IPCC第5次報告書 その3
2013年10月27日 寺岡克哉
今回は、
IPCC第5次報告書における、「海面上昇」の将来予測について、
見ていきたいと思います。
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さっそくですが、
このたびの第5次報告書では、海面上昇について、以下のように予測
されています。
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1986〜2005年を基準とした界面水位上昇(m)
2046〜2065年 2081〜2100年
可能性が 可能性が
シナリオ 平均 高い予測幅 平均 高い予測幅
RCP8.5 0.30 0.22〜0.38 0.63 0.45〜0.82
RCP6.0 0.25 0.18〜0.32 0.48 0.33〜0.63
RCP4.5 0.26 0.19〜0.33 0.47 0.32〜0.63
RCP2.6 0.24 0.17〜0.32 0.40 0.26〜0.55
※ 「可能性が高い予測幅」は、モデル予測の5〜95%信頼区間から計算
しています。これらの幅は、さらにモデルに含まれる追加の不確実性や
確信度のさまざまなレベルを考慮した上で、可能性が高い範囲(66%
〜100%の可能性)と評価されています。
世界平均の界面水位上昇についての予測の確信度は、両方の期間
(2046〜2065年と2081〜2100年)において中程度です。
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ここで比較のために、
前回の第4次報告書における、海面上昇の将来予測についても紹介
しましょう。
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1980〜1999年を基準とした海面水位上昇(m)
2090〜2099年
シナリオ モデルによる予測幅
A1FI 0.26〜0.59
A1B 0.21〜0.48
B2 0.20〜0.43
B1 0.18〜0.38
※ モデルによる予測幅は、5〜95%の信頼区間として与えられるもの
です。
なお、この予測幅において、「将来の氷の流れの力学的な変化」は
除かれています。というのは、第4次報告書当時の、科学的な理解の
水準では、最良の推定値を求めることが出来なかったからです。
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ちなみに、上の各シナリオにおける、
2100年時点での大気中CO2濃度と、1980〜1999年を基準にした
今世紀末の気温上昇は、以下のようになっています。
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2100年時点での 1980〜1999年を基準に
大気中CO2濃度(ppm) した今世紀末の気温上昇
RCPシナリオ
RCP8.5 936 3.8
RCP6.0 670 2.3
RCP4.5 538 1.9
RCP2.6 421 1.1
SRESシナリオ
A1FI 960 4.0
A1B 710 2.8
B2 620 2.4
B1 550 1.8
※各シナリオの概要や、数値の出典については、本サイトの「エッセイ609」
を参照してください。
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さて、
上の3つの表を見くらべて、いちばん注目されるのは、
今世紀末における「気温上昇」が、第4次報告書よりも第5次報告書の
方が「小さい」にもかかわらず、
「海面上昇」は、第4次報告書よりも第5次報告書の方が「大きく」なって
いることです。
その例として、
第5次報告書の「RCP8.5シナリオ」と、第4次報告書の「A1FIシナリオ」を
比較すると、以下のようになっています。
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シナリオ 今世紀末の気温上昇 今世紀末の海面上昇
(1980〜1999年を基準) の最大値
RCP8.5 3.8℃ 0.82m
A1FI 4.0℃ 0.59m
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このように第5次報告書の方が、気温上昇が小さいにもかかわらず、海面
上昇は大きくなっているのです。
そのことに関連して、第5次報告書は以下のように記述しています。
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世界平均海面水位上昇の予測についての確信度は、海面水位変化の要因
に関する物理的理解の進展、諸仮定に基づくモデルと観測の整合性の改善、
氷床の力学的変化を考慮したことによって、第4次評価報告書以降高まって
きている。
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と、言うことなので、
第4次報告書以降の、さらなる研究の進歩によって、
それまで思っていたよりも、海面上昇が酷(ひど)くなることが判明したの
でしょう。
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また、
「南極大陸の氷床崩壊」によって引き起こされる「大幅な海面上昇」に
ついて、第5次報告書では以下のように記述しています。
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現在の理解に基づくと、世界平均海面水位の上昇が21世紀において可能
性の高い範囲を大幅に超えて引き起こされ得るのは、南極氷床の海洋を
基部とする部分の崩壊が始まった場合のみである。この追加的な寄与による
21世紀中の海面水位上昇が数十cmを超えないことの確信度は中程度で
ある。
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そしてまた、第5次報告書には以下のような記述もあります。
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RCP8.5シナリオにおいて、世界平均海面水位の2100年における上昇
幅は、0.52〜0.98mの間であり、2081〜2100年の期間の上昇率は
1年あたり8〜16mmである(中程度の確信度)。
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これらのことから、
人類が、温室効果ガスの積極的な排出削減をせず、化石燃料を使うが
ままに任せていると(つまりRCP8.5シナリオ)、
2100年の時点において、最大で0.98mの海面上昇が起こる可能性が
あります。
その上、「南極氷床の崩壊」が起これば、
1m以上の海面上昇が起こる可能性も、けっして否定できません!
ちなみに・・・ 私が持っている書籍のなかに、
「約1000ある日本の港を、1mの海面水位上昇においても機能させる
ための適応対策費は、11兆ドル(およそ1100兆円)と見積もられる」
という記述があります。
(出典: 温暖化の世界地図 近藤洋輝 訳 丸善 p65)
1100兆円の適応対策費・・・
もしも、2100年までの今後87年間に、1100兆円の対策費が必要
ならば、
1年あたりに平均すると、12兆6000億円の対策予算を組む必要が
あります。
しかも海面上昇の対策費は、港だけでなく、沿岸すべての都市に必要
なのは当然でしょう。
そうすると対策予算は、さらにもっと増えることになります。
やはり、地球温暖化による「海面上昇」は、
世界的に深刻な問題になるのは言うまでもありませんが、
日本の社会経済に対しても、かなり大きな負担を与えて行くことになる
と思います。
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