない」

 と語り、アメリカ地上部隊の派遣を重ねて否定しています。


              * * * * *


●NATO

 NATO(注1)は9月の4日と5日に、イギリスのウェールズで首脳会議
を行いました。

 その会議では、もちろん「ウクライナ問題」について話し合われたので
すが、

 「イスラム国」の問題についても話し合われました。

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注1 NATO(北大西洋条約機構):

 NATOとは、アメリカ合衆国を中心として、北アメリカ(アメリカ+カナダ)
とヨーロッパ諸国により、1949年に結成された「軍事同盟」です。

 結成後にも加盟国は増えて、2010年現在では、アメリカ、イギリス、
フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、
ノルウェー、デンマーク、アイスランド、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、
トルコ、チェコ、ハンガリー、ポーランド、エストニア、スロバキア、スロベニ
ア、ブルガリア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、アルバニア、クロアチア
の合計28ヶ国になっています。
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 (ここではウクライナについて触れませんが)「イスラム国」への対応
については、

 アメリカを中心として、イギリス、フランス、ドイツ、カナダ、オーストリア、
トルコ、イタリア、ポーランド、デンマーク

 の10ヶ国からなる「有志連合」によって、イスラム国に対抗していくこと
が確認されました。



 これに関連して、アメリカのケリー国務長官は、

 10ヶ国の共通認識として、地上部隊を中東にふたたび投入しないこと
を明らかにしています。

 しかしそれでも、アメリカのオバマ大統領は、

 「 ”有志連合” がイスラム国を壊滅させ、アルカイダの場合と同じよう
に幹部たちを探しだして鉄槌を下す」と強調しました。



 しかしながら、

 これに対してヨーロッパ諸国の一部からは、懸念する声も出ています。

 たとえばイギリス、フランス、ドイツの高官は、足並みをそろえるように、

 イラクでこれまでより各勢力を取り込んだ新政権ができ、スンニー派
の隣国がイスラム国と対立するための包括的戦略に取り組もうとする
前に、

 西側諸国が「有志連合」を宣言することへの、不安感を表明しているの
です。



 このため、

 「有志連合」が、イスラム国の打倒に向けた戦略を確立するまでには、

 まだ今後、しばらくの時間がかかりそうです。


              * * * * *


 申し訳ありませんが、この続きは次回でレポートしたいと思います。



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