テレビ報道とタバコの害 2003年4月20日 寺岡克哉
私は、生きることを辛くさせている原因の一つに、「テレビの存在」があるのではな
いかと常々感じています。
というのは、テレビで毎日のように戦争や犯罪などの報道を見せられると、やっぱ
りだんだんと不安になり、憂鬱な気分になってしまうからです。
また、新型肺炎や狂牛病、農作物の残留農薬、食品添加物、薬害、ダイオキシン
等々の報道を見せられると、体の健康被害に対する不安が掻き立てられてしまい
ます。
テレビは、「生命の危険」に関する情報が目白押しです。そして知らず知らずの間
に、不安や恐怖を深層心理に焼きつけられてしまいます。私だけに限らず、テレビ
に不安を掻き立てられている人が、かなりいるのではないでしょうか?
私はテレビの存在が、「生命の否定」を蔓延させる原因の一つになっているような
気がしてならないのです。
テレビは、必要以上に不安や恐怖を煽り立てているように感じます。
それは、テレビは「定性的」なことばかりを強調し、「定量的」なことはあまり言及し
ないからです。
「定性的」とは、事件の性質や内容のことです。一方「定量的」とは、その事件が
どれくらいの頻度で起こっているかということです。つまり「定量的」とは、「その事件
が、自分にとってどれくらい危険であるか」という、量的なことです。
例えば、「定性的」にはどんなに残虐で悲惨な事件であっても、「定量的」にほとん
ど起こり得ない事件であれば、我々はそのような事件に不安や恐怖を掻き立てられ
る必要はないのです。
一般にテレビなどのマスコミが、「定性的」なことばかりを大げさに報道し、「定量
的」なことにあまり言及しないのは、「定量的」なことを言えば身も蓋もなくなり、興
味深さに欠けてしまうからだと思うのです。
なぜなら「定量的」な考察をすれば、タバコや酒や交通事故より危険なものは、
そんなに存在しないからです。この事実を知れば、テレビに不安を掻き立てられる
ことも少なくなると思うのです。
私は以前に、化学工業日報社の「持続可能な農業と日本の将来」という本で、以
下のようなデータを見つけました。
死因 死亡危険率 タバコを基準にした死亡危険率
タバコ(1日1箱) 1/200 1
アルコール 1/250 1/1.25
原動機付自転車 1/250 1/1.25
自動車 1/4000 1/20
自転車 1/8000 1/40
家事 1/15000 1/75
市街歩行 1/20000 1/100
エイズ 1/30000 1/150
医薬品 1/80000 1/400
発電所放射能 1/200000 1/1000
残留農薬、食品添加物 1/500000 1/2500
上の表で「死亡危険率」というのは、何人に一人がこの原因で死亡するかを示す
指標です。つまり、200人に1人がタバコが原因で死亡し、4000人に1人が自動
車が原因で死亡するという数字です。
表のいちばん右側の「タバコを基準にした死亡危険率」というのは、タバコに比べ
て、その他のものがどれくらい危険なのかを示す数字です。これは本に載っていた
訳ではなく、私が勝手に考え出したものです。
この数字によると、
自動車で死ぬ危険は、タバコの20分の1。
街を歩いていて死ぬ危険は、タバコの100分の1。
エイズで死ぬ危険は、タバコの150分の1。
医薬品で死ぬ危険は、タバコの400分の1。
原子力発電所の放射能漏れで死ぬ危険は、タバコの1000分の1。
残留農薬や食品添加物で死ぬ危険は、タバコの2500分の1です。
この、「タバコを基準にした死亡危険率」というのは、テレビなどのマスコミ
報道を定量化するのに、画期的な方法だと私は思うのです。
エイズや新型肺炎、狂牛病、残留農薬、食品添加物、原子力発電所の放射能漏
れ、薬害、環境ホルモン、通り魔殺人、テロ、その他諸々の事件や社会問題によっ
て自分が死ぬ危険度が、実感として把握できるからです。
もちろん、テレビが色々な報道をしてくれるのは良いことです。また、「タバコより死
亡率の低いものは報道価値がない!」などと、言うつもりも全くありません。タバコよ
り死亡率が低くても、社会問題として取り組むべき重要な問題は、たくさん存在する
からです。
しかし報道の最後に一言、「この問題による死亡率は、タバコによる死亡率の100
分の1です」とか、「タバコによる死亡率の1000分の1です」とか言ってくれれば良
いのです。そうすれば、その報道が自分にとってどれくらい危険なことなのかが、直
ぐに分かるのです。
現代社会で不安や恐怖が蔓延するのは、一人一人の各自が何をどれだけ心配
すれば良いのか、全く分からなくなっているからだと思うのです。つまり大量の情報
に深層心理が攪乱されて、心が不安定になっているからだと思うのです。
かく言う私も、新型肺炎や通り魔殺人やテロの方が、タバコや酒よりもずっと恐ろ
しく感じています。それが正直な心情です。
そしてこれこそが、テレビによって深層心理に植えつけられた、歪められた不安
や恐怖なのです。タバコや酒に比べれば全く恐れる必要がないのに、不安や恐怖
を感じさせられているのです。(ちなみに、私はタバコを全く吸いませんが、酒はよ
く飲みます。)
また、1998年の日本の統計では、
風呂場などで足を滑らせて転落死した人が、3053人。
浴槽内での溺死が、3178人。
階段からの転落死が、687人。
殺人、傷害致死が、1350人でした。
新型肺炎や通り魔殺人やテロなどの心配をするよりは、風呂で溺死をする心配
をした方が賢明なようです。
*(誤解を招かないようにくれぐれもお断りしますが、新型肺炎や通り魔殺人や
テロなどに対する、社会的な取り組みは絶対に必要です。)
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