STAP細胞の最終報告
                              2014年4月6日 寺岡克哉


 理化学研究所は3月31日付けで、「研究論文の疑義に関する調査
報告書」というのを発表しました。

 これは、

 同研究所の小保方(おぼかた)晴子さんを中心とした研究チームが、
イギリスの科学誌ネイチャーで発表した、

 「STAP(刺激惹起性多能性獲得)細胞」の論文に出された「疑義」に
たいする、最終調査報告書です。

(以下ここでは、3月31日付け「研究論文の疑義に関する調査報告書」
を、「最終報告書」と呼ぶことにします。)



 ところで、

 ネイチャーで発表された2編の論文の中に、「研究不正(※1)」として
疑われた場所が、全部で6ヶ所ありました。

 それらに対して、このたびの最終報告書では、

 1ヶ所が、「捏造(※1)」にあたる研究不正、

 もう1ヶ所が、「改ざん(※1)」にあたる研究不正、

 残りの4ヶ所は、「研究不正ではない」と結論されています。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
※1 研究不正:

 理化学研究所の「科学研究上の不正行為の防止等に関する規定
(平成24年9月13日規定第61号)」の第2条−2によると、「研究不正」
を以下のように定義しています。


第2条−2
 この規定において「研究不正」とは、研究者等が研究活動を行う場合
における次の各号に掲げる行為をいう。ただし、悪意のない間違い及び
意見の相違は含まないものとする。

(1)捏造  データや研究結果を作り上げ、これを記録または報告する
       こと。

(2)改ざん 研究資料、試料、機器、過程に操作を加え、データや研究
       結果の変更や省略により、研究活動によって得られた結果
       等を真正でないものに加工すること。

(3)盗用  他人の考え、作業内容、研究結果や文章を、適切な引用
       表記せずに使用すること。
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 上で挙げた2ヶ所の研究不正のうち、いちばん深刻なのは、「捏造に
あたる」と結論された箇所です。

 なので本サイトでは、そこの部分に的を絞って、レポートしたいと思い
ます。



 しかしながら、最終報告書をいくら読んでみても、何となく釈然としない
所が多々ありました。

 だから、私の不十分な理解の下で、文章を分かりやすく書き直すという
のは止めて、

 最終報告書の原文をそのまま紹介し、それに対する私の疑問や、注釈
を付け加えることにしたいと思います。



 なので、これから以下の文章においては、

 ●をつけた文は、報告書の原文。

 ☆をつけた文は、それに対する私の疑問。

 ※をつけた文は、注釈とします。


               * * * * *


●調査対象項目(1−5)


●笹井、小保方両氏(※2)から、以下の修正すべき点が見つかったとの
申し出を受け、この点についても調査した。論文1(※3):Figure2d、2e
(※4)において画像の取り違えがあった点。また、これらの画像が小保方
氏の学位論文に掲載された画像と酷似する点。

※2 調査対象者の論文投稿時と発表時の所属・職は次のとおり:
 笹井芳樹 投稿時:発生・再生科学総合研究センター(CDB)器官発生
研究グループ・グループディレクター。発表時:CDB副センター長。
 小保方晴子 投稿時:CDBセンター長戦略プログラム 細胞リプログラ
ミング研究ユニット・研究ユニットリーダー。発表時:同上。

※3 論文1: 報告書では、ネイチャーで発表された2編の論文において、
 Obokata et al., Nature 505:641-647(2014)を「論文1」、
 Obokata et al., Nature 505:676-680(2014)を「論文2」と呼んでいます。

※4 Figure2d: 上段3枚、下段3枚の、計6枚の画像。
    Figure2e: 上段3枚、下段3枚の、計6枚の画像。


               * * * * *


●調査結果


●2月20日に笹井氏と小保方氏より、修正すべき点についての申し出と
これに関する資料の提出を受けた。申し出の内容は、論文1の脾臓の造血
系細胞から作成したSTAP細胞からの分化細胞ならびにテラトーマ(※5)
の免疫染色データ画像(※6)の一部(Figure2d下段中央の1枚とFigure
2e下段の3枚)が、実際には骨髄の造血系細胞から作成したSTAP細胞を
用いた画像であること、正しい画像に訂正することを考えているという2点で
あり、提出された資料はこれらの画像ファイルであった。小保方氏から、
それぞれの実験の過程で、脾臓及び骨髄に由来する血液細胞のサンプル
に対し、いずれもhemato (hematopoietic :血液系の意味)というラベルを
用いていたために混乱が生じ、同氏において画像の取り違えをしてしまった
との説明を受けた。

※5 テラトーマ: STAP細胞の移植で出来た奇形腫、一種のがん。

※6 免疫染色: 抗体を用いて実験サンプル中の抗原のみを検出する手法。
抗体による抗原の認識反応は本来目に見えませんが、これを目に見える
ように可視化し、特定の物質のみを検出するために発色反応を組み合わせ
たことから、一般的に「免疫染色」と呼ばれています。



●その後、論文1の画像は、小保方氏の早稲田大学における学位論文に
掲載された画像と酷似することが判明した。上記の申し出の際、これらの
図が小保方氏の学位論文に掲載されたデータから得られたものであるとの
言及はなかった。

●笹井氏と小保方氏の両氏より、学位論文のデータは、学術雑誌への
投稿論文に使用することが可能と理解していたため言及する必要は
ない
と考えていたとの説明を受けた。

☆学位論文のデータは、学術雑誌への投稿論文に使用することが可能と
理解していたため言及する必要はない・・・ 
 これが言及しなかった理由として通用するとは、私には思えません。意図
的に隠蔽したとしか思えません。



●論文1では生後1週齢のマウスの脾臓由来細胞を酸処理することにより
得られたSTAP細胞が用いられているが、他方、学位論文では生後3ないし
4週齢の骨髄由来細胞を細いピペットを通過させる機械的ストレスをかける
ことにより得られたsphere細胞(球状細胞塊形成細胞)が用いられており、
実験条件が異なる。

小保方氏は、この条件の違いを十分に認識しておらず、単純に間違
えて使用してしまったと説明した。


☆実際に実験を行なった本人が、実験条件の違いを十分に認識していな
かったなどとは、とうてい考えられません。



●論文1の画像を解析すると学位論文と似た配置の図から画像をコピー
して使用したことが認められた。

●また論文1の画像は、2012年4月にNature誌に投稿したものの採択
されなかった論文にすでに使用されており、その論文においては、学位論文
に掲載されている機械的ストレスによって得られたsphere細胞からの分化
細胞の免疫染色画像3枚と、テラトーマのヘマトキシリン・エオジン染色画像
3枚(※7)、並びに免疫染色データ画像3枚に酷似した画像が使用されて
いたことを確認した。

※7 ヘマトキシリン・エオジン染色: (HE染色)は組織学で組織薄片を
みるのによく使われます。ヘマトキシリンは青紫色の色素で、エオジンは
赤〜ピンクの色素。それぞれの組織がもつ特性によって、青く染まる組織
と、赤く染まる組織に分かれます。



●小保方氏は、その後Nature誌に再投稿するにあたり、酸処理により得ら
れたSTAP細胞を用いた画像に一部差し替えを行なっているが、その際
にも、この画像の取り違えに気付かなかったと説明した。


☆なぜ、このときに画像の取り違えに気付かなかったのか、ものすごく不可
解です。



●委員会では、実験ノートの記述や電子記録等から、上記各画像データ
の由来の追跡を試みたが、3年間の実験ノートとして2冊しか存在して
おらず、その詳細とは言いがたい記述や実験条件とリンクし難い電子記録
等からこれらの画像データの由来を科学的に追跡することは不可能で
あった。

☆学位論文や投稿論文に使った画像データの由来が分からないなんて、
普通では、まったく信じられないことです。



●笹井氏は、2月20日の委員会のヒアリングの数日前に小保方氏から
画像の取り違え等について知らされ、論文を訂正するための正しいデー
タを至急取り直すことを小保方氏に指示したと説明した。

●実際に、訂正のために提出されたテラトーマに関する画像の作成日の
表示は2014年2月19日であった(※8)。

※8 テラトーマに関する画像:
 最終報告書に関連した、「研究論文の疑義に関する調査報告書(スラ
イド)」という資料の12ページ目に、
 「テラトーマに関しては2012年7月に得られたデータもあるが、HE染色
と同じテラトーマを用いてデータを取り直した」と、あります。

☆2012年7月の時点で、いちおう正しいデータが存在していたのに、なぜ
それを論文1で使わなかったのか、ものすごく疑問に感じます。



●笹井氏から、学位論文は投稿論文に使用できると認識していた、正し
いと思われるデータが得られたことから、学位論文の画像が使用され
ていた件については委員会のヒアリングでは言及しなかった
が、この点
については深く反省しているとの説明を受けた。

☆この、すごく怪しげな言い訳が、はたして通用するのでしょうか?

☆学位論文が投稿論文に使用できると認識していたからと言って、実験
条件の違う画像を、流用してよい訳がありません。

☆正しいと思われるデータが得られたのなら、なおさら、学位論文の画像が
使用されていたことを、委員会のヒアリングで言及するべきだったでしょう。


               * * * * *


●評価(見解)


●小保方氏が学位論文の画像に酷似するものを論文1に使用したものと
判断した。

●データの管理が極めてずさんに行なわれていたことがうかがえ、由来の
不確実なデータを科学的な検証と追跡ができない状態のまま投稿論文に
使用した可能性もある。

●しかしながら、この2つの論文では実験条件が異なる。酸処理という極め
て汎用性の高い方法を開発したという主張がこの論文1の中核的なメッセー
ジであり、図の作成にあたり、この実験条件の違いを小保方氏が認識して
いなかったとは考えがたい。


●また、論文1の画像には、学位論文と似た配置の図から切り取った跡が
見えることから、この明らかな実験条件の違いを認識せずに切り貼り
操作を経て論文1の図を作成したとの小保方氏の説明に納得すること
は困難である。


●このデータはSTAP細胞の多能性(※9)を示す極めて重要なデータで
あり、小保方氏によってなされた行為はデータの信頼性を根本から壊すもの
でありその危険性を認識しながらなされたものであると言わざるを得ない。
よって、捏造にあたる研究不正と判断した。

※9 多能性: 身体を構成するすべての種類の細胞に分化する能力。



●小保方氏は、客員研究員として若山研在籍時、またその後もチーム
リーダーとしてテラトーマ作成の実験を行なっており、若山氏(※10)は、
所属する研究室の主宰者として、またこのような実験を指導する立場で
ともに研究を行なっていた者として、これらのデータの正当性、正確性、
管理について注意を払うことが求められていた。

●笹井氏についても、本論文執筆を実質的に指導する立場にあり、デー
タの正当性と正確性を自ら確認することが求められていた。

●もとより、両氏は、捏造に関与したのではなく、データの正当性等につい
て注意を払わなかったという過失によりこのような捏造を許すこととなった
ものであるが、置かれた立場からしても、研究不正という事態を招いたこと
の責任は重大である。

●丹羽氏(※10)は、論文作成の遅い段階でこの研究に参加したもので
あり、画像データの抽出等には関与しておらず、不正は認められなかった。

☆ここら辺の件(くだり)は、捏造への関与を、小保方さん1人だけに押し
付けているようにも感じられます。

※10 調査対象者の論文投稿時と発表時の所属・職は次のとおり:
 若山照彦 投稿時:CDBゲノム・リプログラミング研究チーム・チーム
リーダー。発表時:国立大学法人山梨大学 生命環境学部生命工学科 
発生工学グループ 若山研究室・教授、独立行政法人理化学研究所・
客員主管研究員。
 丹羽仁史 投稿時:CDBセンター長戦略プログラム 多能性幹細胞研究
プロジェクト・プロジェクトリーダー。発表時:同上。



●なお、上述のとおり、画像の取り違えに関する笹井氏らの当初の説明
には、不十分なものがあった。このような行為は委員会の調査に支障を
きたす恐れがあり、真摯な対応が求められるところである。

☆画像の取り違えに関する笹井さんの説明は、上でも書いたように
「すごく怪しげ」です。

☆これを、「真摯な対応が求められるところである」で、済ませてしまって
よいものでしょうか?

☆笹井さんの説明には、ただ単に「不十分なものがあった」というレベル
ではなく、それよりもっと意図的な「隠蔽の画策」が感じられてなりません。


               * * * * *


 以上が、

 「捏造」にあたる研究不正とされた、調査対象項目(1−5)についての
記述です。

 ちなみに、小保方さんは、

 このたびの最終報告書にたいして、以下のようなコメント(全文)を出して
います。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   「調査報告書に対するコメント」   平成26年4月1日 小保方晴子

 調査委員会の報告書(3月31日付け)を受け取りました。驚きと憤りの
気持ちでいっぱいです。特に、研究不正と認定された2点については、理化
学研究所の規定で「研究不正」の対象外となる「悪意のない間違い(※1)」
であるにもかかわらず、改ざん、ねつ造と決め付けられたことは、とても
承服できません。近日中に、理化学研究所に不服申立(※11)をします。
 このままでは、あたかもSTAP細胞の発見自体がねつ造であると誤解
されかねず、到底容認できません。

(1−2) レーン3の挿入について(※12)
 Figure1iから得られる結果は、元データをそのまま掲載した場合に得ら
れる結果と何も変わりません。そもそも、改ざんをするメリットは何もなく、
改ざんの意図を持って、Figure1iを作成する必要は全くありませんでした。
見やすい写真を示したいという考えからFigure1iを掲載したにすぎません。

(1−5) 画像取り違えについて
 私は、論文1に掲載した画像が、酸処理による実験で得られた真正な画像
であると認識して掲載したもので、単純なミスであり、不正の目的も悪意も
ありませんでした。
 真正な画像データが存在していることは中間報告書でも認められています。
したがって、画像データをねつ造する必要はありません。
 そもそも、この画像取り違えについては、外部から一切指摘のない時点
で、私が自ら点検する中でミスを発見し、ネイチャーと調査委員会に報告した
ものです。

 なお、上記2点を含め、論文中の不適切な記載と画像については、すでに
すべて訂正を行い、平成26年3月9日、執筆者全員から、ネイチャーに対し
て訂正論文を提出しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



※11 不服申立:
 理化学研究所の「科学研究上の不正行為の防止等に関する規定(平成
24年9月13日規定第61号)」の第18条によると、
 「研究不正を行なったと認定された被通報者又は通報が悪意に基づく
ものであったと認定された通報者は、通知を受けた日から起算して10日
以内に、研究所に対し不服申立てをすることができる」とあります。

※12 レーン3の挿入:
 本サイトでは扱いませんでしたが、論文1の中で、最終報告書が「改ざん」
にあたる研究不正と認定した箇所です。


               * * * * *


 以上、ここまで見てきましたが、

 小保方さんの、「言動の不可解さ」や「ずさんなデータ管理」については、

 私にも思うところが多々あるのですが、このさい措(お)いておきます。



 このたび、

 最終報告書と、その関連資料を読んでみて、まず私がいちばん指摘した
いと思ったのは、

 Figure2d: 上段3枚、下段3枚の、計6枚の画像。
 Figure2e: 上段3枚、下段3枚の、計6枚の画像。

 これら合計で12枚の画像のうち、8枚は、もともと「真正な画像データ」で
あったことです。



 また、捏造とされた4枚の画像のうち、

 Figure2e下段の3枚(テラトーマに関する画像)については、

 2012年7月の時点(つまり、ネイチャーに論文が掲載される以前の、
捏造疑惑が発覚する前の時点)で、

 いちおう「真正な画像データ」が、すでに存在していました。



 そして残り1枚の、Figure2d下段中央の画像についても、

 2013年2月20日には、「真正な画像データ」が調査委員会に提出され
ています。



 つまり、

 「真正な画像データ」なんか存在しないので、偽の画像データを捏造した
のではなく、

 「真正な画像データ」が存在するわけです!



 なので、やはり、

 STAP細胞の発見そのものが、まったくの捏造だったという証拠は、

 まだどこにも存在しないというのが現状でしょう。




 おそらく理化学研究所も、私と同じように考えているはずです。

 なぜなら、その証拠に、

 これから1年ほどかけて、「STAP現象の厳密な検証」を実施する
ですから・・・ 



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