再び原発がゼロに
2013年9月22日 寺岡克哉
9月15日。
国内で唯一稼動していた、大飯原発4号機(福井県おおい町、出力
118万キロワット)が、定期点検のために停止しました。
これによって1年2ヶ月ぶりに、国内の商業用原発50基がすべて
止まり、
ふたたび、原発の稼動が「ゼロ」の状態になりました!
* * * * *
この、「原発稼動ゼロの日」を睨(にら)んで、
全国各地で「脱原発」を目指す集会や、デモ行進が行なわれました。
たとえば東京では9月14日。
脱原発を望む市民や団体が、江東区の亀戸中央公園で、「再稼動
反対! 9・14さよなら原発大集会」を行ないました。
ノーベル賞作家の大江健三郎さんら知識人でつくる「”さよなら原発”
1千万署名市民の会」が、この集会を呼びかけましたが、主催者側の
発表で9000人が集まったとされています。
この集会で大江さんは、
安倍首相が東京五輪の招致演説で、福島第1原発の汚染水問題が
「コントロールされている」と述べたのに、
その後、東京電力側が「コントロールされていない」と言ったことに
ついて触れ、
「首相のウソが日本の評価にどう跳ね返るか、それを引き受けていく
のも次の世代に生きる人間。それを考え続けないといけない」と述べ
ました。
ルポライターの鎌田慧(さとし)さんは、
「15日は原発がゼロになる記念すべき日。絶対にこれ以上、再稼動を
認めないという決意の日だ」と呼びかけました。
福島第1原発の事故後、福島市から東京の練馬区へ娘2人と自主避難
してきた女性(37歳)は、
「事故で福島の友人らとの絆を壊された。福島市渡利地区では今も
除染を繰り返している」と、原発事故への怒りをにじませました。
福井県内で原発に反対する市民団体の、幹事の男性(63歳)は、
「大飯(原発)は停止するが、原発直下に活断層があるかないかで専門
家たちが議論している。市民の一部は、どちらが正しいか悩んでいる。
もし大地震があれば大変な事故が起きるとの前提で再稼動を阻止したい」
と、訴えました。
この集会後、参加者たちは、浅草方面と錦糸町方面の二手に分かれて
デモ行進しました。
また、大飯原発がある福井県では9月15日。
福井中央公園で、「もう動かすな原発! 福井集会」(同実行委員会
主催)が開かれ、主催者側の発表で800人が参加しました。
実行委員長の中嶌さん(寺の住職)は、
「今こそ ”もう動かすな原発” ”さよなら原発” の目的のもとに、手を
とりあい、大きくつながりあいましょう」と呼びかけました。
宇宙飛行士の秋山さんは、
福島で17年間営んでいた農場が原発事故で続けられなくなったと語り、
「今日ここに集まり声をあげる皆さんの輪を広げましょう。再稼動阻止の
決意を固めましょう」と訴えました。
日本共産党の井上参院議員は、
「今夜すべての原発が稼動停止します。とめたまま、すべての原発を
廃炉にして原発ゼロを実現しましょう」と述べています。
この集会後、
「もう動かすな原発」 「自然エネルギーへ転換を」などと書いたプラカー
ドや横断幕を掲げて、市内をデモ行進しました。
5歳の娘と参加した福井市の女性(34歳)は、
「福島原発事故の汚染水が海に漏れ出して、子どもの将来がどうなる
のか不安です。地震の国で原発稼動はありえません。子どものためにも、
再稼動は反対です」と語りました。
* * * * *
一方、関西電力の、豊松原子力事業本部長は9月15日。
「安全を最優先とした厳重な監視体制のもと、きょうまで運転すること
ができた。先月、管内の火力発電所がトラブルで相次いで停止するなど、
電力需給が非常に厳しい時期もあったが、大飯原発が運転を続けていた
ことで、安定的に電力を供給することが出来たと思っている」と、話してい
ます。
また、再び国内のすべての原発が停止することについては、「原子力
発電は、エネルギーの安全保障や経済性などの観点から、日本という
国が持続的に発展するために必要なものだ」と強調したうえで、
「安全確保を最優先に規制委員会からの審査に真摯(しんし)に対応し、
安全性が確認された原発は地元の理解を得ながら運転再開を進めて
いきたい」と述べました。
福井県の西川知事は、9月15日に談話を発表し、
「万全の体制で原発を管理することで、安全稼動が十分可能であること
を示した」と表明しました。さらには、「現在課題となっている各地の原発の
再稼動にも参考になる」とも述べました。
また、この談話で西川知事は、昨年の大飯3・4号機の運転再開では国
と関電に加え、県の専門職員なども参加する「特別な監視体制」で安全
確保に努めたと説明しました。
その上で、「関西地域の電力需要に不安なく応えることができた」と、
再稼動の意義を強調しています。
さらに西川知事は、「原発の安全運転と活用は、エネルギー資源に乏し
い日本が乗り越えなければならない重要かつ大きな課題」と指摘して、
エネルギー政策における原子力の位置づけを、明確にするように政府
に求めました。
おおい町の時岡町長は、
原発を再稼動させてからこの1年間について、「トラブルなく、ことしの
夏の猛暑を乗り切るために電力供給地としての責任を果たせたと思う」
と振り返りました。
また、「地元としては速やかに運転を再開することを強く望んでいる。
規制委員会にはなるべく早く審査に入ってもらいたい」と述べたうえで、
「国は新たなエネルギー政策を早期に確立し、原発のリスクに対する
一元的責任をもつという姿勢を示してもらいたい」と話しています。
おおい町に住む男性(70代)は、
「福島の現状を見ていると、福井で原発事故が起きたときに国や電力
会社が適切に対応できるか疑問だ」と、国などの危機管理について不信
感を示しました。
その上で、「地元住人の仕事や生活は、原発を運転することで成り立っ
ているので、危機管理を万全に行なったうえで運転再開してもらいたい」
と話しています。
おおい町に住む女性(60代)は、
「原発のすべてが良いというわけではないが、原発で働いている人の
生活のためには早く再開してもらいたい」と話しています。
* * * * *
以上、ここまで見てきて、私は思ったのですが・・・
たしかに、
原発の稼動がゼロになるというのは、象徴的な出来事です。
これが契機となって、脱原発への動きが加速されれば、とても良い
ことだと思います。
しかしながら、
2012年の5月5日に、北海道の泊(とまり)原発3号機が停止して、
この前の「ゼロ原発」になってから以後の様子を見てみると、
2012年の7月に、福井県の大飯原発3号機と4号機が再稼動した
ものの、
国内に50基ある原発のうち、たった2基しか稼動していなかったと
いうのは、
日本全体にとって「実質上のゼロ原発状態」だと言っても、けっして
過言ではないでしょう。
つまり、
「実質上のゼロ原発状態」が、昨年の5月から1年4ヶ月も続いて
いたにもかかわらず、
日本の社会や経済が、「壊滅的なダメージ」を受けるような事態
は、まったく発生しなかったわけです!
まず私は、そのことに非常に驚くとともに、
推進派たちによって、「原発が無ければ日本は立ち行かない」と、
いかに脅(おど)されていたのか、改めて思い出されます。
ちょっと大げさに言えば、
私たち日本国民は、「事実上のゼロ原発」を経験することによって、
すでに「新しい社会認識」に到達したわけです。
それなのに・・・ 関西電力の豊松原子力事業本部長が9月15日に、
「原子力発電は、エネルギーの安全保障や経済性などの観点から、
日本という国が持続的に発展するために必要なものだ」と強調したり
するのは、
福島第1原発の事故が起こる前の、旧態依然とした「古い社会認識」
であるような気がしてなりません。
それに、関西電力の豊松本部長は、「経済性などの観点」などと言っ
ていますが、
福島第1原発の事故によって生じた、汚染水の処理費用、除染作業
による費用、廃炉作業のための費用、
そしてさらに、汚染水処理、除染、廃炉などよって膨大に発生する
「高レベル放射性廃棄物」の、最終処分のための費用を考えれば、
「すでに原発の経済性は破綻している」と見るのが、正しい認識で
しょう。
さらに豊松本部長は、「(原発は)日本という国が持続的に発展する
ために必要」などと言っていますが、
「地震の巣」である日本において、何十基もの原発を稼動させれば、
またいつか、福島第1原発のような事故が起こる可能性を、けっして
否定できないでしょう。
もし、もういちど福島第1原発のような事故が起こったら、持続的に
発展するどころか、日本は壊滅的なダメージを受けてしまいます。
「原発の安全神話」は、もう完全に崩れ去ったのです!
これも、私たち日本人が獲得した、「新しい社会認識」だと言えるで
しょう。
そしてさらには、豊松本部長のような原発推進派たちは、
高レベル放射性廃棄物である「使用済み核燃料」の、最終処分
の問題がまったく解決されていないことに、ぜんぜん触れようとしま
せんが、
それは、ものすごく無責任な態度だと言わざるを得ません。
原発を稼動し続ければ、それだけ「使用済み核燃料」も増え続けるの
です。
それを原発推進派たちは、一体どのように解決すると言うのでしょう。
* * * * *
たしかに、
日本の原発がゼロになれば、一時的には、化石燃料への依存度
が高くなってしまうでしょう。
そしてそれは、地球温暖化や、エネルギーの安全保障にとって、
重大な問題になるのは否定できません。
また、火力発電所に過剰な負担をかけるため、トラブル発生の懸念
もあるでしょう。
しかしながら、
現在では、太陽光や風力などの「再生可能エネルギー」が、台頭し
つつあります。
そしてとくに、家庭用の「太陽光発電」の普及。
これこそが、原発に止(とど)めを刺すでしょう。
というのは、
住宅(家庭)で使用される電力は、全体の30%(2008年)であり、
かつて原発が、全体の発電量に占めた割合の29.2%(2009年
度)と、ほぼ同じだからです。
つまり、
日本の家庭すべてに太陽電池を取り付ければ、原発がゼロになっ
たとしても、化石燃料への依存度が、以前とまったく変わらないわけ
です。
しかも、家庭用の太陽光発電ならば、「送電線が足りない」とか、
「大容量の充電施設が必要」などという問題がありません。
だからそれは、技術的には、現在すでに「実現可能」になっている
のです。
やはり、「もう原発は必要ない」と言わざるを得ません!
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