誤移送事件の不可解な点
2014年5月18日 寺岡克哉
福島第1原発で、使う予定がなかった仮設ポンプ4台が動き、
本来の移送先とは異なる「焼却工作建屋」という場所に、およそ203トン
の「高レベル汚染水」を誤移送した事件。
この事件について調べてみると、ものすごく「不可解な点」がありました。
じつは、その「不可解な点」については、
なにが何やら、さっぱり訳が分からなかったので、これまで言及を避けて
いました。
しかし、このまま無視することも出来ないので、
一体どんな点が不可解なのか、「不可解なまま」に書いておきたいと思った
のです。
* * * * *
まず、誤移送事件についての第1報。
「報道各位一斉メール 2014年 福島第一原子力発電所 集中廃棄物処理
施設焼却工作建屋への意図しない滞留水の移送について 平成26年4月14
日 東京電力株式会社」 という資料によると、
(4月13日の午後に)現場状況を確認したところ、焼却工作建屋地下1階の
全域(焼却建屋:約23m×約40m×深さ約20cm、工作建屋:約19m×約
57m×深さ約5cm)に滞留水が広がっていることが確認されました。
焼却工作建屋については、通常時において滞留水を貯留していないこと
から、プロセス主建屋内の滞留水が焼却工作建屋内に流入したことにより、
建屋床面に汚染した水が広がったものと判断しています。
プロセス主建屋内の滞留水については、4月8日の分析結果から、
セシウム134が、1リットルあたり1000万ベクレル
セシウム137が、1リットルあたり2700万ベクレル
と、なっています。
つぎに、
「報道各位一斉メール 2014年 福島第一原子力発電所 集中廃棄物処理
施設焼却工作建屋への意図しない滞留水の移送について (続報2) 平成26
年4月14日 東京電力株式会社」
という資料によると、焼却建屋と工作建屋に溜まった汚染水の深さは、それ
ぞれ以下のようになっています。
・焼却建屋:深さ約18cm(※) 確認時間4月14日 午後0時15分
※詳細に測定し、約20cmから約18cmと評価を修正。
・工作建屋:深さ約5cm(変化なし) 確認時間4月14日 午後0時15分
つぎに、
「原子力規制委員会 特定原子力施設監視・評価検討会(第20回)資料4
−2 福島第一原子力発電所 集中廃棄物処理施設焼却工作建屋への滞留
水の誤った移送について 平成26年4月18日 東京電力株式会社」 という
資料の15ページ目によると、
滞留水の推定量は、合計で約203m3(@+A)
@焼却建屋:約165m3(約918m2×18cm)
A工作建屋:約38m3(約759m2×5cm)
焼却工作建屋の滞留水における水質調査結果(4月15日採取)は、
@焼却建屋
セシウム134が、1リットルあたり540万ベクレル
セシウム137が、1リットルあたり1400万ベクレル
全βが、1リットルあたり5000万ベクレル
塩素が400ppm
A工作建屋
セシウム134が、1リットルあたり8万6000ベクレル
セシウム137が、1リットルあたり23万ベクレル
全βが、1リットルあたり250万ベクレル
塩素が1200ppm
と、なっているのですが、ここで訳が分からなくなります!
つまり、
焼却工作建屋に移送さる前の、もともと「プロセス主建屋」に溜まっていた
汚染水の、放射性セシウムの濃度は、
セシウム134が、1リットルあたり1000万ベクレル
セシウム137が、1リットルあたり2700万ベクレル だったのに、
その汚染水が焼却建屋に移送されると、放射性セシウムの濃度が
およそ半分になり、
工作建屋では、プロセス主建屋にくらべて、放射性セシウムの濃度が
およそ100分の1にも小さくなっているのです。
これらの点は、「ものすごく不可解」だと言わざるを得ません!
つぎに、
「原子力規制委員会 特定原子力施設監視・評価検討会(第21回) 参考4
福島第一原子力発電所 集中廃棄物処理施設焼却・工作建屋等への滞留水
の誤った移送について 平成26年5月2日 東京電力株式会社」
という資料の1ページ目には、
仮設ポンプ停止後の現場確認において、焼却・工作建屋に203m3(焼却
建屋:約165m3、工作建屋:約38m3)の滞留水があることを確認(その後
の調査で工作建屋への移送がなかったことを確認)と、あります。
また、おなじ資料の11ページ目には、
書類調査やヒアリングの結果、焼却・工作建屋に立ち入った東電社員が、
下記の水位があることを確認しているとあります。
<焼却建屋>
・平成24年5月30日: 膝位(20〜30cm)程度
・平成25年4月 1日: 45cm程度
・平成26年2月24日: 膝上(50〜60cm)程度
<工作建屋>
・平成25年12月30日: 5cm程度
しかしここでも、まったく訳が分からなくなります!
つまり、これまで焼却建屋の水位は、4月14日の詳細な測定により18cm
だとしていたのに、
ここでいきなり、すでに2月24日の時点で、焼却建屋の水位が50〜60cm
程度あったとしているのです。
この点も、「ものすごく不可解」だと言わざるを得ません!
* * * * *
以上ここまで見てきて、一つ分かったのは、
工作建屋に溜まっていた深さ5cmの水の、放射性セシウムの濃度が低かっ
たのは、
平成25年12月30日の時点から、工作建屋の水位が約5cmと変わってお
らず、「工作建屋への誤移送はなかった」ことが確認されているので、
「もともと溜まっていた汚染水」の濃度が、その程度だったのでしょう。
ところが一方、
報道各位一斉メールの第1報で、「焼却工作建屋については、通常時におい
て滞留水を貯留していない」としており、
また、報道各位一斉メールの続報2では、「詳細に測定した結果、焼却建屋
の水位は約18cm」としていたのに、
原子力規制委員会の第21回検討会では、「平成26年2月24日の時点で、
焼却建屋の水位が50〜60cm」と、報告しているのです。
そしてまた、第20回検討会の報告では、
プロセス主建屋の汚染水が、焼却建屋に移送されると、放射性セシウムの
濃度がおよそ半分に下がること。
さらには、
焼却建屋に溜まっている汚染水の、全β(ストロンチウム90などベータ線を
だす放射性物質)の濃度が、
1リットルあたり5000万ベクレルという、とても高いレベルになっていること。
これらの点は、まったく不可解であり、
東京電力による報告や説明の、「真摯(しんし)さ」が疑われるところです。
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