冷凍食品に農薬が混入!
2014年1月12日 寺岡克哉
大変な事件が発生しました!
マルハニチロホールディングスの子会社である「アクリフーズ」の冷凍
食品に、「マラチオン」という農薬が混入されたのです。
マルハ側が「自主回収」の対象にしたのは、一般消費者向け49商品と、
業務用45商品の、合計640万パックにも上ります。
農薬混入の可能性がある商品が、こんなに大量に、日本全国に流通して
しまったわけです。
これまでの最新状況は、
マルハニチロホールディングスとアクリフーズによると1月11日。
商品の回収率が想定している640万パックの、およそ52%となったこと
を明らかにしています。
また、厚生労働省によると1月11日の午後5時現在。
健康被害の疑いがあるとして各自治体が公表した事例が2040件で、
合計2466人に上っています。
しかしながら、嘔吐や腹痛などの症状と、商品の因果関係は不明であり、
自治体による検査で、これまでに結果が判明している550個の商品に
ついては、農薬が検出された例がありませんでした。
* * * * *
ところで、
マルハニチロホールディングスは、「工場内の薬剤や原材料を調べた
が農薬は検出されなかった」と説明しており、
警察は、何者かが農薬を意図的に混入したとみて捜査をしています。
このように、
何者かによって農薬が混入されたとすれば、それは間違いなく「犯罪」
であり、
マルハニチロホールディングスと、その子会社であるアクリフーズは、
「被害者」であると言えます。
また、
これまでの各自治体による検査では、食べ残しなど550個の商品を
調べたにもかかわらず、
農薬が検出されないというのも不可解な話です。
しかしながら、
このたびの事件に対する、マルハ側の対応にも、
まったくもって、「見過ごすことの出来ない過失」がありました。
以下、それについて、見ていきたいと思います。
* * * * *
まず1つ目の過失は、農薬混入の公表が遅れたことです。
アクリフーズの商品を巡っては、昨年の11月13日に消費者から
「異臭がする」などの苦情が寄せられていましたが、
原因物質が特定できず、12月29日に公表するまで、1ヶ月半も
経っているのです。
マルハ側は、消費者庁に対して、
「複数の製造ラインの商品について苦情があり対応が遅れた」
「異臭に着目した結果、農薬の検査が後回しになってしまった」
などと説明しています。
が、しかし、
はたしてマルハ側に、「隠蔽体質」などが無かったのかどうか、
ものすごく疑われるところです。
* * * * *
そして2つ目の過失は、農薬の毒性を「過小評価」したことです。
マルハ側は当初(12月29日)、
農薬の濃度が15000ppmと最も高かった「冷凍コロッケ商品」に
ついて、
「体重20キログラムの子供が60個食べないと(中毒症状は)発症
しない」と、説明していました。
それが後になって(12月31日)、
「子供が1個の8分の1を食べると、吐き気や腹痛を起こす恐れが
ある」と、訂正したのです。
60個から、8分の1個への訂正というのは、
農薬の毒性を、およそ500分の1にも低く見積もっていたことになり
ます。
( 60÷(1/8) = 60÷0.125 = 480 )
なぜ、こんなことが起こったのでしょう?
その経緯(いきさつ)は、だいたい次のようです。
マルハ側は当初、農薬(マラチオン)の毒性を、
「実験で投与した動物の半分が死ぬ量」を基準として、
体重1キロあたり、1グラムで計算していました。
ところが厚生労働省が、「この基準を使うのは不適切である」として、
マルハ側を指導し、
健康に悪影響を及ぼさないと推定される限度量(急性参照用量)を
基準にするように求めたのです。
この基準だと、
体重1キロあたり、2ミリグラム(1ミリグラムは1000分の1グラム)
となります。
つまりマルハ側は、農薬(マラチオン)の危険摂取量について、
体重1キロあたり2ミリグラムと、しなければならないところを、
体重1キロあたり1グラム(1000ミリグラム)と勝手に独断し、
毒性を500倍も低く見積もっていたわけです。
ちなみに、
「実験で投与した動物の半分が死ぬ量」というのは、「半数致死量」
と言われるもので、「致死量」の1つの表し方です。
だから、このような「致死量」を基準に発表するならば、
「体重20キログラムの子供が60個食べないと(中毒症状は)発症
しない」ではなく、
「体重20キログラムの子供が60個食べたら、100人中50人
が死亡する」と、しなくてはならないのです。
マルハニチロホールディングスの久代社長は、12月31日の記者
会見で、
「毒性に対する判断基準が甘かった。消費者の皆様に大きな誤解を
与えたことを深くおわびする」と陳謝しました。
また、同社の佐藤・品質保証部長は、
「急性参照用量の知識がなかった。事前に厚労省や県にも相談して
いない。完全に失念していた」と説明しています。
* * * * *
以上、ここまで見てきて、私は思うのですが・・・
もしも、厚生労働省からの指導がなかったら、
おそらくマルハ側は、毒性の過小評価にたいして、訂正する
つもりは無かったでしょう。
そうなれば、ものすごく大変なことになっていました!
「毒性に対する判断基準が甘かった」 ???
「消費者の皆様に大きな誤解を与えた」 ???
冗談ではありません!
60個食べないと中毒症状が発症しないのなら、1個や2個ぐらい食べ
てしまったとしても、まったく大丈夫だと判断してしまうでしょう。
しかし実際は、1個でも食べてしまったら、ほぼ確実に中毒症状を発症
してしまうのです
これは重大な過失です!
「急性参照用量の知識がなかった」 ???
「事前に厚労省や県にも相談していない。完全に失念していた」 ???
完全にふざけています!
たとえば私のような、まったくのド素人なら、いざ知らず、
つね日ごろから、原材料に含まれる「ごく微量の残留農薬」でさえも、
細心の注意を払わなければならない食品加工の専門集団が、
「急性参照用量」の知識を、持っていないわけがありません。
少なくても、
現場で「農薬検査」を行ない、その毒性を評価している実際の担当者で
さえ、急性参照用量の知識が無かったなどとは、
いくら何でも、とうてい信じることはできません。
だから、これは恐らく、
現場の担当者から提出された、急性参照用量を基準にした毒性評価を、
会社の上層部の人間が「にぎりつぶした」としか思えません。
そして、事前に厚労省や県にも相談していないのは、
もしも相談すれば、「急性参照用量を基準にせよ」と言われるのに決まっ
ているから、「故意的に」完全に失念していたとしか思えないのです。
さらには、
農薬混入の発表が、1ヵ月半も遅れたことを考え合わせると、
どうもマルハ側の対応には、ものすごく胡散臭(うさんくさ)さが
漂(ただよ)っており、
このままでは、心から信頼することが、まったく出来ない状況である
と言えるでしょう。
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