フランジ型タンクの放射線損傷
2014年3月9日 寺岡克哉
前回でレポートしました、
H6エリアという場所に設置されたタンクから、「高レベル汚染水」が
溢(あふ)れ出した事故について、
それを引き起こした「不可解な弁の操作」が、作業員のミスなのか、
あるいは故意に実行されたものなのか、
いま現在でも、まだ調査結果が出ていません。
これがもし、「故意に実行されたこと」ならば、まさしく「放射能汚染テロ」
であると、言わざるを得ません。
だから、この件を「うやむや」にすることは絶対に許されないのです!
なので一刻も早く、真相を究明しなければなりません。
* * * * *
ところで・・・
私が以前に書いた、2013年9月8日付けの「エッセイ603 大量流出
の時限爆弾」で、
フランジ型のタンク(鋼板を「ボルト締め」にして作ったタンク)において、
その接合部分に使われている「樹脂性パッキン」の、放射線損傷に
ついて言及しましたが、
以下に、その部分を抜粋してみます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
2013年9月8日付 エッセイ603 大量流出の時限爆弾 からの抜粋
たとえば、パッキンの「放射線損傷」を考えに入れると、「フランジ型」の
タンクの寿命は、さらに短くなってしまうのでは、ないでしょうか。
つまり、1リットルあたり8000万ベクレルという、ものすごい放射能をもつ
「高レベル汚染水」が、
水漏れを防ぐための「樹脂製のパッキン」を、放射線で侵食しながらタンク
の外側へ外側へと滲(し)み出していき、
思ったよりもずっと短時間のうちに、パッキン全体をぼろぼろに損傷させて
しまうのでは、ないでしょうか。
その昔、シリコン半導体における「放射線損傷」の研究(注1)に携わった
ことのある私には、そのようなことが、ものすごく気になってしまいます。
注1: いちおう、学術誌に掲載された論文もあります。
Katsuya Teraoka et al.
"Radiation damage test of position sensitive silicon detectors"
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A324
(1993)276-283
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
その後・・・ 最近になって東京電力も、
「パッキンの放射線損傷」を、気にしているらしいことが推察できる資料
を見つけました(注2)。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
注2: 福島第一原子力発電所 汚染水問題に対する予防的・重層的な
追加対策 平成26年2月20日 東京電力株式会社
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
この資料によると、
ボルト締めタンク(フランジ型タンク)の、底面における漏水対策の1つ
として、
「タンク底板内面の、フランジ部(ボルト締め付け部)に、シーリング材
を充填する」と、いうことが検討されています。
そして、
そのシーリング材(シリコン系の樹脂)の「適用条件」の1つとして、
耐放射線性が、3MGy(メガグレイ)であるということが、挙げられている
のです。
この、3MGy(メガグレイ)の耐放射線性というのは、
たとえばタンクに貯蔵する濃縮塩水の表面放射線量を、毎時1シーベルト
(毎時1000ミリシーベルト)と想定し、ベータ線が優位であり、影響は限定
的だとすると、
フランジ型タンクにおける適用年数が、30年以上であるとしています。
東京電力は、
そのような「耐放射線性」をもつシーリング材を使った補修を、今年の
4月から開始することを目標にしていますが、
このことから察すると、
これまで、フランジ型タンクの放射線損傷、つまりパッキンの放射線
損傷については、あまり考慮されていなかったのではないかと思われ
ます。
* * * * *
ところで、
フランジ型のタンクに使われている「パッキン」には、「放射線損傷」の
他に、
酸素や塩素、その他の「化学物質」による腐食、
ボルトで締め付けられた圧力による「塑性化」(パッキンが押しつぶされ
て変形したまま、元の形にもどらなくなり、弾力性を失う現象)、
鋼板に直射日光が当たることによる「高温」など、さまざまな「劣化要因」
があります。
これら、
さまざまな劣化要因の上に、さらに「放射線損傷」も加わり、
それらの「相乗効果」によって、パッキンがダメージを受けていくの
です。
さらには、
気温変化などによるフランジの熱膨張や収縮に加えて、タンクの水圧が
かかることにより、パッキンの位置がズレてしまうこと(注3)。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
注3:
これは、2013年8月20日に、H4エリアのタンクから300トンの高レベ
ル汚染水が流出した事故(INESレベル3)における、主原因であると推定
されています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
そしてさらには、タンクの構造全体の問題として、
土台が傾いていたり、地盤が沈下していく中で、タンク内に大きな
水圧がかかることによる、
タンクの「歪み」や、「ストレス」の発生。
以上のように、
フランジ型のタンクには、「不安要素」がたくさんあるのです!
* * * * *
こんな状態の中で、
もしも、ちょっと大きめの「地震」が来たら、一体どうなってしまう
のでしょう?
「パッキンの劣化」に加えて、タンク全体に「歪み」や「ストレス」が
生じている状態の中で、
その上さらに、「地震による揺れ」に襲われ、
フランジ部(ボルト締め付け部)に、ほんの1ミリでも隙間ができて
しまったら、
「高レベル汚染水」が流出してしまうのです!
このように見てくると、
「フランジ型タンク」というものは、つなわたり的な「危険な感じ」がして、
どうしようもなくなってきました。
目次へ トップページへ