COP19
                            2013年12月1日 寺岡克哉


 11月30日。

 フィリピンの国家災害対策本部は、台風30号による死者が5632人
になったと発表しました。

 行方不明者は1759人、負傷者は2万6000人を超えています。

 被害を受けた住宅はおよそ115万軒に上り、そのうちの半数が全壊
しました。

 さらには、依然として350万人以上の人々が、避難所や屋外での生活
を余儀なくされています。

 一刻も早い復旧と、犠牲になられた方々のご冥福を、心からお祈り
します。



 一方、日本政府も11月30日。

 レイテ島とサマール島に在留届を出している日本人133人の、全員
の無事を確認したと発表しました。

 これほどの大災害にもかかわらず、邦人の犠牲者が1人も出なかった
のは、ほんとうに不幸中の幸いです。


              * * * * *


 さて、前回の記事でも取り上げましたが、

 11月11日〜23日にかけて、ポーランドのワルシャワでは、

 COP19(国連気候変動枠組み条約 第19回締約国会議)が開かれ
ていました。



 じつは、このCOP19で「最大の焦点」になっていたのは、

 2020年以降に、(途上国・新興国をふくむ)すべての国が、温室効果
ガスの削減に参加する「新たな国際枠組み」を、

 2015年に採択するのに向けて、(各国が削減目標をだす時期などの)
今後の作業計画を決めることでした。



 ところが、

 COP19が開始された直後から、温室効果ガスの排出削減をめぐり、

 先進国と、途上国・新興国が、激しく対立してしまったのです。



 つまり、

 中国やインドなどの途上国・新興国は、

 温室効果ガスを排出してきた歴史的経緯がある、先進国の方が大きな
責任を負うべきだと主張したのに対し、

 一方の先進国側は、

 二酸化炭素排出量は中国が1位(※注1)であり、インドが4位になって
いることを指摘したうえで、途上国も応分の責任を負うべきだと主張した
のです。


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※注1:
 オランダ環境評価庁が、10月31日に発表した報告書によると、

 2012年の二酸化炭素排出量は、1位の中国が99億トンで、2位
アメリカの52億トンにくらべて、1.9倍にもなっています。

 つまり中国は、およそ「アメリカ2つ分」の二酸化炭素を排出して
いるわけです。
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 以上のような、

 途上国・新興国と、先進国との対立は、とても激しいものでした。


 そのため、

 COP19最終日の11月22日には、「交渉が決裂する危機」に陥った
ほどです。


 しかしながら、

 11月22日までの会期を、23日まで延長する措置をとることで、かろ
うじて「合意文書」が採択されました。



 その合意内容を簡単にまとめると、およそ以下のようになっています。


・2020年以降の「新たな国際枠組み」の発効に向けて、2015年末の
 COP21で合意することを確認。

・2015年末のCOP21よりも十分早い時期に、すべての国が、温室
 効果ガス排出量の、「自主的な削減目標」を用意する


・可能な国は、2015年の1月〜3月に目標を公表する。

・先進国は2014年の早い時期に、新興国や途上国に目標設定の
 ための資金を支援する。


              * * * * *


 ところが・・・ 上の合意内容には、大きな問題点があったのです。



 まず第一に、

 このたびのCOP19では、各国の「自主的な削減目標」の案について、

 互いに妥当かどうか事前に評価したうえで確定する方法を軸に、
議論が進められてきました。

 しかし、中国やインドなどから強い反対を受けたため、「事前の相互
評価」については、合意が見送られてしまったのです。

 これについて、「十分な対策ができない恐れがある」と指摘する専門
家もいて、

 ほんとうに実効性がある温暖化対策を進めることが出来るかどうか、
その疑念が払拭(ふっしょく)できない状況のままになっています。



 そして第二に、

 各国が提出する温室効果ガスの「削減目標」について、

 当初の合意文書案にあった、「コミットメント(必達目標)」という義務的
な意味合いが強い表現を、

 最終的には「コントリビューション(貢献)」という、拘束力のない緩やか
な表現に修正してしまいました。

 これも、先進国と同じような厳しい削減目標を避けたいと考えている、
中国やインドなどが主張したためです。



 このように、

 事前の「相互評価」もなく、また、各国が独自に緩やかな削減目標を
決めるだけの方式では、

 「産業革命以降の、世界の平均気温上昇を2℃未満に抑える」という
国際目標が、

 ほんとうに達成できるのかどうか、はなはだ疑問だと言わざるを得ま
せん。


              * * * * *


 ところで・・・ 

 このたびのCOP19では、世界各国から「日本への非難」も相次ぎました。



 なぜなら日本は、

 温暖化対策として、2020年までに温室効果ガスの排出量を、2005年
に比べて3.8%削減すると、世界に向かって表明したからです。

 この「2005年比3.8%削減」というのは、1990年比にすると3.1%
の増加に当たり、

 これまでの「2020年までに1990年比25%削減」という目標にくらべる
と、28.1ポイントもの「大きな後退」になるのです。



 このことについて、

 海面上昇で国土が水没の危機に直面しているフィジーの代表は、
 「日本など先進国が以前に約束したとおりに温室効果ガスの削減を進め
ていないことに失望している。先進国が削減目標を引き下げた初めて
の会議だ
」と、強く批判しました。

 EU(ヨーロッパ連合)の代表も、
 「今回の会議では2020年までの削減目標も大きな焦点となっている。
日本のあらたな目標は各国の取り組みを前進させようという会議の議論
に明らかに逆行するものだ」と、指摘しています。

 中国政府の代表は、「落胆を言い表すことができない」と述べており、

 ブラジルの代表は、
 「先進国の一部の国がこれまでの目標を撤回したことを注視する必要
がある」と述べ、日本がこの問題により野心的に取り組むよう働きかけて
いくとしています。



 このように日本が、

 温室効果ガス削減目標の「引き下げ」を世界に向かって表明したこと
で、地球温暖化対策の「交渉の停滞」を招いたことは、けっして否定でき
ません。

 なぜなら中国やインドなどの新興国は、自国の削減強化を約束させら
れるのを避けるために、先進国の責任を強調しており、
 そのような新興国に、「取り組みが不十分な先進国の行動が先決だ」
と主張させる、口実を与えてしまったからです。

 ある日本政府高官は、温暖化の影響を受けやすい小島嶼(しょうとう
しょ)国の代表から、
 「日本の目標後退が、新興国に居直る口実を与えてしまった」と言われ
たといいます。

 また、温暖化の防止に向けた国際交渉に詳しい、名古屋大学大学院の
高村ゆかり教授も、
 大幅に後退した日本の削減目標が、COP19の交渉に与えた影響に
ついて、
 「先進国の責任を強調する途上国のグループから、2020年以降の対策
を進めないための、言い訳として使われた感がある」という、認識を示して
います。


               * * * * *


 ところで私も、

 このたびのCOP19については、いろいろと思うことがあるのですが、

 それについては、次回でお話したいと思います。



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