信じられないミスが多発
                            2013年11月3日 寺岡克哉


 ここのところ、

 福島第1原発における作業で、「信じられないようなミス」が多発
しています!




 まず、9月27日。

 汚染水に含まれるストロンチウムなどの放射性物質を除去できる、
ALPS(多核種除去設備)の試運転を開始しましたが、

 作業員がALPS内に「ゴム製のシート」を放置したことが原因で、
1日もたたずに停止しました。



 そして10月1日。

 雨水をポンプで移送中、ホースを誤って接続し、およそ5トンの水が
タンクからあふれました。



 その翌日の10月2日。

 傾斜地に設置されたタンクに、容量を超えて雨水を移送し、およそ
430リットルの汚染水がせきの外に漏れました。



 そしてさらに、10月9日。

 原子炉を冷やす循環水から、塩分を取り除くための「淡水化装置」の
ホースを、作業員が間違って外し、


 ストロンチウムなどベータ線を出す放射性物質が、1リットルあたり
約3400万ベクレル
も含まれている「高レベル汚染水」が、およそ7トン
も漏れました。


 周囲で作業にあたっていた11人のうち、6人の身体に「高レベル汚染水」
が付着しましたが、
 それによる被曝量は、ベータ線が0.2〜1.2ミリシーベルト、ガンマ線が
0.11〜0.42ミリシーベルトでした。

 下請け会社の作業員がホースの交換作業を進めていたところ、空の
ホースと誤って通水中のものを外したため、高レベル汚染水が噴出
した
と言います。


             * * * * *


 ALPSの内部に、ゴム製のシートを置き忘れ・・・ 

 ホースを誤って接続・・・ 

 タンクの容量を超えた水の移送・・・ 

 通水中のホースを誤って外す・・・ 

 このような、「とても信じられないようなミス」が、立て続けに起こっている
のです。



 なぜ、こんなことが起きてしまうのでしょう?



 私は最近、そのような疑問を感じていた中で、ロイターによる10月24日付
の特別リポート、

 ”福島作業員を蝕む「違法雇用と過酷労働」”という記事を見つけたのです。

 それは、80人余りの作業員、雇用主、行政、企業関係者たちへ、ロイター
が行なった取材によるものでした。


             * * * * *


 その、ロイターの特別リポートによると・・・ 


 福島第1原発では、800程度の企業が廃炉作業などに従事しており、
除染作業には、さらに何百もの企業が加わっているといいます。

 現場の下請け作業員は慢性的に不足しており、あっせん業者が生活
困窮者をかき集めて人員を補充し、さらにピンハネするケースも少なくあり
ません。

 下請け企業の多くは原発作業に携わった経験がなく、一部には(暴力
団など)反社会的勢力にも絡んでいるのが実態となっています。



 つまり、

 現場の下請け作業員が、慢性的に不足していることから、

 原発に関して「まったくド素人」の下請け企業が、廃炉作業に参入して
しまったために、

 「信じられないようなミス」が多発するのではないかと、考えられるのです。


               * * * * *


 しかしなぜ、

 原発に関して「まったくド素人」の企業なのに、廃炉作業に参入すること
が可能なのでしょう?

 この疑問に対して、ロイターの特別リポートでは、以下のように説明され
ています。



 まず、緊急度が増している除染や廃棄物処理を推進する法的措置と
して、

 2011年8月30日に、議員立法による「放射性物質汚染対処特措法」
というのが交付され、

 2012年の1月1日から施行されました。



 ところが!

 厚生労働省によると、この法律は、除染作業などを行なう業者の登録
や審査を義務付けておらず、

 誰でも一夜にして、下請け業者になることが可能だといいます。



 そのため、多くの零細企業は、

 原発を扱った経験がないにもかかわらず、契約の獲得を狙って
群がるように応札し


 さらに小規模な業者にたいして、作業員をかき集めるように依頼
している
と、

 複数の業者や作業員が証言しています。



 つまり、

 多くの「素人企業」が、廃炉作業に参入している原因として、

 放射性物質汚染対処特措法という「法的な問題」が考えらるのです。


               * * * * *


 ところで、

 じつはロイターの特別リポートは、「違法雇用と過酷労働」について、

 メインに言及しています。



 今年の上半期に、福島労働局が除染作業を行なっている388業者を
立ち入り検査をしたところ、

 なんと68%にもあたる264事業者で「法令違反」が見つかり、是正勧告
をしたのです。

 違反の内容は、割り増し賃金の不払い、労働条件の不明示、作業の
安全管理ミスなど、多岐に及んでいました。



 しかしながら・・・ 

 このように劣悪で、過酷な労働環境であるにもかかわらず、

 従業員が団結して、雇用主を訴えるケースは、ほとんどありません。

 なぜなら「報復」を恐れて、沈黙してしまう被害者が多いからです。



 さらに酷(ひど)いのは、

 あっせん業者が借金返済を肩代わりし、その見返りに作業員を働か
せるという例もあるのです。

 あっせん業者に給料を中間搾取されながら、苦情を訴えることも
できず、

 肩代わりされた借金を返済するまで、働き続けなければなりません。



 かつて日雇い労働者として働き、現在は福島の労働者を保護する
団体を運営している中村さんは、

 作業員たちの多くが、原発で仕事をする以外に職を手にできる状況
にはないことを指摘したうえで、

 「訴訟を怖がっているのは、(問題作業員としての)ブラックリストに
載ってしまうという心配があるからだ」と話しています。


              * * * * *


 じつは、

 あっせん業者による、給料の横取りを防ぐために、

 雇い主と管理企業が異なるような雇用形態は、「禁止」されて
います!




 しかし・・・ 

 東京電力が、昨年に行なった調査では、

 福島第1原発の作業員のおよそ半数が、そうした状況に置かれて
いたのです。



 さらには、作業員の待遇改善が進まない背景として、

 東電自体が金融機関と合意した「総合特別事業」の下での、きびしい
コスト削減を要求されている
という現実もあります。

 東京電力は、すでに2011年の事故後に、社員の賃金を20%削減
しましたが、

 同じように、業務委託のコストも厳しく絞り込まれており、

 結果的に、人手不足であるにもかかわらず、下請け労働者の賃金
が低く抑え込まれている
という現実が生じているのです。

 ロイターがインタビューした、福島第1原発の現場作業員の日当は、

 平均で1万円前後で、一般の建設労働者の平均賃金よりも、はるか
に低くなっています!



               * * * * *


 以上、ここまで見てきましたように、

 慢性的な人手不足、素人企業の参入、 違法雇用、過酷労働、
そして低賃金
・・・ 


 これらの悪条件が重なり、それが背景となって、

 最初の方で述べた「信じられないようなミス」が、多発しているのでは
ないかと考えられます。

 賃金や雇用契約の改善のみならず、「現場作業での安全」が確保され
なければ、

 廃炉や除染事業「そのもの」が、立ち行かなくなる恐れも十分にある
でしょう。


 やはり、

 こんな酷(ひど)い状況は、一刻も早く是正しなければなりません!



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