被災者の全員帰還を断念
                          2013年11月10日 寺岡克哉


 どうやら、政府と自民党は、

 福島第1原発事故で避難している人々の「全員帰還」を、諦(あきら)め
たみたいです。


 これまで歴代の政権は、

 被災者の全員帰還を目指し、「周辺住民が帰還するまで原発事故との
闘いは終わらない」(当時の野田佳彦首相)などと説明してきました。


 しかし、この、

 歴代の政府が原則としてきた「被災者の全員帰還」を、断念する
ことになったのです。



 その経緯は、およそ以下のようになっています。


                * * * * *


 10月30日。

 自民党は、原発事故の放射能汚染により、長期間にわたって帰還が
困難な区域(年間積算放射線量が50ミリシーベルトを超える「帰還困難
区域」)の住民にたいして、

 別の場所への移住による生活再建を、「新たな選択肢」として示すよう、
政府に提言することを決めました。

 そしてそれを、

 自民党の東日本大震災復興加速化本部が31日に決定する、「第3次
提言」に盛り込みました。



 10月31日。

 自民党の東日本大震災復興加速化本部(本部長・大島理森(ただもり)
前副総裁)は、この日に行なわれた総会で、

 福島第1原発事故からの復興に向けた「第3次提言」を了承しました。



 11月1日。

 茂木敏充・経済産業相は、この日の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三
首相)で、

 東日本大震災からの復興加速について、「これから住民の帰還を進めて
いくが、全員が帰還できるわけではない」と述べました。

 「全員帰還」の原則を断念することを、閣僚が明言した形です。



 11月5日。

 茂木・経済産業相は、閣議後の記者会見で、

 帰還を断念した住民にたいして、他の地域への移住支援策を用意する
必要があるとの考えを示しました。

 経済産業相は、「帰還までに長期間かかる方々の中には、もう戻らない、
もしくは迷っている方の割合は当然多くなる。そういうことも踏まえ、さまざま
な選択肢を用意したい」と述べています。



 同11月5日。

 参議院の経済産業委員会において、

 新党改革の荒井広幸代表が、「住民が帰還しない権利も重んじるべきだ」
と質問したのに対し、

 茂木・経済産業相は、「できる限り住民の方々の気持ちに寄り添った支援
策を充実しなければならない」と答弁し、

 帰還を断念した住民には、移住も含めた新たな支援策を講じる意向を
表明しました。


                 * * * * *


 以上のような経緯を見るかぎり、

 やはり政府と自民党は、「全員帰還」の原則を、ほんとうに断念したみたい
です。



 私は思うのですが・・・ 

 そもそも「全員帰還の原則」というのが、欺瞞に満ちているような気がして
なりませんでした。

 なぜなら私は、以下に示すように、原発事故が起こった当初から、

 人が住むことのできない「死の土地」が、出来てしまうのではないかと
考えていたからです。



 以下は、

 福島第1原発の事故発生の当初(およそ1ヶ月後)に、本サイトで書いた
記事からの抜粋です。

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(2011年4月3日付 エッセイ476「原爆40個ぶんの放射能漏れ!」
からの抜粋)


 たとえば福島第1原発から、5キロ圏内とか、もしかしたら10キロ
圏内くらいまでは、

 なかなか人が住んだり、農作物を作れるようには、ならないのでは
ないかと思います。

 とくに、「セシウム137の半減期が30年」であることを考えると、

 少なくても数10年、もしかしたら100年くらいは、人が住むことの
できない「死の土地」と、なってしまうのではないでしょうか。

 なので、

 原発事故による「残留放射能の問題」は、ものすごく深刻だと言え
ます。
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 おそらく皆さんの中にも、事故発生の当初から、上のように考えていた
方々が多かったのではないかと思います。

 しかしながら、政府の復興政策はこれまで、「全員帰還」を大前提にして
いたのです。

 その一方で、原発事故が起こった地元では、たしかに「疑いの声」もあり
ました。

 しかし、それでも政府は、「大規模な除染をして再び住めるようにする」と
言い続けてきたのです。



 ところが・・・ 

 事故発生から2年8ヶ月経った現在でも、まだ「全員帰還」のめどが立っ
ていません。

 原発事故の避難者からは、「帰還できないなら、そう決めてほしい」という
声まで上がっています。

 この事実から、これまでの政府の見通しは、あまりにも楽観的で甘かった
と言わざるを得ません。



 もしかしたら、

 人が住めない「死の土地」ができたことを、政府が認めてしまったら、

 原発の再稼動や、あるいは今後の原発推進政策にたいして、多大な
悪影響を及ぼすとでも考えていたのでしょうか。



 しかし、とにかく政府は、

 原発事故によって「人が住めない死の土地」を作ってしまった事実を、

 やっと認めたというか、認めざるを得なくなったのです。



 以前に起こった「チェルノブイリ原発事故」でも、

 「死の土地」ができて、大量の移住者を出しました。



 このように、

 ひとたび大規模な原発事故が起これば、

 人が住んでいた土地、住み慣れた故郷を、「壊滅」させてしまうの
です!




 ただでも国土が狭い日本には、もうこれ以上、絶対に、「死の土地」を
作るわけにはいきません。

 しかも、「地震の巣」に位置しており、「活断層」が縦横無尽に走っている
日本では、

 もはや「脱原発」を目指していくより、仕方がないのではないかと思います。



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