誤移送に対する調査結果
2014年5月11日 寺岡克哉
本サイトの「エッセイ635」でレポートしましたが、東京電力は4月14日。
福島第1原発の汚染水処理で、使う予定のない仮設ポンプ4台が動き、
移送先とは異なる「焼却工作建屋」と呼ばれる建屋の地下に、
およそ203トンの「高レベル汚染水」が流入したと発表していました。
この「事件」にたいして、東京電力は5月2日。
その後の調査結果をまとめて、原子力規制委員会に報告しました。
ところで、この事件の最大のポイントは、
「悪意を持って故意に」仮設ポンプを動かしたのか(放射能汚染テロ)、
「ただ単に間違って」仮設ポンプを動かしたのか(ヒューマンエラー)
という点です。
そのような点に注目しながら、
東京電力が、原子力規制委員会に提出した、「調査資料の抜粋」を
以下で見て行きましょう。
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特定原子力施設監視・評価検討会(第21回) 参考4
福島第一原子力発電所 集中廃棄物処理施設焼却・工作建屋等への
滞留水の誤った移送について 平成26年5月2日 東京電力株式会社
調査結果(一覧) (5ページ目)
項目 調査内容 調査結果
@仮設ポンプ起 関連する建屋水位デー プロセス主建屋及びサイトバン
動時期の推定 タから、仮設ポンプの カ建屋の水位が急上昇し始めた
起動時期を推定 平成26年3月20日12時以降
に仮設ポンプの電源が入った
可能性が高いと推定
Aヒューマンエ a.ヒアリングおよび当該 仮設ポンプの電源が入れば今回
ラーの可能性 設備設置当時の資料 の誤移送が発生する環境、スイッ
調査 チの誤認による誤操作の発生しや
すい環境であること、
b.分電盤の設置建屋 仮設ポンプの推定起動時期(平成
(プロセス主建屋および 26年3月20日)において、プロセ
焼却・工作建屋)に入域 ス主建屋及び焼却・工作建屋の双
する作業の有無を調査 方に入域する作業に従事した社員
がいることを確認
B設備状態の a.当該分電盤の回路を 当該分電盤の回路を確認し、誤動
確認 確認し、誤動作が発生 作の発生する可能性の無いことを
する可能性について調査 確認
b.有益な情報について 建屋滞留水の状況
書類調査・ヒアリング <焼却建屋>
平成24年5月30日(20〜30cm)
平成25年4月 1日 45cm程度
平成26年2月24日(50〜60cm)
<工作建屋>
平成25年12月30日 5cm程度
調査結果 Aヒューマンエラーの可能性 (9〜10ページ目)
a.当社社員を対象としたヒアリングおよび当該設備設置当時の資料調査を
行い、ヒューマンエラー発生の可能性を調査した。
その結果、今回の誤移送に関連すると思われる情報は以下の通り。
(当社社員のうち、当該設備所管部門、当該建屋所管部門、当該建屋内
設備所管部門、および運転所管部門の計94名を対象に今年3月以降の
作業状況についてヒアリングを実施。)
■当該移送ライン設置当時の弁開閉状態
●当該移送ラインは、既に建屋滞留水の移送先として使用していたプロセス
主建屋および高温焼却炉建屋に加え、サイトバンカ建屋および焼却・工作
建屋を移送先として確保するため、平成23年6月に設置したものであった。
●書類調査により、当該移送ライン設置後の弁開閉状態は誤移送発見時
(平成26年4月13日)と同様の状態であったことを確認した。
その後、当該移送ラインを使用した実績がないことから、弁開閉状態は
平成23年6月以降も変化がなかったと推測され、仮設ポンプの電源が入れ
ば今回の誤移送が発生する環境にあったものと考えられる。
■当該分電盤の作業環境
●当該分電盤には、仮設ポンプ以外にも空調設備等のスイッチが格納され
ていた。
●分電盤内のスイッチは番号管理がなされているものの、負荷機器名称等
の識別がなされておらず、スイッチの誤認による誤操作の発生しやすい
環境であった。
■当該分電盤の状態
●分電盤N−1(プロセス主建屋に設置)については、平成25年5月21日
時点(※)で2台の仮設ポンプ(CEN−AおよびCEN−B)の電源は「切」
状態であった。
(※)予備端子の有無に関する調査時に撮影した写真により確認。
b.分電盤の設置建屋(プロセス主建屋および焼却・工作建屋)に入域する作業
の有無を調査
■作業実績の有無
仮設ポンプの推定起動時期(平成26年3月20日)において、プロセス主建屋
及び焼却・工作建屋双方に入域する以下に示す作業に従事した社員のいる
ことが確認された。(ただし、操作の内容については記録が残っておらず、操作
者の記憶によるものである。)
●P/C(C)全停作業の復旧にあたり、当該分電盤の負荷(空調設備)の入操
作を実施(平成26年3月20日。なおP/C(C)受電は同日12時頃)
●当該操作にあたっては、現場にて関連書類(負荷リストおよび単線結線図)
を確認しながら操作を実施した。
なお、協力企業については、当該日においてプロセス主建屋及び焼却・工作
建屋の双方に入域する作業は確認されなかった。
推定原因と問題点 (12ページ目)
■誤移送に至った推定原因
調査結果より、誤移送に至った経緯は以下と推定した。
●当該移送ライン設置当時(平成23年6月)から弁開閉状態は誤移送発見時
(平成26年4月13日)と同様の状態で維持されており、仮設ポンプの電源が
入れば今回の誤移送が発生する環境にあったものと推定される。
●分電盤内のスイッチに識別表示がなされていないという作業環境の中、平成
26年3月20日に当該分電盤の負荷(空調設備)のスイッチを入れようとした
際に、誤って仮設ポンプ4台のスイッチを入れた可能性が高い。
■今回の事象における問題点
●当該分電盤内負荷機器が不明確であったこと
・当該分電盤内の負荷機器名称等の識別がなされておらず、スイッチの誤認
による誤操作の発生しやすい環境であった。
●使用予定のない仮設設備が、電源が入れば誤移送が発生する機器状態に
あったこと
・現状では使用予定のない仮設設備であったにも関わらず、仮設ポンプの電
源が入れば誤移送が発生する機器状態であった。
●焼却・工作建屋の水位の管理が十分でなかったことから、誤移送の確認に
時間がかかったこと。
再発防止策 (13ページ目)
今回の原因に対する対策を以下の通り実施する。
■電源盤内負荷機器の明確化
●特に重要な電源盤の負荷について、電源盤内負荷機器を明確化し、誤操作
が発生しうる環境を改善する。
■使用予定のない仮設設備の処置
●震災直後に設置した当該移送ラインのように当面使用する計画のない建屋
滞留水移送に関わる仮設設備については、ポンプの電源切り離し、または
ポンプ吐出弁閉等、誤操作等による意図しない機器の動作を防止する。
●上記措置については、設備図書(配管系統図等)に反映する。
■現在汚染水を貯留している建屋に加え、今後汚染水を移送する可能性のある
建屋(焼却・工作建屋)の水位についても水位管理を行なう。
また、今回の原因に対する対策ではないが、福島第一原子力発電所における
現場強化策として、以下の対応も検討していく。
■電源盤等の施錠管理
●作業者が安易に操作を実施しないよう、操作スイッチのある電源盤、操作盤、
制御版について、施錠管理を行なう。
■現場監視機能の強化
●特に重要な設備を配置している建屋・エリアについて、監視カメラの設置等を
行なう。
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以上について、
「誤移送の原因」に関連した部分を、分かりやすく順を追って要約すると、
およそ以下のようになります。
1.仮設ポンプに取り付けられた「弁」は、設置当時から「開かれて」おり、ポン
プの電源が入れば、いつでも汚染水が送り込まれる状態だった。
2.仮設ポンプのスイッチは、空調設備のスイッチと「同じ分電盤の中」にあり、
しかもスイッチには(番号がついていたが)装置の名称はついておらず、スイッ
チの入れ間違いが発生しやすい状況だった。
3.誤移送の影響を受ける建屋の「水位の分析」から、3月20日の12時以降
に、仮設ポンプの電源が入った可能性が高いと推定される。
4.一方、上の推定日とおなじ3月20日に、(仮設ポンプのスイッチと同じ分電
盤の中にある)空調設備のスイッチを入れた「社員」がいる。(分電盤に電力が
送られたのは、同日の12時頃。
5.上の「社員」は、関連書類(負荷リストおよび単線結線図)を確認しながら、
スイッチを入れる操作を行なった。
(ただし、操作の内容については記録が残っておらず、この社員の記憶による
もの。)
6.これらのことから、誤移送の原因特定には至らなかったが、3月20日に
空調設備のスイッチを入れようとした際に、誤って仮設ポンプのスイッチを入れ
た可能性が高いと推定される。
ここまで見てきて、私は思ったのですが・・・
この「誤移送事件」の最大のポイントは、
「悪意を持って故意に」仮設ポンプを動かしたのか(放射能汚染テロ)、
「ただ単に間違って」仮設ポンプを動かしたのか(ヒューマンエラー)
という点でした。
しかしながら、そのどちらであるかを判断する「いちばん肝心なところ」の、
分電盤内にあるスイッチの操作内容については、記録が残っておらず、
スイッチを操作した「社員の記憶のみ」に因(よ)っています。
この社員は、
関連書類(負荷リストおよび単線結線図)を確認しながら、スイッチの操作
を行なったとしていますが、
しっかりと確実に、すごく自信がある「十分な確認作業」を、行なったのでしょ
うか?
それとも、たとえば激務や疲労などが重なって、とても自信がない「不十分
な確認作業」を、行なってしまったのでしょうか?
そのどちらかによって、この事件にたいする印象が、ずいぶん変わってくる
でしょう。(もしも、スイッチの確認作業が確実なら、他の者による犯行の可能
性が大きくなります。)
なので、
この社員が、「実際の言葉」として、一体どのような証言をしたのか?
また、証言するにあたって「背後から何らかの圧力」などは、かかっていな
かったのか?
という辺(あたり)を、はっきりと明確にしてもらいたいところです。
しかし東京電力は、恐らく、そんなことは絶対にやらないでしょう。
なぜなら、このたびの「調査結果」について、日本経済新聞が以下のように
報道していたからです。
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日本経済新聞(2014年5月2日 21時30分) からの抜粋
東電は2日、調査結果をまとめ、原子力規制委員会に報告した。建屋で作業
していた社員が空調などの設備を動かそうとした際、誤ってポンプのスイッチを
入れた可能性が高いという。
東電は作業関係者がポンプを故意に動かした可能性も含めて調査したが、
「総合的に(操作ミスの)可能性が高いと判断した」(幹部)として、原因を特定
しないまま事実上調査を終えた。
規制委も、「これ以上調査しても誤操作か悪意があったのか結論は出ない。
有効な対策は取られている」(更田豊志委員)として報告を了承した。[共同]
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