東京五輪が決まったけれど・・・
                            2013年9月15日 寺岡克哉


 9月8日。

 アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれていた、IOC(国際オリンピック
委員会)の総会で、

 2020年の夏季オリンピック大会の開催都市が、「東京」に決まりました。



 まずは、

 オリンピックの「経済効果」などを考えると、

 東京五輪が正式に決定したことは、素直に喜ぶべきでしょう。



 しかしながら・・・ 

 このたびの東京五輪が決まるまでの過程で、

 東京招致委員会の武田恒和理事長や、安倍晋三首相から、

 福島第1原発の事故に関連して、かなり問題のある発言が飛び出した
のです。


              * * * * *


 まず9月4日に、

 2020年の夏季オリンピック開催を目指す、東京招致委員会の武田
理事長が、

 ブエノスアイレスで開いた記者会見で、福島第1原発の事故について、

 「東京は水、食物、空気についても非常に安全なレベル」

 「福島とは250キロ離れている」という、発言をしました。



 ところが!

 この発言について、原発事故に苦しんでいる福島県民の人々から、

 「東京が安全ならいいのか」

 「差別的だ!」

 「東京だけ安全というのはおかしい」

 「オリンピックの前に、やることがあるのではないか」

 などなどの、反発の声が出たのです。



 たとえば、福島市から東京都に自主避難している主婦(37歳)の
方は、

 「”東京は安全”と強調することは、”福島の現状はひどい”と認める
こと」

 「ならばなぜ、ひどい福島を放置してきたのか。ばかにしている」と、
憤りをみせています。


              * * * * *


 そして一方、9月7日には、

 安倍首相が、IOC(国際オリンピック委員会)の総会で、福島第1原発
の「汚染水漏れ」について、

 「状況はコントロールされている」

 「汚染水による影響は、福島第1原発の港湾内0.3平方キロメートル
の範囲内で完全にブロックされている」

 と、断言したのです。



 まったく当然のことですが、

 このような首相発言に対して、さまざまな所から批判が噴出しました。



 京都大学原子炉実験所の、小出裕章助教(原子核工学)は、

 「何を根拠にコントロールされていると言えるのかが分からない。あき
れた。安易な発言をしても、約束を破ることになるだけだ」と、厳しく批判
しています。



 東京海洋大学の、水口憲哉名誉教授は、

 「首相発言は5輪招致のための全くのでたらめ」と憤っています。

 海洋汚染に詳しい水口名誉教授は、「港湾外の水と汚染水が入れ
替わりながら外洋に流れ出している」として、

 「完全にブロック」という安倍首相の発言を否定しました。



 東京電力の、今泉典之原子力・立地本部長代理でさえ、

 1〜4号機の取水口などにはシルトフェンスと呼ばれる薄い幕が張られ
ているものの、

 港湾内の海水は毎日半分が入れ替わり、放射性物質の流出は完全
には止められないと明言しました。



 福島第1原発で収束作業に従事している、30代の男性作業員は、

 「(安倍首相が)そんなことを言ってしまって大丈夫なのか」と指摘して
います。

 地上タンクの設置に携わる作業員仲間からは、「簡単に解決しそうに
ない。深刻だよ」と、聞かされており、

 汚染水問題以外にも、敷地内では突然に放射線量が上がるなど、
細かいトラブルが絶えないといいます。

 この男性作業員は、「廃炉まで、これから何十年もかかる。(首相の)
発言には違和感がぬぐえない」と強調しました。



 福島県いわき市の漁師(62歳)は、

 「国の対策が後手後手だったから汚染水漏れは悪化した」

 「”国を挙げて応援するので安全だ”との主張には違和感がある」と
話しています。


              * * * * *


 ところで、

 オリンピックの招致に成功した東京都では、開催を見据えて都心部
の再開発が加速するため、

 大きな経済効果が期待されています。



 ところが!

 建設需要の増加によって、「東日本大震災からの復興が遅れる」
という可能性も考えられるのです。


 というのは、いま東日本大震災の被災地において、復旧・復興事業が
本格化する中で、建設資材の高騰や、人材不足が続いているからです。

 そのうえ、公共工事で応札者が決まらない「入札不調」も多発しており、
それが復興の遅れにつながっているのです。



 たとえば、岩手県・釜石市の野田市長は、

 「東京の五輪関連事業に建設業者が集まり、被災地への目がそらされ
るのではないか。非常に心配だ」と話しています。



 そして、宮城県の村井知事も、

 復興事業への影響については「資材不足になりかねない」として、

 建設資材の確保に乗り出す方針を示しました。



 また、原発事故の除染作業などに携わる、福島県の建設関係者は、

 「労務単価が高い東京に人手を取られるのでは」と警戒しています。


              * * * * *


 以上、ここまで見てきて思ったのですが・・・ 


 2020年の東京オリンピック開催を目指して、

 原発事故の収束作業や、東日本大震災からの復興が、

 確かに「加速」されるのなら、それはとても良いことだと思います。



 しかしながら、たとえば、

 被災地の復興事業を、反って遅らせたり・・・ 

 原発事故による汚染水の問題や、新たに発生したトラブルなど、
都合の悪いことを口封じしたり・・・ 

 福島の深刻な状況を訴える人々にたいして、オリンピックの足を
引っぱる者として「非国民」扱いしたり・・・ 

 さらには、そのような社会風潮が「原発推進」に利用されたり・・・ 



 あくまでも「例えば」の話ですが、もしも、そんなことになってしまっ
たら、

 東京オリンピックの開催は「害悪である」と、言わざるを得なくなって
しまうでしょう。


 そうならないようにと、心から祈るばかりです。



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