原発が攻撃される危険性 7
                            2014年7月20日 寺岡克哉


 2011年7月31日付け(今から3年前)の朝日新聞の報道によると、

 1984年(今から30年前)に外務省が極秘に、日本国内の原発が
軍事攻撃を受けた場合の被害予測
を行っていました。



 外務省は当時、

 1981年にイスラエルが、イラクの研究用原子炉施設を爆撃(注1)
した事件を受けて

 日本国際問題研究所(財団法人)に、想定される原発への攻撃や、
被害予測の研究を委託したのです。



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注1 イラク原子炉爆撃事件:

 イスラエルが1981年の6月7日に、イラクのタームズにあった原子力
施設を空爆した事件。

 908キログラムの爆弾を2発ずつ搭載した、イスラエル空軍のF16戦
闘機8機が、護衛のF15戦闘機6機を伴ってイラク領内に侵入し、

 16発の爆弾を投下して、原子炉を完全に破壊しました。

 このとき使用された爆弾は、まったく誘導装置がない「自由落下型」の
爆弾であったにもかかわらず、投下した16発のうち、14発が原子炉を
直撃しています。

 翌6月8日にイスラエル政府は、空爆を認めたうえで、イラクが核武装
する前に先制攻撃したものであり、
 また、原子炉の稼働後に攻撃したのでは、「死の灰」を広い範囲に降ら
せる危険があったために実行したと明言しました。
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 さて、

 朝日新聞が入手した、日本国際問題研究所が1984年の2月にまとめ
た報告書によると、

 「原発への攻撃」については、以下の3つのシナリオを挙げています。



シナリオ1 全電源喪失(福島第1原発の事故と、ほぼ同じシナリオ)

 送電線と設備破壊、原発内の電気、冷却機能の破壊 ⇒ 緊急炉心
冷却システムも働かずメルトダウン ⇒ 放射性物質が大気中に放出。


シナリオ2 格納容器破壊

 爆撃で格納容器や冷却装置が破壊 ⇒ メルトダウンが起こり、ただち
に放射性物質が大気中に放出。


シナリオ3 原子炉の直接破壊(最悪のシナリオ)

 誘導型爆弾などで格納容器、原子炉が破壊、炉心も爆破 ⇒ 炉心の
一部が飛散、燃料棒の温度上昇。



 さらに報告書では、

 上の3つのうちで「シナリオ2」についてのみ、「具体的な被害予測」を
行っています。



 その方法は、

 特定の原発を想定せず、日本の原発周辺の人口分布とよく似たアメリ
カの原発の、安全性評価レポートを参考にして、

 放射性物質の放出量は、福島第1原発事故の100倍以上を想定し、

 さまざまな気象条件のもとで、死者や患者数などの被害予測を行って
います。



 その結果は、

 緊急避難を全くしなかった場合は、急性死亡(注2)が最大で1万8000
人、急性障害が最大で4万1000人。

 風下約16キロ圏内の住民が、1~5時間以内に避難した場合は、急性
死亡が最大で8200人、急性障害が最大で3万3000人。

 長期的影響としては、がん死亡が最大で2万4000人、人間が住めなく
なる「居住制限地域」が最大で87キロ圏内。

 などと、なっています。



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注2 急性死亡:

 通例では、被ばく後およそ2ヶ月以内の死亡を、「急性死亡」として
います。

 被ばくした人の50%が急性死亡するような、そんな量の放射線を
被ばくした場合、
 主な死因となるのは、骨髄の傷害による免疫機能不全のために起こ
る、出血および感染症です。
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 ところが!

 外務省の担当課長は、「反原発運動への影響を勘案」するとして、
この報告書に「部外秘扱い」と明記し、

 50部限定で外務省内だけに配り、首相官邸や原子力委員会にも
提出せず


 「原発施設の改善」や「警備の強化」に活用されることは、全くありませ
んでした。



 朝日新聞の取材にたいして、東京工業大学の二ノ方寿(にのかた 
ひさし)教授(原子炉安全工学)は、

 「日本では(原発)反対運動につながることを恐れ、テロで過酷事故が
起こることはあり得ないとされた」

 「攻撃もリスクの一つとして認め、危険性や対策について国民に説明
すべきだ」

 と、話しています。


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 以上、ここまで見てきて、私は思ったのですが、


 まず驚いたことは、イスラエルが1981年に、イラクの原子炉を爆撃
したとき、

 まったく誘導装置がない「自由落下型」の爆弾であったにもかかわら
ず、投下した16発のうち14発も原子炉を直撃していたことです。

 その頃から、すでに33年が経過している現在では、

 「レーザー誘導爆弾」や「GPS誘導爆弾」などが広く使われるように
なっているため、

 もしも原発が爆撃されたら、ほとんど間違いなく、原子炉が直撃されて
しまうでしょう。



 また、これも驚いたことに、日本政府(外務省)は30年も前から、

 原発が攻撃される危険性や、全電源が喪失すればメルトダウンが
起こることを、十分に知っていたのです。


 それを、反原発運動の拡大を恐れて「隠ぺい」していたとは、何という
ことでしょう。



 しかも、東京工業大学の二ノ方 教授が明かしていますが、

 日本では、反原発運動につながることを恐れて、テロで過酷事故が起こ
ることは「あり得ない」とされていたとは、

 なんと非論理的で、非常識で、無責任な話でしょう。

 もしも原発が「テロ攻撃」を受けたら、「想定外」などと言い訳をして、
最初から「責任逃れ」をするつもりだったのでしょうか。



 今後、「集団的自衛権の行使」が容認されるようになれば、

 「原発が攻撃される危険性」が、これまでよりもさらに増加するのは、火を
見るより明らかです。それは絶対に間違いありません。

 二ノ方 教授が話しているように、

「(原発への)攻撃もリスクの一つとして認め、危険性や対策について国民
に説明すべきだ」

 というのは、まったくその通りです。



 「地震」や「津波」などの危険性と、

 「テロ攻撃」や「軍事攻撃」の危険性とでは、

 一体、どちらが本当に大きいのかを、はっきりさせるべき時に来ているの
です。



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