温暖化被害を国際社会が認める
2013年11月24日 寺岡克哉
11月22日。
フィリピン国家災害対策本部は、台風30号による死者が5209人に
達したと発表しました。
行方不明者は1611人、負傷者はおよそ2万3500人に上っています。
全壊・一部損壊を合わせた住宅被害は108万戸を上回り、依然として
433万人以上が避難生活を余儀なくされています。
犠牲者は、レイテ島やサマール島など、フィリピン中部に集中しており、
被災状況の確認や復旧作業が遅れているうえに、衛生状態が悪化して
いるため、被害はさらに拡大する恐れがあります。
邦人の安否については、外務省が11月23日に、
レイテ島とサマール島に在留届を出している日本人133人のうち、
130人の無事を確認したと発表しています。
しかしながら、なお3人の日本人の安否が分かっていません。
* * * * *
ところで、
ポーランドのワルシャワで開かれている、COP19(国連気候変動
枠組み条約 第19回締約国会議)では、
このたびのフィリピンの台風被害を受けて、途上国から地球温暖化
対策を求める声が相次いでおり、
温暖化による悪影響の緩和や、対策を実施する資金や技術などの
提供を、先進国に求めています。
たとえば11月12日の会合では、
途上国グループを代表したフィジーが、「我々は気候変動の影響に
直面している。フィリピンでは過去に比べて巨大な台風の影響を受けて
いる」と指摘しました。
また、小島嶼国(しょうとうしょこく)を代表するナウルも、「フィリピンの
被害が示したように、温暖化の影響は現実に起きている」と強調してい
ます。
そして先進国にたいし、気温上昇を抑えるための資金や技術供与を
求めました。
また、事務レベルの協議では、11月15日までの時点において、
ブラジルが「先進国が温暖化ガスを排出してきた責任を評価するべき
だ」と発言し、
太平洋などの島嶼国(とうしょこく)連合は、「温暖化の責任が最も小さい
国々が最も影響を受ける」などと訴え、
資金や技術などの支援を、先進国に要求しました。
* * * * *
ところで、前回のエッセイ613でも話しましたが、
11月11日の、COP19初日の会合で、フィリピン政府代表団のナドレブ・
サニョ交渉官は、
フィリピンの台風被害の悲惨さを強調し、涙ながらに温暖化対策の交渉
を進展させるように訴えました。
そして11月12日には、
「本国(フィリピン)で食料を求めて苦しんでいる人たちとの連携」のため
ハンガーストライキに入ると宣言し、
「会議で成果が出るまでは何も口にしない」として、ハンストを続けてい
ます。
これを受けて、
国際的な環境NGOが、交渉の進展を求める署名をインターネットで募っ
たところ、
サニョさんの発言に共感して署名した人が、これまでに60万人を突破した
として、
日本時間の11月19日夜に、サニョさんがNGOのメンバーと会見を開き
ました。
この中でサニョさんは、
「たくさんの人たちが連帯の気持ちを示してくれたことにとても感謝して
いる」と喜びを語ったうえで、
温暖化が原因とみられる異常気象により、被害を受けた途上国を支援
する「新たな組織の設立」について、
今回の会議で合意するように訴えています。
また、環境NGOによると、
今回、COP19に参加しているメンバーで会議の期間中、
サニョさんの発言に共感してハンガーストライキを行なっている人は、
100人以上に上るということです。
* * * * *
ところで、従来の温暖化対策の議論は、
温室効果ガスの排出を削減して温暖化を予防するという、「緩和策」と
呼ばれるものと、
堤防などのインフラ整備や、温暖化に強い農作物を品種改良によって
作るなどの、「適応策」と呼ばれるもの、
これら2つが中心となっていました。
ところがCOP19では、
フィリピンが台風の直撃で甚大な被害を受けたことをきっかけに、
「損失と被害」と呼ばれる、第3の概念が急浮上してきました。
これは、「緩和策」や「適応策」で防ぎきれない損害にも対処するべき
だという考え方で、
海面上昇や水害、干ばつなどの被害を受けやすい島嶼(とうしょ)国
などの途上国が強調しているものです。
「損失と被害」の議論については、途上国と先進国の対立が激しく、
じつは前回のCOP18で、決裂寸前にまで追い込まれています。
しかしながら土壇場で、「COP19で制度的な取り決めを行なう」という
ことで、やっと妥協がなされたのでした。
しかしCOP19でも、11月18日までの事務レベル協議においては、
130ヶ国以上の途上国が、被害などを受けた国を財政や技術的な面
で支援するための、保険や損害補償制度も含めた「新たな国際機関」を
創設するように主張しているのに対し、
先進国は、すでに国際的な災害支援・救助の仕組みがあることなどを
指摘して、新たな財政負担につながりなねない「国際機関の創設」には
反対しており、
双方の意見の隔たりは、依然として大きなものになっていました。
そんな状態だったのですが、
11月22日には状況が一変して、「損失と被害」に対処する「新たな
国際機関」を創設する方向で最終調整に入り、
COP19最終日の11月23日に、「ワルシャワ国際メカニズム」と呼ぶ
新たな機関を設置することに決まりました。
この新設される国際機関は、科学的情報の収集や、既存の国際機関
との連携などにあたるほか、途上国への資金・技術面での支援を担い
ます。
* * * * *
以上、ここまで見てきて、私は思ったのですが、
途上国の訴えが認められて、「ワルシャワ国際メカニズム」の設置が
決まったのは、とても嬉しい誤算です。
しかしながらこれは、
「緩和策」と「適応策」では防ぎきれない、「損失と被害」がすでに
生じていることを、国際社会が認めたことに他なりません。
つまり、
地球温暖化による異常気象で、すでに被害が生じていることは、
世界中が認める事実となったわけです!
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