猛烈な台風がフィリピンを直撃
2013年11月17日 寺岡克哉
11月8日。
猛烈な台風30号が、フィリピンを直撃し、甚大な被害が発生しました。
日本の気象庁によると、
この台風30号は、11月7日の午後9時には中心気圧が895ヘクト
パスカルまで発達し、今年に発生した台風の中で、最も勢力が強いもの
となりました。
中心付近の最大風速(注1)は65メートル、最大瞬間風速(注2)は
90メートルで、中心から半径130キロ以内は、風速25メートルの暴風
が吹いています。
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注1 最大風速:
気象情報などで「風速○メートル」と言う場合は、10分間の平均風速
を指すのですが、
「最大風速」とは、その10分間の平均風速で、最大の値のことです。
注2 最大瞬間風速:
一瞬、一瞬の、そのつど測定される風速を「瞬間風速」といいますが、
「最大瞬間風速」とは、その瞬間風速において、最大の値のことです。
なお、一般的に、
瞬間風速は、平均風速の1.5倍から2倍近い値になります。つまり
「25メートルの暴風の恐れがある」と言った場合、瞬間風速では50メー
トル近い風が吹く可能性がありますので、注意が必要です。
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突風の被害に詳しい、東京工芸大学の松井教授は、
「最大瞬間風速90メートルは、昨年5月に茨城県つくば市で発生した
竜巻に匹敵する風の強さで、飛んできた小石や木の破片がぶつかった
だけで大けがをする」と、話しています。
後日(11月11日)。
米軍合同台風警報センターが、台風30号がフィリピンに上陸した際の
最大風速を秒速87.5メートル、最大瞬間風速を秒速105メートルと
算定していることが分かりました。
英紙ガーディアンによると、米軍合同台風警報センターが観測したのは
上陸の3時間前だとしています。
その後も勢いがほとんど弱まらなかったことが、衛星のデータによって
確認されており、上陸時の風速も同程度と算定しました。
専門家は、「上陸した台風の中では、史上最強クラスだ」としています。
* * * * *
このような、
史上最強クラスの猛烈な台風による暴風雨と、数メートルに達する
高潮のために、
ものすごく大きな被害が出ました。
フィリピンの国家災害対策本部によると、11月14日までに、
死者2357人、負傷者3804人、行方不明者77人、被災者800万人、
避難所で生活している人が53万人、13万棟の家屋が全壊としています。
被災地では、水や食料が不足しているほか、遺体の確認作業が大幅
に遅れていて、被害者はさらに増える可能性があります。
被災した市や町、集落はおよそ7500に上り、広い範囲に及んでいる
ため、依然として要員や車両などが足りておらず、
すべての地域で物資の配給などの支援活動が本格化するには、まだ
かなりの時間がかかるとしています。
これまでの最新情報としては、
フィリピンの国家災害対策本部によると、11月16日の午後6時(日本
時間 午後7時)現在で、
死者3637人、行方不明者1186人となっています。
また、日本の外務省によると、
フィリピン中部のレイテ島とサマール島に在留届を出している日本人
133人のうち、
11月16日現在で、92人の無事が確認されていますが、残り41人の
安否は不明となっています。
しかしながら、日本に帰国するなど転出時に在留届をそのままにして
おくケースもあるため、
在留届を出した日本人の全員が、台風被害時に現地にいたかどうか
は不明です。
ちなみに、無事が確認された日本人のうち26人は、すでにフィリピンを
出国したといいます。
* * * * *
壊滅的な被害を受けたレイテ島では、水や食料が極度に不足している
ため、商店などから略奪をする住民が絶えない状況です。
11月12日には、略奪被害が町の商店からショッピングセンターにも
拡大し、略奪目的の住人らが、店の前に列をなす状態だといいます。
11月13日には、レイテ島の中心都市タクロバン近郊で、警官や兵士が
警備する政府管理の倉庫が大勢の住民に襲撃され、12万9000袋(1袋
50キロ)に上る米袋が強奪されました。
その際に、一部の壁が崩壊し、8人が押しつぶされて即死したといい
ます。
このような治安の悪化や、道路の寸断などで、輸送手段が確保できず、
世界各国から到着した医療チームの活動が妨げられる事態となってい
ます。
日本の国際緊急援助隊も11月13日。レイテ島の西側のオルモック
からタクロバンに向かいましたが、
治安状況を見極めるためにいったん、中部にある町まで引き返すという
状況に直面しています。
(しかし11月14日の夜には、国際緊急援助隊医療チームの本隊22人
が、タクロバンに到着しています。)
フィリピンの国家災害対策本部によると、11月15日現在。
食料を必要としている住民は250万人ですが、これまでに配られた
非常事態用の簡易食料は40トンだといいます。
(250万人に対して40トンだと、仮に1人あたりに換算すれば、たった
16グラムでしかなく、食料が圧倒的に足りない状況です。)
* * * * *
ところで!
猛烈な台風の発生と、地球温暖化は、決して無縁ではありません。
なぜなら地球温暖化によって、海水の温度が高くなれば、どうしても
台風を猛烈に発達させてしまうからです。
「高い海水温」は、台風が発達するための「エネルギー源」となって
いるのです。
ポーランドのワルシャワで開かれている、COP19(国連気候変動
枠組み条約 第19回締約国会議)において、
フィリピン政府代表団のナドレブ・サニョ交渉官が、11月11日に
演説し、
通常与えられる3分間の発言時間を大幅に超過して、17分間にも
わたり、フィリピンの台風被害の悲惨さを強調しました。
「(サニョ交渉官の)兄はこの3日間、何十人もの遺体を埋めた」
「温暖化を疑う人は、今起きている現実を見てほしい。狂った状況を
止めよう」
「祖国(フィリピン)を襲った極端な異常気象は狂気だ。私たちでなけ
れば、誰がいつ地球温暖化を食い止めるのか」
「私は、もはや声を上げられなくなった多数の犠牲者の代わりに訴え
ている」
と、サニョ交渉官は涙ながらに、温暖化対策の交渉を進展させるよう
に訴えたのです。
また、ナドレブ・サニョ交渉官は11月12日。
「本国(フィリピン)で食料を求めて苦しんでいる人たちとの連携」のため、
ハンストに入ると宣言しました。
サニョ交渉官は、ハイエン(台風30号)の被害について、
「わが国は、多大な努力をして台風の襲来に備えたにもかかわらず、
その威力はあまりにも巨大だった」
「台風に慣れた国にとっても、ハイエンはかつて経験したことのないもの
だった」と、語っています。
ハンストは、12日間の日程で開かれるCOP19の会期中、「有意義な
結果が見えてくる」まで続ける意向です。
サニョ交渉官はCOP19で、地球温暖化に懐疑的な説を唱える陣営に
たいし、
洪水やハリケーンや火災に見舞われている、「地域の現実」を直視する
ように促しています。
そして、「それでも足りないというのなら、フィリピンで起きた事実を見て
ほしい」と呼びかけているのです。
フィリピンは、2012年にも台風「ボーファ」で、それまでの同国史上
最大規模の被害が出たばかりです。
サニョ交渉官は、2012年に開かれたCOP18でも、その実態を指摘
していました。
「それから1年もたたないうちに、さらに大きな台風が来るとは想像でき
なかった」と、サニョ交渉官は語り、
自分はフィリピンの代表団だけでなく、「台風で命を落とし、もう自分では
発言できなくなってしまった数え切れない人たち」を代弁していると訴えて
います。
* * * * *
以上、見てきて私は思うのですが・・・
温暖化懐疑論者が、いくら、うそぶいても、
異常気象による大災害を、実際に受けている発展途上国の人々は、
それが「地球温暖化の影響」であることを、すでに確信しているみたい
です。
なので、
温暖化対策にたいして、もしも先進国の対応が悪ければ、
(つまり先進国が、温室効果ガスの削減に積極的でなかったり、途上
国への資金援助や技術支援が不足したりすれば)
発展途上国の人々の、ものすごく大きな「怒り」と「憎しみ」を、買うこと
になるでしょう。
そしてさらに、もしも、そうなってしまったら
それが「国際的なテロの温床」になってしまう可能性があることも、
けっして否定できないと思います。
もはや、地球温暖化対策をサボることは絶対にできません!
世界的な治安の悪化を防ぐためにも、
温暖化対策が、今後ますます重要になっていくのは、まず間違いない
でしょう。
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